銀魂

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「お久しぶりです、鳳仙の旦那。」

入ってきた男は、サーモンピンクの髪を後ろに密編みにし笑顔を浮かべていた。
見た感じでは飄々とした、自分て同じ位の少年だ。
そして透けるような白い肌と、襖の外に見えた仲間と思われる男達から漂う幾つもの戦場を渡り染み付いたであろう血の匂いから同族である事が伺えた。

観察していると少年とパチリと目があった。
少年は目を少し開いたかた思うと、またにっこりと笑いかけてきた。

「あちゃー、先客でしたか。お邪魔でしたか鳳仙の旦那。」

「いや、気にすることはない。遠路はるばる御疲れのことだろう。座るがいい食事を用意してある。」

「わーい。それじゃあ遠慮なく。」

少年は隣に腰かけると、遊女が膳を運んできた。
少年は、いただきまーすと言うと飯が入った櫃を抱えるとガツガツと食べ始めた。
同じ夜兎でも感服する食べっぷりに驚いたがあまり気にせず自分の料理に箸を戻した。

「フッ。今日は珍しい客人が多い日よ。春雨が第七師団団長神威殿と、暗殺屋虎龍が組頭 龍麗殿。」

「んーーー。やっぱり地球のゴハンはおいしいネ。鳳仙の旦那。」

笑顔でご飯頬張る神威という男。
春雨第七師団と言えば、宇宙海賊春雨の雷槍と恐れられる最強の部隊。
この若さでその長に登り詰めたこの男はかなりの使い手なのだろう。

(……多分この男は強い。この男ならもしかすれば………。)

すると、神威はこちらに顔を向けるとケラケラと笑いながら口を開いた。

「…人が悪いですよ旦那。第七師団をつくったのは旦那でしょ。めんどくさい事は全部俺に押しつけて、自分だけこんな所で悠々自適に、こんな美少女と隠居生活なんてズルいですよ。」

(……美少女とは俺のことだろうか。)

美少女という言葉に内心ムッとしたが、龍麗は自分の容姿を理解していたのである意味間違われるのには慣れている。
すると鳳仙はフッと笑った。

「人は老いれば身も魂も渇く。その身を潤すは酒。魂を潤すは女よ。フッ、若いぬしにはわからぬか。それに、龍麗はそんな容姿ではあるがぬしと同じ男よ。」

「へぇーー、それは驚いた。あの成功率100%と言われる暗殺屋虎龍の組頭がこんな美人で若い男とは。」

「……悪かったな女じゃなくて。あんたこそ、その歳で春雨第七師団団長なんてよっぽど腕に自信があるようだね。」

目だけを神威にむけ淡々と言えば、神威は一層微笑むと身体をこちらにむけた。

「…君も相当強そうだ。旦那が気に入るのも分かります。身も魂をも潤す。旦那俺にもわかりますよ。」

鳳仙は少し意外だといわんばかりの顔をして笑った。

「ほう、しばらく会わぬうちに飯以外の味も覚えたか ククッ。酒か?女か?吉原きっての上玉を用意してやる言え。」

「そうですか………じゃあ。」

神威は立ち上がると龍麗に近づき、グッと肩を引き寄せた。

「じゃあ……この子か日輪と一発ヤラせてください。」

とんでもない事をさらりと言い放つ神威に、突然のこともあり龍麗も驚き固まってしまった。

(………こいつ、人の話を聞いていたのか。俺は男だと言ったのに、………それに日輪という名前を聞いた瞬間からお師匠様の空気が変わった。)

すると後ろの襖が開くと、先程の男達とその間に縛られた子供がいた。

「手土産もこの通り用意してあるんです。きっと喜んでサービスしてくれるでしょう。」

「………………。」

(明らかにお師匠様を挑発している。面倒なことに巻き込まれてしまったな。)

そんな事を考えながら溜め息を吐いた。

「でも、その前に。」

くるりと自分の方を向き、見つめてくる神威。

「……君に興味が湧いた。一発ヤらせてくれるまえに、俺と殺り合おうよ。」

「…何で一発ヤる前提なわけ、嫌だね面倒くさい。」

「君に拒否権なんてないよ。」

神威は拳を振り上げたかと思うと物凄いスピードでその拳は迫ってきた。
確実に殺そうとしていることは拳を見ればわかった。

(…こいつは、俺が避けられることをわかって拳を放ってきた。避けて反撃することを望んでいるんだ。身震いするほどの戦いへの執着、あの人そっくりだ。……だが、言ったはずだ面倒だって。)


ゴッ!!!!

鈍い音が部屋に響き渡った。
神威の拳の威力で遊女達は座り込み、神威と龍麗の辺りの畳は割れ土煙が二人を包んでいた。
遊女達の目には神威の拳が龍麗を確実に捕らえたように見え悲鳴をあげた。

しかし、土煙が晴れるとそこには主を守るように神威の拳を受け止め、鬼の形相で神威を睨み付ける堂惨の姿があった。

「貴様、我が主になんたる無礼万死に値する!これが春雨の礼儀か!」

「………へぇ。邪魔するなよ今いいところなんだ。」

睨み合う二人の隣で龍麗立ち上がり鳳仙の方を見据えて口を開いた。

「…今宵は美味しい食事をありがとうございました。久しぶりにお師匠様とお会いできてこの龍麗とても楽しい時間でございました。しかし、失礼ながら長旅で疲れておりまして良ければお部屋をお貸しいただけませんか。当分地球に滞在するつもりですので、お話する時間はまた日を改めます。神威殿とお話しすることもおありでしょうから俺はここで退室させていただきます。」

そう言って頭を軽く下げた。

「……そうかゆっくりと休め。おい、この者を部屋に案内しろ。」

「は、はい!こ、此方でございます。」

遊女がおぼつかない足取りで先を歩いていった。
それに続き、部屋を出ようとすると神威が前に立ちはだかった。

「…逃げるつもりか。」

「あんたは人の話を聞いた方がいい。言っただろ俺は疲れているんだ。あんたの相手をするほど暇でもないんだ。………それに堂惨に止められる程度ならあまり期待はできないしね。」

さっきのお返しとばかりに挑発してみる。
すると神威の目が開き、殺気を向けてきた。
その殺気に後ろにいた堂惨が身構えた気配を感じ手で制止させる。

青色の瞳と紫色の瞳が睨みあった。

「…ハハハ。まぁいいや、今日ようがあるのは鳳仙の旦那だし。」

そう言って道を開けてくれた。
横を通り過ぎようとしたとき、神威はグッと肩を掴み引き寄せた。
そして龍麗の頬をペロリと舐めた。


「…龍麗だっけ?君のこと気に入っちゃった。だから俺が唾つけたから俺以外とヤっちゃダメだヨ。」

そう言ってへらへらと笑う神威に目を見開き驚いたが、後ろの堂惨が今にも飛びかかりそうな勢いだったので急いで部屋を出ることにした。

「…自分勝手な奴だ。あんたには当分会いたくないね。」

そう言って歩き出す。
部屋の敷居を越えると、頭をかきながら気まずそうにこちらに目を向ける神威の部下と目があった。

「うちの団長が失礼をしたようで、すまねぇな。」

「………別に、あんた達は彼奴の部下?あれが上司じゃいろいろ大変そうだ、頑張ってねおじさん。」

男達の隣を通りずき遊女についていく。
後ろから、「おじさんじゃねぇ。お兄さんだ。」なんて声が聞こえたような気がしたが無視することにした。





遊女に案内された部屋に入り傘を近くに置いてから窓際に座り外を眺めた。
この街に空はなく、自分達の天敵が輝くことはないだろう。

「…ふぅ。何だか面倒なことになったな。」

「 龍麗様!何故あの時避けようとなされなかった。もし、あの場に私がいなければ死んでいたかも知れないのですよ。」

「…別に、お前が間に入ってくるのは分かってたし避けるのが面倒だっただけ。」

そう言ってあるはずもない空を仰いでいると、後ろから説教じみた事が聞こえてきたので軽く聞き流した。

「…それより、お前腕は大丈夫なわけ?治療した方がいいんじゃないのか。」

そう言って堂惨の方に目を向けると、気づいておいででしたか。と腕を出した。
神威の拳を受けた右腕が紫色のに変色しており、折れているのは明確だった。

「あの一撃でこの威力。彼奴は危険です龍麗様。」

「丈夫な事が取り柄のお前の腕を一撃で破壊するなんてな。正直驚いた。」

そう言って龍麗は、堂惨に紙切れを投げまた空を見た。
それを左手で受け取り開けると何かの地図のようだった。

「…これは何ですか?」

「さっきの遊女に聞いた吉原にある医者の場所だ。利き腕がそれじゃ満足に治療できないだろう。仕事まで当分時間があるし行って治療してこい。それに、金はあるんだから適当に遊んでこい。」

「し、しかし!いつ彼奴が来るか分かりません。主を一人になどできません。」

しかし龍麗は堂惨の方を見ることなく淡々と言い放った。

「………堂惨これは命令だ。利き腕を満足に使えない今のお前じゃ、あの神威が来ても直ぐに殺されてしまう。さっさと治してこいって言ってるんだ。目の前で部下を殺されたくない。」

すると後ろからズビッと鼻をすするような音が聞こえ出した。

「…な、なんとお優しい。ぅ……堂惨直ぐに腕を直して参ります。」

そう言って感動の涙を流しながら、堂惨廊下を物凄い速さでかけていった。

「適当に飯食ってこいよーー。」

そう言い終わると、部屋には静寂が訪れた。
静かになった部屋に仰向けで寝転がった。
すると、頭のなかで鳳仙の言葉を思い出した。

ーー未だ母の怨念に取り憑かれ戦場をさ迷うか。


「………ハハハハ。」

静かな部屋に龍麗の自虐的な笑い声が響いた。

「…取り憑かれている。その通りですねお師匠様、だが、きっとこの呪縛は貴方の愛玩人形になったところで消えるものじゃない。死ぬまで続く生地獄だ。」

だから、俺は俺を殺してくれる強者を探しさ迷っている。
安息の地など最初から求めてなどいない。
死に場所を探す旅なのだ。
俺を殺すのは母のような強者じゃなくてはいけないのだ。

「………でも師匠、あんたは駄目だ。血の渇いたあんたじゃ俺を殺せない。」


残念だなぁ


その声は、静かな部屋に消えていった。
そして、龍麗の心の声を聞くものは誰もいない。
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