小説
□★なくした心 なくした言葉 後編
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俺は街中をぶらついていた。特に、あてもなく歩く。もう日が暮れてきた。不意に後ろから肩を叩かれた。。
「あれ、高尾じゃん。てっきり休日は、例の彼女とイチャついてるもんだと思ったぜ。」
「暇なら、これから職場の違う部署の女の子達と飲みに行くんだけど、一緒に来ねぇか?」
声を掛けてきたのは職場の同期の2人だった。自暴自棄になりかけていた俺は、酒でも飲んで憂さ晴らしでもと思い、普段乗らない誘いに乗ることにした。
「あれぇ、高尾くんじゃーん。珍しいね、こういう飲み会の来るの。」
「なんだぁ。高尾くん来るなら、他の女の子も呼べば良かった。」
飲み会、会場の居酒屋には既に2人の女がいた。違う部署と言っても同期だ。新人研修の時に交流が少しあったから、名前と顔くらいは覚えていた。
「俺たちも、さっきたまたま会ってよ。暇なら来ねぇかって誘ったら珍しく乗ってくれてよぉ、俺らもビックリ。」
「いっぱい飲ませて、例の彼女ちゃんのこと問い詰めようぜ。」
同期達の言う彼女とは、もちろん緑間のことだ。しかし、男というのは伏せている。やはり、なかなか理解してもらえるものでは、ないだろうと思ってるからだ。
「それにしても彼女が医者ってカッコイイよな。しかも、長身美人なんだろ?羨ましすぎるぜ。」
「でも医者って忙しいだろうに。なかなか夜のお相手してくれないんじゃね?」
「ヤダー、下ネター。」
「っていうか、彼女さんの写真とか無いのぉ?見てみたーい。クール系?」
同期達は好き勝手言ってくれる。夜のお相手してくれない?あながち間違いではないな。写真?あっても見せらんねぇよ。男だって知ったら、皆どんな反応するか・・・
俺は気を紛らわすように酒を飲んだ。
「・・・おくん・・・高尾くん!ちょっとハイペースで飲みすぎだよ。」
俺の意識は遠くなっていた。ペースなんて考えずに飲んだ結果だ。もう酔いが回って眠気がヤバイ。周りの声が耳に入らなくなってきた。
「とりあえず寝かしとくか。」
「彼女ちゃんに迎えに来てもらうとか?」
「ナイスアイディア!」
「でも、医者だせ?今日、高尾がほっつき歩いてるってことは、仕事中かもしんねぇじゃん。」
「確かに・・・ま、でもダメ元で呼んでみようよ。」
そう言って同期達は俺が夢の中を彷徨っている間に、勝手に俺のスマホをいじりだした。
「あー・・・でも彼女ちゃんの名前知らねぇや。」
「とりあえず、一番連絡取ってる人?」
「逆に同棲してるから連絡少ねぇんじゃね?」
勝手に電話帳を眺めながら彼女当ての推理が始まった。
「これじゃない?『ちゃん』付けだし。」
「本当だ。他は苗字だけとかフルネームなのに。」
「きっと、これだな。えーっと・・・しんちゃん?まことちゃん?」
「ま、とりあえずメール打ってみようぜ。」