Present 小説

□きっかけはいちご柄
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「隙有りっ!」

「きゃっ!やだもうやめろよー!」


最近クラスの女子達の間で謎のブームを巻き起こしているのは某妖怪ゲームでも携帯のアプリでもなく休み時間のスカート捲りだった。何が彼女達をそうさせるのか。音も無く忍び寄りお喋りに夢中になっている子の背後に周りすかさず手を振り上げる。
してやったりなやった側と悔しげなやられた側。その後の行動は攻守が逆になったり
「自分はやられないだろう」
と油断仕切って傍観していた女子に魔の手が伸びる。
思春期男子にとったらこれ程のラッキーイベントは無い。女子は皆対策として体育の短パンを履いていると分かっていても、アプリで通信対戦しながらもスカートが揺れる度そちらをチラチラ見てしまう。


「ねえ」

「何だい?」

「何でりなはスカート捲りの対象にならないの?」

「性格だろ」


チラチラ覗き見する男子と違い、ガッツリ見ながら──あまつさえ飲み物すら飲みながら議論を交わす男子が三人。イルミ、ヒソカ、クロロの三人はこのクラスでも群を抜いて色々な意味で悪目立ちしていた。
三人共に眉目秀麗、成績優秀。だが素行不良で出席日数に関してはお世辞にも優等生とは言えない。
しかし元々のカリスマ性と社交性、何より器用だった為クラスでも一目置かれていた。


「ちょっと、おい!」

「え、何?」

「アンタらよくガッツリ見れるよねー」

「逆に潔くて感心するデショ?」

「まあ、逆にそうね」

「ところで今三人で何話してたの?」

「ん?ああ…言い出したのはイルミなんだが…」

「何でりなはスカート捲りのターゲットにならないのかなって」


そう言った瞬間女子は顔を見合わせた。女子にも男子とはまた違った暗黙の了解が存在するのだ。イルミがスカート捲りのターゲットにと切望する女子、りなは言うなれば学級委員タイプでおふざけとは無縁に見えた。
真面目な性格と癖である敬語で話す様子からターゲットにしようと言う者はいなかった様だ。
女子がそれを話すとイルミは食らい付いた。


「でもさ、それって皆の憶測でしょ?りなももしかしたらやりたいかもしれないじゃん」

「…あのさ、ウチらはおふざけって前提で気心知れた仲でやってんの。何の生産性も無いの」

「じゃあ何でそんな生産性無い事してんの?」

「小学校とかでタッチゲームみたいなの流行ったでしょ!?アレの延長みたいなもん!!」

「じゃあハブる方が逆に可哀想じゃない?」

「好き好んでスカート捲られたいと思う!?」

「え?じゃあ皆好き好んでスカート捲ったり捲られたりしてんの?変態?」

「…うる…っさいなぁぁぁぁあ…!!」

「イルミ。その辺にしとけ。目の前の人間にビンタ食らう前にな」


そんなやり取りをしていると、つかつかと小さな足音を立てて一人の女子が現れた。渦中の人、りなその人だった。


「あの…お取り込み中すみません!数学のプリント集めねばならなくて…皆さんまだ出されてないみたいでしたので…」

「あ、次数学ネ。はい、りなちゃんゴメンネー」

「いいえ!ヒソカ君…相変わらず公式丁寧ですね…」

「フフフ。数学は得意なの」

「ああ、あった。オレも一応やってある」

「あ、あたしも!はい、りなちゃん!」

「あたし…は忘れた!?ヤバイ!」

「あ、では私間違えて二枚持って帰ってしまいましたので、残り時間使ってやりますか?」

「本当!?助かるよー!」

「後は…イルミ君ですね!イルミ君、プリントありますか?」

「……」

「あの…イルミ君?」


りなを凝視するイルミ。その場で先程のやり取りをしていた全員が凍り付く。
まさか。いやまさか。いくらイルミでも直接言うだろうか。言ったら言ったで三人の伝説が一つ増えるだけだがさすがにやらないだろう。だがその思いは簡単に覆された。


「りなはスカート捲りに参加しないの?」

「はぇ…?」

「………っ!!」

「イ、イルミ…!ちょ…!」


女子二人は言葉にならない叫びを上げた。本人目の前にして何を言うかこの男は。更にイルミはスカート捲りがどんな物か、その上で何故やらないのかまくし立てる。
りなは何とも言えない顔をしていた。


「あ、あのりなちゃん気にしないでね!ウチらが勝手にやってるだけだからさ!」

「そうそう!今日のイルミ暑さにやられたのかな!?本当気にしないで良いから!」

「りなは女子のスカート捲り見ててどう思うの?」


何を聞いてるんだ。
クロロと女子二人の意見が心の中で合致した時、何が何だか分からなそうな顔をしていたりなはにこりと笑うと


「えっと…。た、楽しそう、ですよね!無心になってふざけあえるって良い事だと思います!」

「男子にとって好きな女の子のパンツって一見の価値ありだと思うけどその辺りなはどう思う?」

「何聞いてんのよイルミ!」

「か、価値ですか…?あると思います!一見の価値はあると思います!」

「りなちゃんも乗せられて変な事口走らなくて良いから!」

「ここいつから演芸場の舞台になったんだい?」

「イルミがアホ抜かしたせいだな…」


りなはぎこちない笑みのまま席に戻る。一方イルミは女子二人の方を向き
「ほら、楽しそうって言った」
と勝ち誇った様に呟いた。
だが、負けじと女子も食い下がる。


「いや、だからってりなちゃんは標的にしないからね!」

「えー、やってよ。りなも一見の価値ありって言ってたよ」

「アンタが言わせたんでしょうが!アレは誘導尋問って言うの!」


予鈴が鳴った事もあり、皆即座に席に着く。イルミは授業の最中も未だどこか腑に落ちない感じだった。
皆はああ言ったが、実はイルミにはもっと深い考えがあった。
無心になってふざけあえるとは確かに良い事だ。そしてそのふざけあう中に入れるか否かと言うのは存外重要である。
「自分も無心になってふざけ合いたい」
そう思っても、人間関係の深さ浅さでふざけて良い対象か否か選別される。普段仲良く喋っていても、
「この子の性格は大人しく、こんな幼稚な事はしなさそうだ」
そう判断されれば否に分けられる。だが、分けられた本人が果たしてその判断通りの人間かと言えばそれは違う。判断とはあくまで大衆の物。本人に聞いたワケでは無いのだから。


「ねえ、りなのスカート捲ってってば」

「お前変態か!ってかしつこいよイルミ」

「りなも楽しそうって言ったじゃん。だからスカート捲ってってば」

「いいかげん無茶な事頼むなよ!」

「仕方ない…針で変装してやるかな…」

「ギタラクルに女子制服着せたら警察が来そうだねェ」

「…ギタラクルでそれはやめろイルミ。オレは想像だけで悪寒が走る…」


見ていて分かった事。
りなは誰からも好かれる子だ。だからこそ交友関係は浅く広い。特別仲の良い子は、あまりいない。
昨日からスカート捲る捲らないでイルミと揉めている女子も彼女の友達だ。派手で口は悪いが性根は悪くない。りなとも良好な関係。
だが、その良好な関係から先へ踏み出して、皆が思うより少しだけふざけるのが好きな自分を前面に出したがっているのをイルミは分かっていた。
スカート捲りが始まる度、立ち上がり係の仕事をこなしたり、うろうろしたり、まるで狙ってくれと言わんばかりにいるのもイルミは分かっていた。


「戻らないの?教室」

「あ、イルミ君…」


無表情だったりなはイルミを見てにこりと笑った。やはり今日も、スカート捲りが始まるタイミングで彼女は教室や廊下をうろついていた。


「りな、よく外見ながらボーっとしてるよね」

「えへへ、そうですね…」

「スカート捲りされちゃうかもよ?」

「され…るんですかね?」


嫌がらない辺り、やはり自分も輪の中に入りたいと言う気持ちはあるのだ。だが、それは自ら言う事ではないし、しかし待っていても残酷だが、無駄だ。


「嫌じゃないの?」

「この間イルミ君に言った事、嘘じゃないですよ?」

「そう」


その時──突風が廊下を走り抜けて行った。
風は無防備なりなのスカートを容赦無く捲り上げる。


「きゃあっ!!」

「…いちご柄」

「イ、イルミ君…見た…ですか?」

「ばっちしガッツリ」


真っ赤になって口をパクパクさせるりなと屈み込むイルミを見て女子二人は突入と言わんばかりに飛んできた。


「りなちゃんどうしたの!?」

「りなのパンツいちご柄だった」

「マジでやったのかよ!?」

「イルミ!」


突風のせいなのに、さも自分がやったかの様に振る舞うイルミ。女子二人に責められながら、彼はりなに言った。


「うん、やっぱり一見の価値有りだったね。とりあえずりなの真っ赤な顔も目蓋に焼き付けとこ」

「イルミ。お前そのままだと捕まるな」

「りなが気付いて了承してくれれば問題ないよ。今夜は幸せな夜になりそう」

「キミ、さらっと下ネタ混ぜるねェ…」


未だ呆然とするりなだったがイルミの言わんとしている事に気付くと、真っ赤になりながらイルミの制服の裾を引っ張った。


「あの、イルミ君!」

「何?」

「あの…私のここ、空いてますよ!?」


某芸人の物真似だろうか。真っ赤になりながら笑いを取ろうと頑張るりな。女子二人とクロロ、ヒソカが呆けている間にイルミはさらっと
「知ってるよ」
と呟いた。


──見ていたから。君の事をずっと。


本当はふざけ合うのも大好きで、例え生産性が無くても面白ければ、と言う感じで。輪の中に入りたいのに気付けば傍観するだけになってしまっていた事も、その状況を打破したくて頑張っていた事も。
そんなりなだからこそ、イルミはずっと見ていた。


「きゃあっ!」

「また風ー?」

「何か廊下をたまに通る突風りなちゃんだけ狙ってる気がするー」

「こら風!可愛い子だけ狙うなよ!」

「それ「ウチらブスです」って言ってる様なもんじゃね?」


特定の友達は出来たが、相変わらずスカート捲りは行われていない。だが、りなは幸せそうだった。
そんなもの無くても、りなが面白い子で冗談も通じる相手だと知った人間が増えたからだ。
そしてイルミもまた、幸せだった。


「今日は緑のボーダー。良いチョイス」

「イルミ…キミも大概だねェ」

「でもりなはオレの彼女だからヒソカとクロロは見るの禁止ね」

「待て。いつから彼女になったんだ?」

「りなが『私のここ、空いてますよ』って言ってくれた以上オレはそう受け止める」


チャイムが鳴る前にイルミはりなの下へ歩きだす。女子二人は察した様で顔を見合わせ溜息を吐いた。


「捌けろってんでしょ?」

「ピンポーン」

「はいはいご馳走様」


「じゃありなちゃん後で!」
と言いながら先に戻る二人。りなは改めてイルミを見ると、恥ずかしそうにモジモジした。


「わ、私で…良いんですか…?」

「りなが、良いの。オレは」


また廊下を突風が走り抜ける。イルミは少し身を屈めると、
「近くで見る緑のボーダー最高」
と呟いた。


「近くで…?既に遠目に見ていたんですか!?」

「当然」


カアッと顔を真っ赤にするりな。相当暑いのか透ける制服。
なるほど、ブラも同じ柄か。
イルミが何かを凝視している事に気付いたりながその正体を知り更に顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。
今後とも何卒よろしく。思春期は問題だらけなのだから。



end.



 
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