小説

□願い事
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 今日は7月7日火曜日。世の中は少し前から七夕ムードで満載だ。スーパーやショッピングセンターへ行けば、お店が用意した特設コーナーで子供達やカップルが短冊に願い事を書いている。幼稚園などでも行事の一環として短冊に願い事を書いているだろう。そしてオレの、お世話になっている研修先の大学病院の小児病棟でも例外なく七夕の行事が行われている。

 「はぁーーい、みんなぁ。今から、この紙、短冊って言うんだけど、これを配るからお願い事を書いてね。」
 「はぁーーーーい!」

 入院している子供達をプレイルームに集めて七夕行事。俺は今、小児科の研修に来ている。今日は、この七夕行事の手伝いに入った。

 「せんせーい!オレ、赤!」
 「私、オレンジー。」
 「そんなに慌てなくても、ちゃんと皆の分あるからね。」

 子供達に揉みくちゃにされながら短冊を配る。皆、思い思いの願い事を短冊に込める。

 「緑間先生も、ぜひ書いてくださいね。」
 「あ・・・はい。」

 小児科のベテラン看護師に促され、自分も何か書こうかと悩んでいると、一人の女の子が泣き出した。

 「えーーーん!隼人君が私の紙やぶったーーー!」
 「ちょっと手が当たっただけだよーだっ。」
 「まったく・・・。色は違うけどオレので良ければ、この紙を使うのだよ。」

 女の子をなだめながら自分の短冊を差し出す。しかし女の子は首を横に振る。やはり同じ色じゃないとダメかと思い、探しに行こうとしたら、女の子が白衣の裾を握ってきた。

 「先生の紙もらっちゃったら、先生がお願い事書けなくなっちゃう。」

 思ってもみなかったことを言われ、目を丸くした。子供ながらに、そんなことを考えてるとは。

 「そんなこと気にしなくても良いのだよ。それにオレには、このラッキーアイテムがあるのだよ。」

 オレはベルト通しに引っ掛けてあった折り畳み傘を見せる。今日の蟹座のラッキーアイテムは折り畳み傘。今日は雨の予報は無く、降水確率は10%だった。しかしラッキーアイテムが傘だと言われれば、晴れだろうと何だろうと持って行くしかない。家にあった折り畳み傘が柄がブタの形になっているピンクの可愛らしいものしか見つからず、持って行くのを躊躇ったが、おは朝の言うことは絶対なので持って行くしかない。そんなオレのラッキーアイテムを見て、女の子は笑った。さっきまでの泣き顔が嘘のようだ。

 「ラッキーアイテム?アハハ。先生おもしろーい。先生、男の人なのに可愛いブタさんの傘持ってるんだね。」
 「・・・家にこれしか見つからなくてな。これは妹のなのだよ。」
 「ありがとう、先生。この紙、使わせてもらうね。」
 「あぁ。しっかり願い事を書くのだよ。」

 女の子は機嫌を直し、短冊に願い事を書き始めた。オレの願い事か・・・そう聞かれると、なかなか思いつかないものだ。しいて言うなら、好きな人と・・・
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