聖なる扉の物語

□紅蓮
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故郷のギリシァからこちらの世界へ飛ばされて、もう一年以上がたっている。
飛び出してくる小さなユニットたちや、武器を必ず携帯しているほかの人達には、いまだになれない。自分が武器を持ち歩いていることにも。

イオの武器は、銃型ドライバ:アルゴス。大きな銃の形をしていて、炎のエネルギーを主として攻撃する武器だ。

「ねぇイオ、そろそろ出発しないとじゃないの?」

隣で、幼馴染のオルが、竪琴型ドライバ:オルフェウスを大切そうに抱えてそう話しかけてきた。

「う〜ん、そうだねぇ。じゃあいこっか。」

赤いツインテールに結わえた髪をさらさらと揺らしながら、イオは、腰かけていた塀から飛び降りる。
「イオ!そんな飛んだり跳ねたりしないでよ!一緒にいる僕が恥ずかしい!」
オルも塀から飛び降り、イオに駆け寄ってくると、文句を言った。
「いいじゃ〜ん。何のためにスパッツはいてると思ってるの?」
「それとこれとは話が別でしょー!?」
―…オルの方が女子力高い件…。−
心の中でそう呟いてから、イオはドライバを担ぎ直し、二カッと笑いかけた。
「ほら、いくよ!」
「え、でもでもでもでもっユノ姐とか呼ばなくていいの!?」
「いーの!私だってやればできるんだから!」
そう言って、後ろを向いて歩きだす。
「嗚呼!ほらまたそうやって!ちゃんと前向いて歩きなって!」
「だーいじょーぶ!!まったく〜。オルは心配性だなぁ。」
「だってイオは落ち着きがな…イオ!前!違った後ろ!」
「ん?」
振り返ろうとした、次の瞬間。

「「うわっ!!」」

なにかとぶつかり、イオは地面に尻もちをついた。
「うわぁぁ!イオ!大丈夫!?」
「う、うん…私は平気だけど…」
イオは、顔をあげ、眼の前で同じように尻もちをついている少年をみた。
少年もこっちを見上げ、困ったように笑った。
「ごめん、大丈夫だったか?」
少年らしい声。
燃え上がる炎のような紅蓮の髪に、これまた炎のような明るい色の瞳。
人懐っこい性格が出ている、頬ににじむ笑み。
一瞬見とれてから、イオはあわてて答えた。
「わ、私は大丈夫です!お兄さんは大丈夫でしたか?」
「ああ。俺は平気。」
お兄さん、と言うほどでもなさそうだったが、イオはあわててそう言った。
「よっ、と」
少年は勢いで立ち上がると、イオが立ち上がるのに手を貸してくれた。
「本当に大丈夫か?けがとかしてないか?」
「はいっ、大丈夫ですっ!」
そう答えれば、少年は、そうか、と言って笑う。
太陽のような、明るい笑顔。
「二人は、旅の人?どっかに行くのか?」
「…あっ、わ、私たちは、あの…旅を、してるんです。はぐれた幼馴染を探す旅…。ほとんど見つかってるんですけど、まだ小さい幼馴染には会えてなくて…。」
「イオ、その人にそんなにいろいろはなさなくていいよ、早く行こう?」
なぜか、オルが、少々いらついた様子でそうせかしてきた。
「で、でも…」
「…人探しか…。どんな奴?」
「え?…アポって言う、十歳くらいの男の子です。髪の毛は銀色のふわふわロングと赤の目をしてて、…髪は、たぶん縛れないからそのまま流してるんですけど…。私と同じ、こう言うキトンって言う服を着てて…。」
「よし、ちょっとまってろ。」
そう言って、少年は何か端末を取り出すと、腕にはめたドライバをはずし、なにかを操作し始めた。
「こんな子か?」
「えっ!?」
みせられたのは、探している幼馴染とそっくりなイラスト。
「は、はい!こんな感じの子です!」
「…俺でよければ、探すの手伝おうか。」
「え?」
「はぁ?」
「親父がちょっといろいろあって、人脈がいろいろあるんだ。だから、もしかしたら手がかりかなんか得られるかもしれねぇ。」
「お断りします。イオ、行こう。こんな軽い人信用できないって。なにされるかわかんないよ。」
「え、まってよオル!」
無理に手をひかれる。
と。

「アカネ。」
声がした。振り向けば、金色の髪と青瞳をもった、少年と同じくらいの少女が立っていた。白いジャケットがよく似合っている。細い体に似合わない大きな剣型のドライバを持っていた。
「あ、なぁなぁ、このこしらねぇか?」
仲よさげな会話。
一瞬、胸の奥が冷たくなるような気がした。
アカネ、とそう呼ばれていたから、少年の名前はアカネというのだろう。
アカネは、手にした端末を少女に見せた。
「…知ってる…。どっかでみた。確か、…もう一人、紫っぽい髪の女の子と一緒だったと思ったけど…」
少女の言葉。女の子にしては少々低めだろうか。
知っていると、そう言った少女の言葉に、イオだけでなく、隣でオルも反応していた。
「オル!あの女の人、アポとヒュアのこと知ってるみたい!ねぇ、やっぱり手伝ってもらおうよ!その方がきっと早く会えるって!」
「やだ。僕、あの人嫌い。軽そうだし。」
「軽そうなんてそんなの見た目で判断しちゃだめだよ。ほら、ね?アポたちに会うまでだから。」
オルは、渋い顔をしていたが、仕方なさそうにイオの手を放した。
「アカネさん」
「ん?おぉ。話しまとまった?」
「はい。すみません、お願いしてもいいですか?」
「…アカネ、誰?」
隣の少女が、不思議そうにイオを見て、アカネに尋ねた。
「あ、えっとこの子は…。…あれ?名前聞いたっけ?」
そう言われて、イオははっとした。
「すみません!わ、私はイオ。向こうで不貞腐れてる竪琴持ってる男の子が、私の幼馴染の一人でオルです。」
「おう、イオに、オルだな!宜しく!」
アカネが明るくそういえば、少女も微笑んでちょこんと頭を下げた。
さらさらとこぼれる髪。とてもきれいな人だった。
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