東巻 短編

□柔軟体操
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「いっ、もう無理っ・・ショ。
と、とう・・・どう。い、たいっ」


「巻ちゃんからお願いしてきたのだからもう少し頑張ろうではないか」



ここはスポーツジム。
巻島が体育の時に自分でも思った以上に身体が固かったということで東堂に柔軟を手伝ってもらっていた。


ぐっと、東堂が巻島の背中を押すと巻島が痛みに顔を歪める。


「一旦休憩にするかね?巻ちゃん」



東堂が離れると巻島は仰向けに横たわった。



「は〜、骨折れるかと思ったショ」



「それは少し大袈裟だが、巻ちゃんは本当に体が固いのだな」



自販機で缶コーヒーを二つ買い、巻島に一つ手渡す。


「昔から柔軟は苦手なんだよ」



グッと缶コーヒーを一気に飲み干すと髪を掻き上げる。



「苦手を克服させることは大切だが無理は禁物だぞ。体は大丈夫かね?」




「ああ。ちょっとあちらこちら痛むけどまあ、平気ッショ」



巻島は立ち上がると肩を回したり屈伸したりした。



コーヒーを飲み干した東堂はかべに掛けてある時計を見る。

今の時間は午後の4時。


丁度小腹の空く時間帯だ。ここのスポーツジムはありがたいことにジムにレストラン、喫茶店更に銭湯も完備されている。


東堂は巻島の空になった缶コーヒーと自分のをゴミ箱へ捨てると荷物を手に撮る。


「巻ちゃん!今日の所はここまでにして風呂へ行かないかね?」


巻島は一瞬目を見開いたが直ぐに頷いた。

散々柔軟をさせられて汗をかいたところだ。
長い髪は内側にどうしても熱がこもってしまいじっとりと首筋などに汗が浮かぶ。


二人は先に軽食をとり、風呂に入った。


風呂をあがると普段やらない運動をしたせいか、巻島は疲れと睡魔に襲われていた。


二人でロビーのソファに座り涼んでいる間、何度も巻島は船を漕いでいた。


「巻ちゃん、眠いなら少し横になるかね?」


ここには仮眠をとるスペースもあるのだ。


誰が見ても眠そうな巻島に東堂が提案するが、暫く考える素振りを見せた後ふるふると首を横に振る。


「東堂、付き合ってもらってありがとうショ。今日はもう帰る」


目をこすりながら巻島は立ち上がる。


東堂も慌てて巻島の後を追いかけた。





「くれぐれも寝過ごして降りる駅を過ぎないようにな。あと、あまり目をこすると傷ついてしまうぞ?」



駅に着くと、東堂は巻島に母親役的な小言を言うと、いつまでも目をこすっている手を握り、やめさせる。


「・・・ショ」


ぼーっとした顔で頷くとホームへ向かって行く。

東堂と巻島は方面が逆なのでここでお別れだ。


暫く心配そうに巻島の歩いて行った方を見ていたが、踵を返して東堂もホームへ歩いて行った。











家に帰った巻島はそのままベッドに倒れるとすぐに意識は闇へと落ちた。


次に目が覚めると家に帰ってから5時間経っていた。


慌てて飛び起きると、チカチカと点滅している携帯が目に入った。


東堂からのメールが一件来ていた。


『疲れただろうからゆっくりと休んでくれ。また柔軟がしたかったらいつでも付き合うからな!!!

じゃあ、おやすみ巻ちゃん。


追伸
寝る時は身体が冷えないようにするんだぞ。』



「クハっ!」



巻島は携帯を閉じるともぞもぞとまたベッドに潜り込んだ。


今日はもう寝てしまおう。


心の中で、一日付き合ってくれた東堂に『おやすみ』と言うと目を閉じる。



これから、週に一回は東堂とスポーツジムに通うことになるとはこの時、想像もしなかっただろう。


ーーENDーー

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