夢小説

□男の子なんだね。
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男の子なんだね。



朝一番で班長から命じられた仕事は用具運びだった。
本当は、もう一人同じ班の子と一緒にするつもりだったけど、このところ喉の調子が悪いなんて言っていたのが、とうとう熱に変わったらしい。
ごめんね、というメモが私の部屋の前に置いてあった。
いや、落ちていたと言ったほうが正しいかもしれない。
そのメモには今まで扉に貼ってあったであろう、テープの切れ端が残っていた。
というわけで、私は一人で仕事をする羽目になった。
面倒くさい仕事だけど、体調不良なら仕方がない。
その子の部屋の前を音をたてないように静かに歩く。
「えっと……用具室、用具室。あ、あった」
いかにも、使われていません、という雰囲気が漂っている部屋だ。
「失礼します」
誰もいないけど、いつもの癖で言ってしまった。
慌てて回りを見渡す。
よかった、誰も見てなくて……
見られてたら絶対に変な人だよね……

部屋の中を振り返った私は、その荷物の量にはっとしてしまった。
「これを、全部……」
班長からは荷物を全て二つ隣の部屋に移すように言われている。
部屋いっぱいに溢れるほどある、もの、もの、もの。
これらは、一体なんなんだろう。
私が新兵だからなのか、私にはそれが何に使うものなのかもわからない。
立体起動の部品のようにも見える金属みたいなもの。
でも、こんなパーツあったかな?
「と、とりあえず運ばなきゃ」

もう何回往復したことだろう。
いや、まだ三回くらいだったかな。
実際の回数よりも多く思うのは、この荷物の重さのせいだ。
何に使うかわからないこの『荷物』。
たった二つ隣の部屋に移す意味があるのだろうか。
移動する廊下の途中で力尽きた。
持っていた荷物を床に下ろす。
どすっと鈍い音が誰も居ない廊下に響いた。
こんなに重いもの、女の子に持たせて!
飛び出しそうになった言葉を寸前で堪える。
「ルーナ? 」
「エレン」
訓練の途中だと思う、立体起動をつけたままのエレンが私の後ろに立っていた。
「どうしたの? 」
私はエレンを見つめる。
でも、エレンと視線は合わない。
エレンの視線は今まで私が持っていた荷物に向いていた。
「そんな重そうなもの……頼まれたのかよ」
相変わらず、その『重そうなもの』に視線を向けてエレンは言った。
そうだよ、と言う代わりにこくんと頷く。
「持つよ」
溜息交じりの声でエレンは言った。
その溜息は面倒くさいっていう意味が入ってるの?
それとも……
「そんな細いのに重いもの持って……
 ルーナは頑張りすぎなんだよ。」
エレンは私が今までやっとの思いで持っていた荷物をいとも簡単に運んでしまった。
エレンが荷物を運び終えるのを目だけが追う。
「これだけか? 」
運び終えてしまったエレンが私のところに戻ってきた。
「うん。今ので最後。
 ありがとう。助かったよ。やっぱり、男の子は違うね」
エレンのふと見せる優しさに少しドキッとしてしまう。
「好きな子が困ってたら助けたくなるだろう」
感情が込もっていないような声色。
それでも、嬉しかった。
エレンが私に好きって言ってくれたのずっと昔のように感じていたから。
「守りたいっていうやつ? 」
私に背を向けて素っ気なく言い放つようにエレンは言う。
でも、エレン。
耳まで真っ赤になってるよ。
「ありがと。エレン」
エレンの顔を覗き込むようにお礼を言うと、エレンはそんな私を突き飛ばすように走って行ってしまった。

エレンはとっても不器用だけど。
でも、とってもとっても優しいこと、私は知ってるよ。
エレンの走りゆく背中にそっと呟く。

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