笑えや笑え

□く
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はいどーぞ、の掛け声で落とされた穴は






暗くてじめっとしてて



なんだか





思い出すな





あの押し入れ




母に隠れてろって言われて、自分だけの部屋を貰えた気がしてたあの場所に






『あぁ、ちょっと泣きそう』




自分にはもうこんな場所ないと思ってた。



「いかがですかー」





そこに居るときは父に殴られなくて




でも代わりに母のうめき声が聞こえてきて




暗くて、狭くて、じめっとしてて





私が守られてたあの場所






『最高に気分悪い』




声を殺して泣いていた私の唯一だったあの場所






「…そのわりには楽しそうですね」






泣きそうなのに私、今笑ってると思う。



そらぁもう満面の笑みでしょ?




ここに来れば母の声が聞こえる。



ここに来れば私は守られる。




『綾部君ありがとう!私!私ね!』





優しく頭を撫でてくれた。



名前を沢山呼んでくれた。




母に





『私ここで死にたい!』




会える場所だ。





ーーーーーーーーーー
綾部視点



天女は何時だって無力だった



興味もわかないし見たくもない。




僕は関係ないと思ってた。



だからいつも関与せず穴を掘った




それに天女が落ちて怒られる


善法寺先輩や保険委員、小松田さんが落ちても怒られないのに天女が落ちたら怒られる



それはなんだか納得がいかないけど興味もないから適当に謝っておいた




そしたら天女は「そんなに穴ばっかり掘って泥だらけになって得るものはあるの?」って




得るもの?



は?



得るものとかそんなもののために掘ってるんじゃない


ただ楽しいから掘ってるんだ



余計なお世話だよね




でもま、先輩も睨んできて面倒だからもう一度謝っておいた。

それに得るものも有るんじゃない?筋力とか


ただ単にムカつくなって思ってそれが僕の天女へのわだかまりみたいなものだった。



滝が受けた傷に比べたら大したことない
話を掛けに行きひどい言葉で罵られ邪魔だと言われた滝に比べたらほんと大したことない。


そもそも僕も自慢話はつまんないと思ってる。だって滝がどれだけ鍛練してるか、どれだけ勉強してるか知ってるから。言われなくても知ってるから聞かなくても良いと思ってる。




そんな天女も気付いたら居なくなってた。後から兵太夫に5年の先輩が処理したらしいって言ってきたのでまぁなんかやらかしたんだなーくらいにしか思ってなかった。



天女は僕の掘った穴に良く落ちる。



そりゃそうだ、天性のドジっ子小松田さんや気づいてても落ちる保険委員とちがって素人だから。



だから今回の例がいなく落ちると思ってた。



連れてきたのが食満先輩だとかそんなことには興味ないし天女にも興味ない。




だけど落ちてくれたら胸がスーっとする。
ざまぁみろって



僕ってこんなに性格悪かったのかな?

まぁでもこれも天女せいってことで良いよね?



そんなことを思いながら医務室や天女の部屋の近くに穴を掘った。




一週間たっても二週間たっても落ちない



厠に行くのに部屋から出てるはずなのに落ちない


立花先輩に聞いたら天女は怪我してて支えてもらわないと厠にすら行けないんだって

やっぱり無力なんだ。



「あの天女は他と違う」


って笑って追加してた。久しぶり見たな立花先輩が笑ってる所

今回の天女は悪じゃないのかもね


でも落としたい




落ちてくれたらスーっとするから




そう思って天女を尋ねた。



彼女はぶつぶつ何か言っていた。
取り敢えず情報は欲しいから聞いてみたけどそれっぽい答えは帰ってこなかった



落ちてくれって言ったらあっさり良いよと答えた。



でも代わりに前の天女こと教えてくれって。


あんま関わって無かったから殆ど知らないけど3人目の天女は拷問掛けて色々聞いたから知ってることはまぁあるだろって


何が聞きたいのかと思ったら帰りかただった



ふーん、この天女は帰りたいんだ



落ちるって約束だし知ってることを教えてあげよう。


だからさ、僕の蛸壺に落ちて




いざ、話してたら滝夜叉丸が邪魔をするように入ってきた



静かだった天女の部屋は一気に騒がしくなった。



滝は天女にいい思いでなんかないのに良くここまで来たな…


等の天女は僕の話を聞きたいんだろうが滝に圧倒されて

おう、すげーな、まじか、やべーな


この四語くらいしか言わなくなった。



そんな風に話を聞く天女に気づいたのか途中で話を辞めて僕の方を見た




終わったの?と聞けばまだ足りないと返ってきてちょっと笑えた。

そんな滝に天女は驚いて



まだ出るの、凄いな君寧ろ終わるまで聞いてたいよ…と



終わるまで聞いてみたい?



そんなことあるの?そんなことよりもっと楽しいことしようよ


穴堀とか


ねぇ、滝の話はつまらなくないの?




『平君の話はつまらなくないよ、自分の長所を沢山知ってるっ人ってのはさ、強くて頼られる人の象徴だよ。一番上に立つ人は大体自分の良いところはこんなところですよーって自己アピールしてる。ああ、あの人はそんな強さが有るなら付いていこう!ってなるじゃん?だから平君、凄いな強いんだなって思った』




滝君はただ純粋に凄い人なんだって自惚れ屋の滝が嬉しくないはずないだろ?



ほら見てよ滝の顔、普段誉められてないから真っ赤で…尊敬するって言われて泣きそうになってるじゃないか


「…良かったね滝」




良かったね、お前は間違えてないってよ




僕がそばにいるだけじゃ癒やせなかった傷が嘘みたいに治ってるのがわかる




立花先輩が言ってたのはこう言うことだったのかな?



ねぇ、だったら僕の傷も癒してよ。



来てと引っ張った体はあまりにも軽くてビックリした



いざついた僕の自信作蛸壺のターコちゃん86号


さっき完成したんだ。


深くて、狭くて



最高のやつ



トンっと背中を押せば穴のなかに吸い込まれて

トスっと着地した音がした




いかがですかと聞けば最高に気分悪いと返ってきた



でもその顔は物凄く笑顔で


まるで母親が迎えに来てくれた子供みたいで



彼女から次に出た言葉に耳を疑った



『綾部君ありがとう!私、私ね!


ここで死にたい!!』




それは







僕にとって最高の褒め言葉だった。





普通人は死ぬとき暖かくて柔らかい布団の上でって思う


でも死んだあとは?結局埋めちゃうんだよね?っていつも思ってた。



だったら穴の中で死ねばあとは埋めるだけなんだから楽じゃんって



僕は人を埋めるために穴掘っていた訳じゃない、ましてやその穴で人を殺そうと何て思ってない。



殺意のないただの趣味で作った僕の穴




そこで、人生を終えたいだなんて




こんなに嬉しいことある?




いやない





嬉しい



だから






「ダメですよ」




『えー!!お願いー!!これちょうだい!!』




まだ、まだだ






「ダメです」





これじゃぁまだ、完璧じゃない




『素敵な穴、なのに…』




もっともっと綺麗に掘れる



もっともっと深く掘れる




「次に、期待してください」




僕は今、最高に興奮してる





『次!?次もあるの!?ってか次も入っていいの!?』




作ろう、掘ろう、



沢山掘ると怒られるから次は見た目と機能性を重視したやつ!



「また、入ってください」



そう言って天女に手を伸ばす



『部屋からこの穴まで許可とらないとね!』




そう言って僕の手を取る




引き上げたらなんだか天女も泥だらけで




「『っぷ、』」




楽しくて笑い転げた







え?心の痛み?なにそれ?


僕はいつでも天女に興味はない



でもこの天女には最高の蛸壺をプレゼントしたい




「名無しさん」



『はははは、はぁ、笑ったーなぁに?』



「僕のこと喜八郎って呼んでください」




『へ?名前呼んでいいの?』





「貴方ならいいです」




『おーぅ…みすたーあやーべ、天女マジックにかかってーる』


天女マジックねぇ?




「かかってもいいですよ」



きっと滝は許してくれる。



寧ろ滝も…ねえ?






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