夢小説

□私の手の中で。
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ナナバ視点です。

私の手の中で。



時間は人が支配できない代表的なものだ。
早く、と願えばゆっくりと流れる。
止まれ、と願えばこれでもか、と言うほどに早く流れる。
「もう、こんな時間か……」
仕事を終え、今まで部屋を照らしていた太陽が壁の向こうへ消えていくのを窓から眺めながら、私は独りごちた。
もう、他の兵士たちも仕事が終わったのだろう。
暗くなる訓練場からぽつぽつと、人数が少なくなっていく。
もう完全に太陽の光が届かなくなり、薄暗くなった自分の部屋を後にする。
扉が閉められるときに鳴らす、重い軋んだ音が廊下に響く兵士たちの早足と不協和音を奏でる。
尤(もっと)も、今の私にとっては綺麗な楽器の音色さえ、それに聞こえてしまうだろうが。
それほどに、疲れが溜まっているのが自分でもわかる。
「ナナバさん! 」
扉の前で伸びをしていると、後ろから可愛い声が私を呼んだ。
「ルーナ!? 」
「ナナバさん」
どうしたのと聞きながら、背中から抱きしめる白い手を撫でる。
それが当たり前であるように、その手は私の手を抱きしめた。
「向こうから、ナナバさんが見えたから……」
彼女はそんな可愛らしい理由を口にする。
「そんなこと……このまま、時間が止まっちゃえばいいのにね」
急いで飛び退こうとする彼女の手をぎゅっと、握りしめた。
「遅いよ」
自分でも、意地悪だなと思いながらも、口元が緩んでしまう。
私は彼女の腕の中でくるっと回ると、彼女の顔がちょうど私の胸の位置にきた。
「今日は、ずっと一緒に居ようか」
そう言うと、彼女は小さな頬をまるで林檎のように真っ赤にさせた。
「ね? 大好きだよ、ルーナ」

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