うつらうつら

□失恋してました
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『返却期限は7日後です。遅れずに返してください』






「はい、有難う御座います」







私たちはこのくらいしか会話したことがなかった



私は何度も見ている名前だから彼の事を少なくとも名前と本の好み位は知っている

相手側も本日の図書室の担当はと書かれた札が貸出し用デスクに置いてあるので名字位は知っているだろうと思う。



本来であればその程度の関係で廊下でスレ違っても目が合わなければ挨拶もしないようなそんな関係だ




だが本日土曜日午後…何故か制服の柳生君と一緒に映画を見ている。



待ち合わせしたわけでもなければ一緒に見ようと約束したわけではない




本当に偶然、偶然隣の席に飲み物をもった柳生君が座りに来たのだ




「あ、どうも」




『ど、どうも』




なにこれ気まずい…



ほどなくして映画が始まった



チラリと横を見てみると3D眼鏡をかけて心なしかうきうきとしているようだった


眼鏡の上から掛けるんだ…裸眼ではない有り得ない面白さ…




物語も終盤、最後主人公がラスボスである父と戦うため剣を手にした。
それはそれはヘタレ主人公だったため、剣を手にした時は成長にうるっとした。
流石全米が涙した映画だ

ふと、隣を見た








「うぅ…ぅ、ぉぇ」





嗚咽が出るほど号泣してますけど!





そんな感動したのか!?確かにすこしうるっと来たけど!全米の涙もとった作品だけど!これはちょっと泣きすぎでしょう!私の涙は引いたわ!



それからも私の引き具合を他所にぉぇぉぇ言いながら泣く彼から目を離せず、映画は後編へと終わる。


エンドロール中も余韻に浸ってか泣き止む事はなく、終始涙を拭っていた。





ちらほら人が帰り始め私も帰ろうとしたが何故か涙目でこちらを見る柳生君



これは…置いていくなと言うことなのだろうか…



掃除道具をもったスタッフが入ってきたため仕方なく自分の飲み終ったドリンクを小脇に抱え柳生君のドリンクを持って柳生君の腕を引いて外に出だ。



外で空になったドリンクをスタッフさんに渡すと隣から小さな声で「あ、有難う御座います」と聞こえたが無視して腕を引き出口近くの椅子に座らせてトイレに行く、トイレを済ませてタオルで手を拭き綺麗なハンカチを濡らせ柳生君の元に戻るとまだ泣いていた。


『はい、目は擦らない方がいいと思うから冷やしなよ』





「はぃ、申し訳ありません…」





とりあえず置いていくわけにもいかないので前の椅子に座ってスマホの電源を入れる


メールやラインに来ているものを返信し両親に少し遅くなると伝えた





「篠原さん…」



『あ、もう大丈夫?』




「はい、お恥ずかしいところをお見せしました…」




『いえ…』




「せっかく篠原さんとお話しできると思ったのに…本当に恥ずかしいことしました…」




『あー…それで』




それであの置いていくな的な目ね



「もうなんとお詫びしたらよいか…」




『お詫びなんていいよ、それに誰にも言わないから…安心して』





ま、言っても信じてもらえないと思うけど




「はぃ、本当にありがとうございます」





『いいって、じゃぁそろそろいいかな?帰らないと』




「お、送ります!」




『え、大丈夫だよ』





「お、おねがいします!送らせて下さい!」





…あー、なんだこの涙目は、凶器じゃないか…





『じゃぁ…お願いします』





今日は厄日か何かか?





「はい!」





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