うつらうつら

□失恋致しました
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「いやーありがとな!お陰で彼女出来たわ!これからも俺のファンでよろしく」





『…は?』




本日付で、私の恋が終わりました








「ファンで居てくれて良いんだけど彼女に俺が名無しさんと話してるの嫌だって言われてよぉー悪いけどもう話しかけないでくれよな?俺の事を好きなのはわかってるけどー」





私はこのペラペラと意味がわからないことを述べているひとつ上の先輩に恋をしてきた



つい一分前までは




先輩を好きになって早2年入学してすぐ部活の勧誘をしていた彼に一目惚れし、私の持てるスペックを全てその先輩に注ぎ込んできた。回りにも「付き合ってないのが不思議」とも言われるくらいで彼も満更でもないと言っていたので信じきって何もかもを捧げてきた。
そんな先輩にメールで大事な話があると呼び出されてドキドキウキウキで屋上まで来た私に笑顔で「俺、彼女出来たわ」と、一瞬で天国から地獄まで蹴りおとされた



いや、蹴りおとされたなんて可愛いもんじゃないいきなりテキサスクローバーホールドからのボストンクラブ、そして極めつけの延髄斬りで地獄におとされた気分です(プロレス技です分からなかったらググってね)




「じゃ、そーゆーことだからメールとか今後一切しないでくれよな」






サラッと言ってやったぜ的なしたり顔で颯爽と私の横を通りすぎていく世界で一番好きだと思っていた先輩が通りすぎていった


去り際に「愛してくれてありがとな」とかっこつけて去っていった




屋上に来てたった五分で私は2年間の片想い(バレバレ)終了のお知らせが終わった








『…は?』





何故かもう一度ここで呟いてみたがその呟きは春風と共に消え



ッフと目をしらし見えた屋上庭園の花はとても綺麗で思わずしゃがんで花を眺めてしまっていた




チャイムの音が聞こえても私はただ花を見つめこれからどうやって学園生活を送ったらいいか何を支えにしたらいいか友達に何て説明したらいいか等を考えて考えて結局メールで「失恋ナウ」と送り付け今日は授業に出ずそのまま花を見続けることに決めた





ーーーーー




空が赤く染まり夕方になった頃ようやく私は携帯で今何時かを確認する



もう放課後か、色々考えてみたがやっぱり整理なんて着かなくて現実を受け止められない自分と軽々しく振ってくれた先輩への苛立ちで正直もうパンク寸前だ



今日はもう帰ろう




と重たい腰を上げた時カチャンと音を立ててドアが開いた



誰か来るのか?





「?」




おうふ…ホスト部(テニス部)の人気ナンバー1の幸村先輩じゃないか




「何してるんだい?こんな時間に」





『…あー』




何て言ったらいいんだろうか



告白されるかと思って来てフラれてボケッとしてました何て言ったら完全に引かれるよな




『お花さんとお話を…』




ばか野郎!私この野郎!何言ってんだ!こっちの方が引かれるだろ!!




ま、別に幸村先輩が好きな訳じゃないんだから良いんだけどね




「そっか、どうだった?」





どうだった?って…この人まじで言ってるの?乗った方がいいの?突っ込んだ方がいいの?それとも訂正したらいいの?!もうワケわからん!今日はこれ以上考えたくないのに!!





『い、癒されました』




精一杯すぎて何て言ってんだかもうわからん!




「フフ、それは良かった俺が育ててる花なんだけどお役にたてたみたいで嬉しい」



知ってるよ!友達が幸村先輩のファンだからな!



『そ、そうだったんですね』




「うん、水をあげに来たんだけどよかったら手伝ってくれるかい?」





『あ、はい』




何だか良くわからないけどとりあえずこの人まじで良くわかんないことだけはわかった





「気温が上がると植物の生長が盛んになるんだ
特に、新芽や花は水分を多く含から水が欠かせなくてね。水が足りないと、花をたくさん咲かせた後に疲れで枝が枯れる場合もあるんだけど水の量を急に増やすと根腐れなどの原因になるんだ
最近徐々に増やしていくように調整してるんだけど土の乾燥具合を確かめて、乾いているようであればたっぷりとあげてほしい」




『り、了解っす』




「あ、俺ガーデニングが趣味で…」




『へー、良いですね』





なんて、適当に返しただけだけど








「君は?」




『へ?あぁ、私は…』






ーーーーー





私がフラれてから1週間が立ちました
月日がたつのは早いものです




「こんにちは篠原さん」




『こ、こんにちは…』




あの日から毎日屋上庭園のお花達にお水をあげ続けています。


何故かって?

それはあの日水やりを終えて帰ろうとした私に「じゃぁまた明日ね」と肩に手をおいて素敵な笑顔で帰ってった幸村先輩に聞いておくれよ


私は何故か毎回終わった後にまた明日と言って帰る幸村先輩に律儀に従って毎日来てるんだけど先輩はニコニコするだけで訳を聞いても教えてくれないんだよ



まぁ水やりをしている間は集中しないと「どうしたの?」と聞かれてめんどくさいから余計なことを考えなくてもいいから助かってるっちゃ助かってるんだけども



「ねぇ篠原さん」



『はい』




「君はあの日本当は何してたの?」




『…』





わぉ、今日聞くんだ


心の準備してなくて思わず黙ってしまったよ





「言いたくなければ別にいいんだけど」





『あー…いえ、別に言いたくない訳じゃないですけど』





先輩の腰巾着だった私がフラれたことは学校ではすでに噂になっているから知ってると思ってたよ

というよりわざわざ聞いたのか?


幸村先輩は相変わらずニコニコ何を考えてるかわからないけど沈黙に耐えきれなくなった私はぽつりぽつりと話した



『私…バスケ部の先輩のこと好きで、先輩のために何でもしてきたつもりだったんです。でも幸村先輩と会ったあの日…大事な話があると屋上に呼び出されて来てみたらフラれてしまって…友達にメールしたら他の子の話を聞いたらかなり前から腰巾着とか専属メイドとか言われていたらしくて、先輩が「ちげーよアイツは俺の下僕、俺が言えば何でもやるぜ」って私の作ったお弁当を人にあげてたらしいってメールが来て…知らずに先輩と付き合えるようになるかもってもう頑張ってた私はバカみたいとお花を見ながら凹んでました』




はは、馬鹿みたいじゃなくて馬鹿なんですよね〜と自分を嘲笑うように笑えば幸村先輩はニコニコ顔から険しい顔へと変化した




「許せないね…」





『はい、自分が馬鹿すぎて許せな』「違うよ、そいつが許せない」




ああ、幸村先輩は優しい人なんだな
会って1週間の私のためにこんな顔してくれるなんて
幸村先輩のことが好きだったら良かったかも
うまくいかなくても良いから笑ってくれたらそれでよかったって思えたかもしれない




『有難う御座います』





もしかしたらなにも考えなくて良いように水やりを教えていてくれてたのかもしれない

そうじゃなくともそう思うことで救われる気がする





『本当に…有難う御座います』





ああ、何でだろう…今まで一滴もでなかった涙がポタポタと溢れてくる






「篠原さんは悪くないし馬鹿じゃないよ」





現実を受け止められなかった私に現実を忘れさせてくれた





「好きな人が困っていたら助けたいって当たり前の事だと思うよ」





私の頭を撫でるては先輩とは違って余計に涙が出るんだ




優しくて、優しくて…




「俺じゃ…駄目かな?」





すがらずには居られない





「俺は代わりにはならないけど篠原さんの心の穴を少しでも埋められたら」





駄目だとわかっているのに




「君に会ったとき君は絶望的な、自殺をしてしまうんじゃないかと思うような虚ろな目をしていたんだよ、そんな君を俺はほおっておけなかったんだ」




涙で歪んで見えにくいけど差し出されたその手を取ってしまいたくなる




「そのとき君を見た瞬間から俺、篠原さんのこと、好きになってた」





どうしようもなくその手にすがりたくなってしまう




「俺じゃ、駄目かな?」






簡単には忘れることなどできないと思っていた


だからこそ現実を受け入れられなかった


涙もでなかった



意地だったのかもしれない



そんなはずないと思いたかったのかもしれない






『ず、るい』






幸村先輩は私の心にぽっかりあいた穴を意図も簡単に埋めてしまった






『ずるいよ…幸村先輩ぃっ!』






まったく、反則だよ








「好きだよ名無しさんちゃん」





あぁ何て…酷い人だ…





このタイミングで抱き締めるなんて







『ぅっ…うぅ…ぁ…うわぁーん!!』






なんだうわーんってなんだその泣き方




まるで子供じゃないか





「よしよし、大丈夫大丈夫」





何が大丈夫だよ、子供扱いしやがって…って今の私にはその扱いが適当な手段で一番お似合いだ






『幸村先輩のばぁかぁーうぇーん!!』





「あはは、俺馬鹿?」




『馬鹿ですぅー!!』




「あっははは」







そのあと私が泣き止むまで抱き締めて背中を擦ってくれていた





「面白い顔だね」




涙と鼻水でぐちゃぐちゃな私の顔をきれいなタオルで優しく拭いてくれた




「さっき言ったこと本当なんだ…でもいきなり返事がほしい訳じゃないからとりあえず





俺のファンから始めようか」







『私、腰巾着や専属メイドと言われるくらい引っ付き回りますよ』





「それは幸せだね!でも俺、奴隷とか腰巾着が欲しいわけじゃなくて篠原さんに彼女とかそれこそ奥さんとかになってくれた方が嬉しいな」





そんな彼は変わり者だ




幸村先輩は変わり者だ





『ではとりあえず…その私の涙と鼻水で汚れたタオル、きれいに洗って御返しすることから始めます』





そして幸村先輩より私の方が遥かに







変わり者だ








次の日から私が幸村先輩に引っ付いているのを見られ友達に「何があった詳しく聞かせろ」と言われたのでファンになったと言ったら驚かれたあとひっぱたかれ抱き締められた



何でやねんと思ったけど「あんたが死にそうな顔してたから」と言われ泣かれてしまって友達にも迷惑をかけていたのだと始めてわかった




そのあと「私が狙っていた幸村先輩をよくも!」と足4の字固め(プロレス技です分からなかったらry)をくらいましたがね



それでも許してくれたのか頑張りなさいよと言われて泣きそうになった私に「あーでもムカつく!!」と腕ひしぎ逆十字固め(プロレス技でry)を仕掛けてきたがね





あ、そうそうこの前幸村先輩にお弁当を渡しに行ったとき先輩に会いました




「おお!名無しさん!お前のために彼女と別れたんだ!弁当サンキューな!」


とアホを拗らせていたのでにっこり笑って




『幸村先輩呼んでいただけますか?』



と言ったら見せつけるかのごとく私のかたに手を回し教室にいた幸村先輩を大声で呼んだんですが呼ばれて此方を向いた幸村先輩と目があって




「やぁ名無しさんちゃん」




『こんにちは精市先輩!今日は銀鮭の塩焼きです』




「いつも有難う、ところでお前…俺の好きな人の肩に触らないでくれるかい?」





そのときの先輩の顔ったら無かったです



『私のことを下僕扱いしてくださり無下に扱ってくださったことに感謝しています。お陰様で学校一番素敵な精市先輩にお弁当を食べていただけるんで…あ、先輩は彼女さんいらっしゃるんでしたっけ?もう二度と私に触れないでくださいね』





「あ、駄目だよ名無しさんちゃん、彼「私は貴方の下僕じゃないわこの最低男」って言われてフラれてるんだ」




『へー!それはそれは失礼いたしました!良かったですね!ざまぁ!』




「っぷ、さぁ行こう銀鮭が待ちきれないんだ」




『はい!どっかの誰かさんは野菜を残すけど精市先輩は全部綺麗に食べてくださるので毎日幸せです!』





「ふふ、こんなに美味しいお弁当を残すなんてきっとバチが当たるね」






いやぁ、本当にあの顔ったら無かったですよ!

ええ、そらぁもう半端じゃなかったです




あの先輩の彼女さんだった方は他校だったのにどなたかに私のことを聞かされたようで真田先輩バリの鉄拳制裁をしたとお花の妖精さんに教えてもらっていました


あのとき幸村先輩が目で「やっちまいな」と言った気がしたので『イエッサー!』となったわけです




本当に幸村先輩マジ幸村先輩です






「美味しい」




『えへへぇ』




季節は夏、幸村先輩のお陰でこれからが楽しみですよ





「名無しさんちゃん」




『なんでふか?』(モグモグ)




「好き」




『ゴックン、はい!私も好きです!』






今はまだ敬愛だけど






いつか愛に変わって




心の底から『好きです』と言える日まで






離れないでいられたらそれはそれで幸せなのである。





「この鮭どこ産?」



『宮城県産です』



「美味しい」




『明日は大間のマグロの竜田揚げですよ』





「本当?楽しみだなぁ」







それまではただただ幸せに浸っていたい私なのでありました。






おわり





これは失恋慰めシリーズとしてやってみてもいいかもしれないですね






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