笑えや笑え

□た
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文次郎視点





四人目の天女は可哀想なやつだった





そう聞いたのは伊作が治療から戻ってきてからだった



関わらなければ良いものをあの馬鹿がまた天女を拾ってきやがって…



後輩達が怯える姿はもうみたくない俺は関わらなければいいと思っていた。



日がたつにつれ何人もの生徒や仙蔵が天女のもとに行き、誰一人として悪口を言わなかった。




それでも関わらなければ関係ない。



アイツらが機能しなくなったら笑ってやろうと思ってすら居た


関わらなければ関係ない。その余裕ができたのだ



だが天女に関わった奴等は天女に会うことを進めてきた


面倒くさい



はっきり言ってその一言に尽きる



妖術とやらを使わないならほおっておけば良いものを皆がこぞって天女の元へ行きたがる



俺が天女に会うことを決めたのは会っても居ない三木ヱ門から聞いた話だった



「滝夜叉丸のことを尊敬していると言ったらしいのです。」




三木ヱ門は滝夜叉丸ごときを尊敬するなんて今回の天女は馬鹿ですねと言って切り捨てた



尊敬云々の話よりも前回の天女にさんざん傷つけられたあの滝夜叉丸が天女の所に行って彼がいつもの調子に戻したのだと心なしか嬉しそうに話していた




会いたいかと三木ヱ門に聞いたところ機会があればと好感触だったのにも驚いた



自分と同じように天女には関わらないと言っていたはずなのに




そうなってくると自然と周りの雰囲気に飲まれ自分も機会があれば会ってもいいかと思えてくるからまた不思議だ。



天女には関わらない方がいい興味など無いと




言い聞かせてるのだ



先生方も言っていたが天女によって傷つけられた生徒の心が新たな天女によって癒されている



そう確信してしまった。




天女に会う切っ掛けはあまりにもあっさりと訪れた。


自分が最も苦手とする女装の授業の追試の件だった




「名無しちゃんの所に行けばいい!未来の技術でどうにかなるかもしれんぞ!」



奇跡的に小平太が受かって浮かれて言った言葉に留三郎の馬鹿も賛同してなぜか俺まで行くことになってしまったからだ



いやいや着いていけば浮かれて今日は一年のい組とろ組が言ったからどんな話が聞けるかなと伊作が言い


先に私の女装が素晴らし過ぎて興奮するのでは?と仙蔵が気にしていた



なら俺も誉められるだろうと化け物の顔で留三郎が言ったところでそれはないと3人の声が揃ったのは言うまでもない



小平太と長次も来たがっていたが二人とも委員会だから名無しちゃんによろしくと去っていった



お前らは昔からの旧友にでも会いに行くのかとと居たくなるほど足取りは軽く不安もなにもなく天女の部屋へと向かったのだ




当の天女は仙蔵の読み通り伊作と共にべた褒めで俺と留三郎は化け物扱い、そしてなにも発言してない俺の顔をさわり筆やら白粉やらでいじっていく



時間にしたら相当短く、自分の化粧がどれだけ濃かったかを思い知らされる


手慣れた様子で鏡を渡され確認すれば目の下の隈は薄くなり女に見えるような顔になっていた。



小平太のいった通り未来の技術は俺さえも女に見えるようにしてしまうのかと感心したほど

次は俺だと留三郎が部屋を出てから天女から出る空気が変わった




そこからだ


そこから天女がおかしくなった




やたら警戒して俺に話をかけ出ていけと言った



あぁ、俺は今回の天女の好みではなかったか…やはり天女は天女


悲惨な過去があれど所詮この程度なのだ




そんな事を思い天女の売り言葉を買い


ならば一人になれば良いと言った





その瞬間、天女顔が変わった



今にも死んでしまいそうな



この世のすべてを諦めたような



無表情、と言えばいいのか



何とも言えない



言えるのは諦め顔だと言うこと



そこから天女は息をしなくなった


本当に諦めたんだ




今までの幾度かの死相を見てきたが非ではない



そんな風に思わせるかのような、そんな顔




しかしもう引けない




伊作が俺に新野先生を呼んできてくれと叫んでようやく我に帰った






新野先生を連れて天女の部屋に戻った時には天女は気絶していて話など出来る雰囲気ではなかった


あの顔が頭から離れない




全てに絶望しているかのようなあの顔が






「文次郎」



「なんだ」




「気にするな、きっと明日にはまた笑ってる」




笑ってる?




それが偽りだとさっき聞いたばかりなのに?




「何故、そう思う」




「アイツは変な女だからだ。きっと明日の朝部屋に行ったら恥ずかしくて死ぬーとかいって元気になってるさ」




「…」




「言ったはずだ私とアイツは正反対だがよく似ていると、だから解る。溜め込んだものを吐き出してスッキリする。毎晩魘されていても朝には笑ってるんだ、きっと明日の朝も…」




「そうか」




それは願望か、とは聞けなかった



仙蔵の顔はまさに旧友のことを語っているかの様でそれ以上はなにも言えなかった




天女には関わらない




今日あの女に会って確信した



あの女は天女ではない




ただの、不幸な女だ





関わったって良いじゃないか




明日、朝飯を持っていく役を買う為に伊作の部屋に行こうか






次の日の朝、名無しの名無しは部屋に居なかった





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