小説

□alea iacta est
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 「高尾、正式にお付き合いしてやるのだよ。」

 朝の教室、本来なら挨拶から始まる学校生活。なのに、この男、緑間真太郎は大きい声で俺に向かって宣言してきた。もちろん教室なので他のクラスメイトもいる訳で、当然のように聞こえる。何事かとチラチラ見てくる。クラスメイトの視線が痛い。この時ばかりは自身の能力『鷹の目(ホークアイ)』を恨んだ。

 「ちょっ、真ちゃん!急に、それは無いだろ。とりあえず一旦、落ち着こうぜ。」
 「俺は落ち着いているのだよ。そもそも・・・」
 「だぁぁぁぁっ!ちょい待ちーーー!」
 「何なのだよ。」

 怪訝そうな顔で、こちらを見る緑間をよそに必死に緑間の言いかけた言葉を遮った。

 「とにかく、その話は一旦、置いとこう。続きは放課後にしよう。なっ!」
 「・・・わかったのだよ。」

 腑に落ちないといった顔を一瞬したが、すぐにいつもの無愛想な無表情な顔に戻り席に着いた。



 正直、昨日の今日で、あんな返事をくれるなんて思ってもみなかった。時間がかかると思ったし、むしろ返事をくれるなんて思っていなかった。
 俺は昨日、抑えようとしていた感情が爆発してしまった。言ってしまってから、今まで築き上げてきたクラスメイトとしての友情や、部活のチームメイトとしての信頼などが今まで通りには行かないことに気づいた。
 勝算なんてゼロに等しかった。だって男が男に恋愛感情なんて信じられないだろ。事実、俺自身今まで男に恋なんてしたことがない。だから気づきたくなかった。友情や信頼などでは片付けられない感情。本来、抱いてはならない感情。異性に向けるべき感情に。抑えようとしていた。でも気づいてしまった以上、抑えようとすればするほど膨らんでしまう感情。辛かった。言ってしまった方が楽になれると思った。でも言ってしまったら今まで通りの関係ではいられなくなる。わかってたはずなのに・・・
 想いの丈をぶつけてしまった後、怖くなって、その場から逃げた。言い逃げなんて格好悪すぎる。



 そんな訳で今朝は仮病でも使って学校を休んでしまおうかと思ったが、さすがにそんなことで休むのも馬鹿らしいし、ますます格好悪い。どんな顔して会おうか、普通に挨拶したら良いのか悩んでいた。悩んでたのに・・・

 「高尾、正式にお付き合いしてやるのだよ。」

 と言い放った。ごちゃごちゃ考えていた俺が馬鹿みたいだった。清々しいほどの馬鹿は俺よりあいつの方かもしれない。そういうところが好きなんだけどな。
 今日の授業なんて身に入んねぇよ。早く放課後にならないか、そんなこよばかり考えている。なのに後ろの席のあいつは、いつも通りペンを走らせ集中している。すげーな。俺はお前のことばかり考えているというのに。
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