Essence of love
□好きなこと
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あれから数日が経ち、仕事が休みの月曜日は特に予定もなかった。
部屋の模様替えでもしようと動き出してからクローゼットの中も整理することに。
『おっ!久々〜♪ここ最近触ってなかったからなぁー』
取り出したのはキャメル色のアコースティックギターで、かなり使い込んだ物だった。ガールズバンドを組んでいたときエレキギターと一緒に毎日練習していた。
バンドを結成したのは、高校に入ってからで田中冴子と出会ったからだ。
冴「あんた綺麗な顔してんねー!!
今さ!バンドのボーカル探してんだけど、一緒に組んでみない?目立つボーカルいると華やぐからさ!!」
『・・・それって顔だけで誘ってんの?バンドには興味あるけど私はギターしたい。これじゃ組めないねー』
冴「ん〰わかった!わかった!じゃ、ボーカルギターどっちもやってよ♪私、田中冴子!!ドラマーだよ!」
『ふふふっ♪誘われた私だけ忙しいじゃん♪いいよ!どっちもしてやんよ!私、ミユリよろしく!冴子!』
鳥野高校には吹奏楽部はあるが軽音部などなかった。お互いにギターやミニドラムを持ち寄っては、なんちゃって軽音部を結成。練習に没頭した。冴子とは馬が合い、3年間片時も離れずはしゃいだ。
『あん時はゲリラライブだ〰って屋上や渡り廊下で歌ったなぁー♪放送室をハイジャックしたっけ・・・ふはは!!本っ当楽しかった♪』
〜ミユリ高校時代〜
鳥野高校、放送室前にてギラギラと気合いの入った女子生徒が二人いた。
冴「ミユリいくぜーーーーー!!!」
『っしゃーコラァーーー!!』
バァン!!!と放送室の扉を開け放ちドカドカと中に攻め混んでいく。突然の出来事に驚いて、生徒が椅子から転げ落ちた。
生「ぅわあ!!なっ!!何なんだお前ら!?」
冴「チィース!昼休みに流れてる曲ってあんたが選曲してんの?万人受けも良いけどさーたまには粋な事したくならない?」
生「いきなり現れて何言ってんだよ!選曲だって適当だし。わりーかよ」
『よし!決まり!今からここは私達が占領する!!大人しくしててよ、人質なんだから!あんたは機械の操作を教えて!
ハイジャックだぁー!!はっはっはー!!!』
自作で演奏のみ録音したCDが一枚とマイク。CDをセットし、放送を開始するよう生徒に促す。
ピンポンパンポーン♪
『あーあーテステステス。皆さんこんにちはー!本日はお日柄もよぐぇ!!』
冴「馬鹿!何かしこまってんだよ!!皆!聞いてくれ!今日は特別な日なんでちょいと祝っていいかな!!」
『いいとも〜♪今日の為に二人で練習した歌と演奏があるから聞いてほしいんだ!!聞いてる〜!林田幸美(ユキミ)!!林に田と書いてその名もリンダ!!セーノ!』
冴子・ミユリ『「ハッピーバースデーーーーー!!!!イェーーイ!!」』
冴「リンダにプレゼントだよ!ザ・ブルーハーツでリンダリンダ!!!」
ゆっくりとエレキの音から始まる。
ミユリは持参したマイクを両手で包むように持ち、前屈みになり口元に近付けスゥーと一息吸って歌い始めた。
〜♪
『ドーブーネーズミ みたいにーうーつーくーしーくーなりーたいー♪
写真ーにはー写らないーうーつくーしーがーあーるーかーらぁぁぁーーー♪』
冴子・ミユリ
『「リンダリンダー!リンダユキミ!リンダァァー♪
リンダリンダー!リンダユキミ!リンダー!!♪」』
演奏の爆音だけでなく、放送のマイクには二人のハモった声が通っており、構内中に響き渡った。教室や職員室の生徒や先生がざわめき出したのもこれと同時だった。
ガヤガヤ
教室の生徒「何何これー!ちょーうけるんだけど!!今日誕生日でリンダってあんたの事だよね!?ゆきりん!」
幸「・・・ぅう〜恥ずかしい〜!!あんの馬鹿二人、私まだバンド入るとか言ってないのにベーシスト引き込む為のパフォーメンスのつもり!?(でも、私だけの為に練習してくれたの?)」
生「え、何で?楽しそうだしやればいいじゃん♪ベース持ってるんでしょ?」
幸「そうだけど・・・」
生「ほら、行ってきなよ♪ちなみに、誕生日教えたのわ・た・し♪こんなサプライズ一生ないよー」
幸「・・・んもぅ〜!!」
走って放送室に向かう。
歌の終盤になり。
冴子・ミユリ「リンダリンダリンダー!oh〜♪ぉおめでとぉーー!」
バタバタバタ
ガラガラーバン!!!
先生「くぉらぁー!またお前か!!」
『私だ』
冴「また騙された」
『全く気付かなかったぞ』
冴「暇をもて余した」
『神々の』
マイクを先生に向けて
先「遊び・・・!!って乗せんな!」
生徒「ブフっ!お前らここでポーズ取っても皆に見えてねぇから!!」
先「お前達今日こそは観念しろ〜!!」
冴「あらやだ銭形警部みたいな台詞♪」
『とっつぁ〜ん♪・・・っしゃ逃げるぜ〜』
先「待て〜!!逮捕だー!!反省文だ〜!!」
茶番が一通り終わり、放送室からバタバタと二人が飛び出す。正面からリンダこと幸美が走ってきていた。
幸「ちょっと馬鹿二人!こっちよ!!」
角を曲がり空き教室に滑り込む。
『きゃん!リンダマン!バント入ってくれるのね!』
幸「シッ!静かに!・・・よし、先生行ったわ。本当になんなのあんたたち!!」
冴「ウケたろ?青春ぽくね!!」
『最後のコントはアドリブだけどね〜』
幸「ったく!いーい?冴子!ミユリ!あんたたちのセンスは認めるけど、雑すぎるのよ!あとあれ、独学でしょ!?しょうがないから私が基礎から叩き込んでやるわよ!!」
こんなことをしても多分バンドには入って貰えないだろうと思い、わざとハメを外したつもりだった。たが、幸美の思いがけない言葉に二人はポカーンとした顔でいた。
『へ・・・教えてくれるって』
冴「嘘・・・じゃ本当に入ってくれんの??」
幸「中途半端が大嫌いなの!これで文化祭なんか出させないんだから!」
冴「やったー!」
『ヤタ!ヤタヨー!!』
生「はじめてーのチュー♪」
『ぬぉう!!・・・ビビったー!!先生かと思ったじゃん!!』
生「お前ら俺も共犯にしやがって!おまけに置いてくなんてひでぇ・・・」
冴「ワリワリ♪」
生「俺は圭人。楽器経験はねえけど罰として俺もバンド入れろ」
『ハァ?あんた音楽興味なさそうなこと事言ってなかった?選曲も適当だって』
圭「・・・お前ら見てたら楽しそうだなって・・・ちょっと鳥肌たったんだよ!わりーか!!////」
『シシシ♪』ニヤ
幸「ミユリがボーカルギター掛け持ちしてるから、エレキ譲りなさいよ」
『えーやだやだ!ギターしたいよ!』
冴「二人いてもいんじゃね?ボーカルに集中できるように主にカバーしてもらえば。つかミユリアコースティックギターでよくね?そういう曲とか好きじゃん」
『そだね!じゃ決まり!』
幸「早!まぁ、これからこだわりとか出来てくれればいんだけど・・・」
冴「バンド名どうする?」
うーんと皆で唸っていると、もう既に決めていたのか圭人が静かに呟いた。
圭「・・・hide and seek」
幸「それって・・・」
圭「意味はかくれんぼ。今、かくれんぼして結成したからな!あと、軽音部でもねーから知る人ぞ知る!って感じだろ?響きもいい!」
『かっけー!ちょおーかっけー!!じゃあ「hide and seek」に決まり!!』