小説

□★なくした心 なくした言葉 前編
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 先日、高尾から今夜は、どうしても外せない取引先との飲み会があると連絡があった。普段は俺の夜勤状況によって飲み会の参加不参加を決めている。同僚からは付き合いの悪い奴だと思われているらしい。しかし今夜のは大事な取引先、無碍にはできない。仕事の付き合い上、そういうのも必要だと理解はしてるつもりだから、俺のことなど気にせずに行けと言った。
 その日、俺は夜勤ではなかった。高尾は飲み会だし、夕飯をどうするか悩んでいたら、研修医時代に一緒だった奴が、偶然に俺の勤め先の病院に来ていた。良かったら食べに行くかと言われた。どうせ高尾はいないし、夕飯は悩んでたし、断る理由がないので、一緒に行くことにした。



 「っ、高尾・・・?」
 「え、あれっ。真ちゃん!?」

 俺と研修医時代の知人とが食事が終わり、店を出ようとした時、高尾が店に入ってきた。時間的に、おそらく二次会とかだろう。取引先だと思われる人物は、見当たらず、同僚達と来たのだろう。同じ年頃の男女数人で来ていたが、高尾の両サイドには女がいた。それが気に食わなくて、俺は無視をして店を出た。
 同僚に女がいるのは仕方がないことだが、実際、目にしてしまうと気分が悪いものだ。そう思ったと同時に
自分にこんな醜い気持ちがあることに気づかされた。
 高尾だって、もういい歳をした大人の男だ。女性に言い寄られても、おかしくない。高尾も悪い気はしないだろう。そもそも、こんなデカイ男の俺を可愛いと言って抱くことが気の迷いだろ。そろそろ目が覚めるかもしれない。それが本来の男の性質だ。なのに俺は・・・

 「誰にも高尾を触れさせたくないのだよ・・・」

 そんなことを呟いてみても、どうにもならないのに。
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