笑えや笑え

□ふ
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ーおかあさん!



ー…名無し


ーおかあさん…まって、おいていかないで



ーお母さんが貴方をおいて何処かに行くわけ無いでしょ?



ー名無し、ちゃんとおとうさんのいうこときくよ、だからー





一緒に…居たかったよ。お母さん

どうして…?

ーーーーーーーーー



「…さん…さん…名無しのさん!!!」



『…んぉ』




「全く…こんな所で寝ては風邪を引きますよ」





彼女は、天女だ



彼女が学園に連れてきたのは意外な人物で六年の食満留三郎だった。



『土井…先生?でしたっけ?』



「ええ」



私達教師は全面的に彼に何故連れてきた、何故そのまま見捨てて来なかったと彼を問いただした。



連れてきた食満は、泣きそうな顔で


"いつ死んでもいいみたいな顔をして山賊に犯されていたのをどうしても見捨てて来ることが出来なかった"



とそう言った。


その顔は自分の判断は間違えてると思い詰めていて、それ以上口を出せなかった。


この学園に降り立った天女は三人、それぞれ美しい容姿に華奢な体で我々をぐちゃぐちゃにかき回し子供達から笑顔を奪って去っていった




そんな天女がまた学園に現れたのだ、全勢力で警戒を余儀なくされまたピリピリとした学園に戻った


目を覚ますなとすら思ったほどだ



数日後願いむなしく起きた天女は保険委員である善法寺伊作に我々が想像もしなかった生い立ちを話した、同情を買う作戦とも言っていたが、その話は作り物とは言えない。彼女はとても可哀想な天女だと報告をした。


実際同じ会話を天井裏で聞いていた立花や食満、潮江も同じ判断で


あぁ、また六年生が…と誰もが思った。


だが数日たてども学園は今まで通りの速度で平穏な生活が保たれた。



自分も生徒に代わり天女の警戒に当たったが彼女は度々うなされ"ごめんなさい、もうしません、おとうさん、ごめんなさい"と繰り返す。


よほど辛い記憶があったのだと目の当たりにするだけでなく


どんな歪んだ顔をしても涙ひとつ流さない彼女には程々同情をせざる得なかった




これを妖術と言うならば彼女はくノ一顔負けだと山本シナ先生に言わせるほどだ



こうして色々な口論の末、彼女を警戒したまま少し泳がせると言う話になり


まずは荷物を返すところから、そう、あの教員同士の言い争いも全ては天女にまだ警戒してることを知らせるための作戦だったのだ




その作戦は、天女の奇行により無駄足となった。



自分の荷物から一番危険だと言っていたもので食満を人質に取りここを出るんだと言った



それは鮮やかな手つきで行われ我々はあっけにとられた

ヤバイと、思ったときには食満と言い争いをしていて本当に刺す気はないことと自分が悪くてこうなったと言うことをよく理解しその上の行動だと言い張っていた


あまりにずさんな計画に


あまりに自分を犠牲にするそのやり方に



苛立ちを通り越した



止めなければ彼女が悪者のままだがそのやり取りがあまりにも幼稚で途中から食満も本気になっていて


あぁ、なんだかいつもの光景じゃないか



そう思ったら可笑しくて



それを隠すように二人を拳骨で止めて学園中に笑いが起こった


どうやら自分だけがおかしく思った訳じゃないようで警戒してることも何故笑えなかったのかもわからないまま


久々の仲間が笑った顔をみて泣き笑う自分の生徒をみて




痛がり蹲る天女のことがもっと知りたくなった。



そして、その日からまた笑い声の聞こえる学園に戻ったのだ




突然乱太郎に"名無しのさんの所には組の皆と行ってもいいか"と言われて山田先生と顔を見合わせた。


なんでも天女自信が先生に許可を取ったら来ても構わないと言ったそうで我々に指示をあおいだのだと言う



頭の悪い子ではないようですなと矢羽音が飛んできて


率先して自分が行くと言ったのはあの時の興味が勝ってしまったのだ


私は取り敢えず全員で行くのはダメだと言えばでは半分にします!と庄左ヱ門が率先していくメンバーじゃんけんで決めていた。


この光景はいつものは組じゃないか…本当にあの天女のお陰じゃないか



そう思った時に気づいてしまった。



天女によって受けた傷が天女によって癒されると



それはとてもしっくり来る答えであまりにも虚しいことを理解してしまった。



自分たちだけでは立ち直れなかったあの苦悩をあの天女が来たことであっさりともとに戻ってしまったのだ。


嬉しいと同時に悲しい悔しい感情がとどまることなく溢れ、話し合う彼らに気づかれぬようそっと涙を拭う



ポンと叩かれた肩に山田先生も同じ気持ちだと感じた


それから天女のところに行くまでに学園長先生を初め他の先生方にも相談し、まずは1年は組の生徒の反応を信じようとなった。



辛いことをさせてすまないと思う反面彼らなら大丈夫だと言ってくれる事が嬉しくて、あの安藤先生すら笑っては組なら大丈夫でしょうと自慢の嫌みもなく笑って言ったのでビックリした
いざ向かった天女の部屋はとても穏やかな空気だったがそれとは正反対に天女はビクビクしながらは組の子達の話を聞きながら私のほうをチラチラと見てきた。


その姿は"ホントに来たの?!え?こんなことまで答えちゃっていいの!?ねぇ先生!"と言っていてそれはそれは面白くて私の顔を見た天女が更に焦っていて吹き出すところだった



天井裏で六年生が見ていなかったら私は確実に吹き出して居ただろう。


その慌てっぷりも最初だけで質問に丁寧に答え、笑う彼女に



うなされて謝る彼女が嘘のようにおもえた



善法寺があの人は直ぐ死にそうだと言っていた意味がよく分かる。



凄いね!尊敬するよ!


そう話す彼女は嘘の無い純粋で無垢だ



だが時より見せる悲しげがある笑顔が過去の自分やキリ丸とかぶり



それを打ち消すように終わりを告げ解散させる。


教室に戻ると行った組と行っていない組で話し合う。こんな話をしたとかこんなことを聞けたとか次はあの話を聞いてみようとか。
本当にいつものは組だった


山田先生と他の先生方や学園長にも報告して出た結論は



全ては生徒の判断に委ねよう



生徒の気持ちを何より優先させ生徒たち自信の成長に天女を使おう。




となった。



それしか出来ない自分たちの歯がゆさがそれこそ教師である我々の成長にも繋がると



学園長が見せる久々の笑みが学園の緊張を溶かしていく。





そんな中、曲者の雑渡昆奈門の突然の天女訪問


今殺されては困ると急いで天女の所に向かえば大人しく机に向かう天女が居るだけで怪我をしている様子もなかった



善法寺が聞き出した話によれば殺される寸でだったらしい。それはさぞ怖かっただろうと聞いたら


太陽が沈む理由について訪ねられそれに答えたら帰っていったと、今は薬で悶えてるそうだ


大丈夫だろうかと天女のところへ向かったら苦しそうに悶えてる彼女が目に入りそっと頭を撫でれば震えが止まった
"苦いんです"とひどい顔でこちらを見る彼女に吹き出しそうになってしまった



そうだ
まだお礼もしてないな


「ありがとう」



笑顔にさせてくれて




「ありがとう」



新しい天女が君で良かった






だからもういいよ、考えるのを休憩しよう



と、彼女が寝付くまでしばらく頭を撫で続けた


願わくば彼女も心のそこから泣ける日が来ます様に



そして今日五年生達が来たそうだ。


5年は6年ほどではないがとても荒れていて天女には辛く当たったと思う



実際立花に聞いた話でもかなりひどく罵倒したらしい。

だが直ぐに彼女が無力で無害だと判断した尾浜が早々に切り上げ、その行動に賛同してか久々知、鉢屋が穏やかになったそうだ



不破は図書委員の仕事で行けなかったそうだが生物委員の竹谷が珍しくも声を荒らげイラついていたと聞いた



きっと我々と同じように自分たちで解決出来なかった歯がゆさに直面しているだけで天女には怒っていないようだと後で不破が来て話してくれた。


竹谷はしばらく荒れさせておくと5年で決めたらしい。僕も早く会いたいような、そうでないようなと悩み始めた不破を制して自分ももう一度天女の所へ行きたくなった



山田先生から今日の天女の様子を聞けば昨日とほぼ変わらぬ様子で夕方に彼女の部屋の前を通ったついでに覗いてみればうなされてはいないものの難しい顔をして寝ている天女がいた



起こして布団を引いてやればそちらにモソモソと移動し倒れるようにまた寝てしまった。


その寝顔はは組の子達を思い出されるような穏やかで幼い顔つきでほっとする。

次見る夢は楽しい夢であるように願いをこめて頭を撫でればへへへと笑いそのまま寝息をたてた



さて、自分も明日の小テストを作らないと




自分が部屋を出た後また悪夢を見てるなんて微塵も思わぬまま警戒な足取りで部屋に戻った



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