東巻 短編

□山頂
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俺と東堂は東京の山を登っている。


俺は千葉の山、東堂は箱根の山に登り慣れているのでたまにはお互いに慣れてない山を登ろうということになったのだ。



山頂まであと3kmの地点を通り過ぎ、俺も東堂も大分息があがってきた。


すれ違う車ももうほとんどない。



東堂は気を抜けば一気に抜かれる。
なにせ、無駄な動きの無いクライミングをするやつだ。

言葉どおり、音も無く加速する。


俺が少し前に出ると東堂が追い抜き、それをまた俺が追い抜くということを繰り返しながら登って行く。


今日の天気は晴れだ。
ちなみに6月。


真夏に比べれば大分涼しく走りやすい気候だ。

山ということもあり、風もよく通る。









山頂まで残り500m。


あとは自分の力を出し切ってペダルを回すだけだ。



俺も東堂も一気に加速する。
周りの風景など関係なく、ただ前方に見える‘山頂’と書いてある標識だけを見つめる。





先に山頂についたのは俺だった。










「くそっ!負けたぁぁー!!」


山頂から少し歩いた所にある広場で俺たちは一休みをしていた。


「クハ!今回は俺の勝ちだな」


自販機でスポドリを買い、喉に冷たいスポドリを流し込む。


東堂はとなりで芝生に寝転がり煩く騒いでいる。


「次は負けないからな、巻ちゃん!!」


髪に芝などをつけて起き上がるとビシッと俺を指差して宣言してくる。



東堂はグッと伸びをするとまたパタリと芝生に寝転がる。


初夏の涼しい風と暖かい陽だまりが疲れた身体に睡魔をもたらす。


いくら汗をかいたといってもこんなに暖かいのだからこのまま寝てしまっても風邪はひかないだろう。


そう思うと余計に瞼が重くなる。


隣を見ると、さっきまで騒いでいた東堂もすーすーと寝息をたてている。


一人で起きているのもあれだと自分を納得させると俺も瞼をおろした。



ふと、今の時間が気になり目を覚ますと大分日はおちてそらがオレンジ色になろうといていた。


そろそろ帰らなければ千葉に着くのが夜になってしまう。


切り上げようと東堂を探すと木陰で誰かと電話をしていた。



ここからでは電話の内容を聴き取ることは出来ないが東堂の顔は嬉しそうだ。



じっと見ていると電話を終えたらしく東堂が俺に気づいた。



「巻ちゃん!起きたのか」



「ああ。そろそろ山下りるっショ」



そう言って、自転車に手を掛けるとさっき買ったスポドリの残りをボトルへ入れて、ペットボトルは捨てる。



自転車に乗り、東堂が自転車に乗るのを待っていると、何故か凄い勢いで東堂がこっちへ向かって来た。


「巻ちゃん!!明日は日曜だが何か用事はあるかね?部活とか」


「明日?・・・特に用事は入ってないぜ。部活も日曜はねえし」



「本当か、巻ちゃん!!ならばもう一度この山で勝負をしようではないか!」



明日の用事を聞いてくるから何かと思えばもう一度山を登るか。


別に疲れが溜まっているわけでもないが、今から山を下りてそれからもう一度登ってから帰るとおそらく千葉につくのは深夜になってしまうだろう。


いくら明日は何もないといえ、流石に深夜はまずい。


断ろうと思ったら、東堂に遮られた。



「ちなみに、もう一度山を登ってから千葉へ帰ると心配はないぞ!俺の家にそのまま来てくれ!ここからだと俺の家の方が近いしな!」



なるほど。
だから明日の用事を聞いてきたのか。



これでさっきの質問と電話で嬉しそうにしていた理由が分かった。


「分かった、分かった。ちなみに、お前の家にお邪魔するからって手は抜かねぇショ」


「もちろんだ!!手など抜かれなくとも次は俺が勝つからな!」



一度カチューシャを外した東堂はもう一度付け直すと俺に抱きついてくる。



「クハ!次も勝つのは俺っショ」



「ならば、次勝った方が負けた方になんでも言うことを聞いてもらえるというのはどうだ?」



東堂がロードに賭け事を持ってくるのは珍しい。


思わず東堂の顔を見ると、にっと笑うと顔を近づけてくる。

思わず目を閉じると瞼にキスをされる。


「わっはっは!おれが勝ったら巻ちゃんからキスしてもらうからな!!」


そう言うと自転車に乗り坂を下り始めた。


一瞬固まったが、慌てて俺も東堂を追って坂を下る。


さっき、瞼ではなく口にキスをして欲しかったと思ったことは絶対に東堂には言ってやらない。



次も俺が勝って、東堂に命令することを考えながら坂を下って行った。


ーーENDーー

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