Present 小説

□一言で説明は出来ません
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夜中、ふいに目が覚める。
嘘だ。こんなの嘘だ。有り得ない。私はありったけのタオルケットを押し入れから取り出すとそれに包まった。
夢だ夢だ。こんなの夢に決まってる。
でも疑いは晴れなくて、私は暗がりの中携帯を見付けだすと思わずイルミに電話した。


『もしもし』

「イルミ!?起きてた!?」

『うん』

「どうなってんの!?」

『分からない。とりあえずウチは今急遽暖炉に火点けたところ』

「今日から七月でしょ!?」

『そうだよ』

「何この状況!?」

『分からない。でも十中八九、明日オレ調査に駆り出されるからりなも来る?』

「うん。でも何でイルミが?」

『異常が起き始めたのはウチの山からなんだ。だからおいでよ。じゃあね、お休み』


一方的に電話は切られた。


「良いな…暖炉…」


今日から夏本番。今日から七月の筈である。しかし、異常な寒さに目を覚まし外を見ると雪が降っていた。
雹が降る事は多々あるが、夏の暑い時に雪が降るなど有り得るのだろうか。
本来なら冷房を入れる予定のエアコンを暖房に切り替え眠りに就いた。


「おはよう、イルミ」

「おはよ」


何とかすぐ出せるところにしまってあった動き易く且つ可愛いセーターワンピースに厚手のタイツ、ダウンを羽織るとゾルディック家にお邪魔した。
試しの門の前でイルミと待ち合わせし、開けてもらって一緒に入った。キキョウおばさまは苛立ちを隠せない様でスカーフを噛みながらあからさまにイライラしていた。


「キキョウおばさま…どうしたの?」

「異常がウチから始まったから原因究明しろって協会から言われて…しかも功績上げたい気象関係のハンターが押し寄せて来てるからイライラしてるの」

「ふーん…ヒソカは?」

「無駄な人材はいらないけど人手は多い方が良いから一応連絡した。しかし天候を操るタイプの能力なんて持つ執事いないのに…」


それを聞いて私はしばらく考えた。異常気象はゾルディック家から始まった。
と、言うのも気象データを見ると一番最初に気温の変化が始まったのはククルーマウンテン。そこから広がる様に各地で雪が降り始めた。
それを証拠にパドキア共和国から離れた場所はまだ気温が徐々に下がりつつある状態に留まっている。


「…ヒソカ、遅くなるって」

「えー…」

「キルもミルキも別件で留守だし、カルトは母さんから離れないだろうし…仕方ない。先にオレ等で異常を探そう」


と言っても広大な敷地面積を誇るゾルディック家。異常の原因を探すなど、正に二階から目薬だ。
イルミは目を瞑ると辺りの空気がピンと張り詰める。「円」で何か探っているのだろうか。


「何か分かった?」

「うん、はっきりと」

「何!?」

「オレ、「絶」は得意だけど「円」はそんな得意じゃない」

「そ、そう…気付けてよかったね」


そうじゃねえだろ。
結局地道に探すことになった。しかしゾルディック家は全てが大きい。やる事為す事規模が庶民のそれじゃない。


「あ、もしかしてイルミの家クーラー壊れてるとか?」

「何で?」

「ゾルディック家って色々規格外だからクーラー壊れてその冷気が異常気象を引き起こした…とか!」

「りなはウチを何だと思ってるの?さすがに世界規模で異常を来すエアコンは持ってない」

「じゃあ何だろ…」

「大真面目にそんな事考えてたんだ…」


進展まるでなし。だがこの異常気象は本当に問題で、既に環境問題を専門に扱っているハンターが動きだそうとしている。まあ、キキョウおばさまが敷地内に入れるのを嫌う為門前払いを食らっているらしいが。


「あれ?」


その時、おかっぱ頭の着物の子が横切った。カルトちゃんだろうか。いつも足首まで覆う程の長さの着物を好んで着ていたのに、いつのまに動きやすい丈の着物を好む様になったのだろう。


「ねえイルミ」

「何?」

「カルトちゃん、いつのまに丈の短い着物着るようになったの?」


そう聞くとイルミは珍しく血相を変えあちこち見回した。何?私、何か変な事言った?
だってカルトちゃんが珍しいもの着てたから聞いたのに。


「りな、それどこで見た?」

「あっち」

「あっち…さっきから執事と連絡が取れないからおかしいと思ったら…」

「ち、ちょっとイルミ?意味分かんないよ!」


そう言うとイルミはひどく真面目な顔で私の顔を見た。


「オレはカルトが近くに居れば気配で分かる。例え視界に入らなくても。兄弟だし、同じ操作系能力者だから」

「う…うん」

「だけど後ろ姿が見える程近くにいたのにオレはその存在に気付かなかった。でもりなは気が付いた」

「…あ!」

「しかもカルトは今母さんの傍にいる。それに、相変わらず夏でも着物の丈はそのままだよ」

「…じゃあ、私が見たのは?」

「事件と関係があるかは分からない。ただ、不法侵入なのは確かだね」


実は昨晩、私が電話する少し前、試しの門の門番をしていたミケが凍り漬けになっているのをゼブロさんが発見したらしい。かと思ったら気温が下がり始めた為執事達はてんやわんやになりながら暖炉の用意、キルア君とミルキ君は明け方にそれぞれミケの為の栄養剤やら餌やらを買いに行っているらしい。
つまり私が見たのはカルトちゃんではなく、ミケを凍らせた張本人、或いはそれに乗じた不法侵入者。いずれにせよ今回の件に関わる何かの可能性が高いと言う事になる。


「敷地内をブロックに分けて執事を配置して連絡を取ってたんだ。怪しい者がいないか」

「なるほど」

「りなが見た謎の子供が向かった先は正に執事の誰一人連絡が取れなくなったブロックのある場所なんだよ」

「まさか…あんな子供にそんな力があるの…!?仮にもゾルディック家の執事さんでしょ!?」

「キルみたいな天才的な能力を持つ子も存在するんだ。不可能じゃない」

「…確かに。ちなみに執事さんと連絡が取れなくなったのは各ブロックに配置してどのくらい?」

「え?ブロックに配置してすぐだけど」


気温の寒さに関わらず私は凍り付いた。


「…ほぼ最初からそこに怪しい者がいるって確定じゃねーか!!」

「いやー…職務怠慢だと思ってこの件片付いたら皆死刑にしようかとか考えてたから」

「さっきから思ってたけどアンタ天然か!?天然だよね!?」

「違う。極めて合理的なだけ」

「合理的の意味知ってる!?」


もはや寒いを越して汗が出てきた。私とイルミは謎の子供が通った道を進む事にした。
何か感じる様な気がする。そんな勘の様な物を頼りに進むと草木が凍り付いているのに気が付いた。


「これ…」

「通った後みたいだ」

「あ!執事さん!」

「ん…?」


イルミが配置した執事が一人残らず凍り付けにされていた。驚いた顔のまま凍る者、困惑した顔で凍る者。私はその光景にぞっとした。
吹雪いた山で像がその形に沿って雪を被るなら分かるが、まるで大きな氷の塊に包まれている。
一体この敷地内に何が潜んでいるんだろう。


「って何してんのイルミ」

「あ、ちょっとかき氷をね」

「凍り付いた執事の氷使ってかき氷作る主人がどこにいるのよ!!」

「執事も助かるしかき氷も食べれる。一石二鳥」

「どんだけ食べる気!?」

「それは冗談だけど」


そう言うとイルミは少し削った氷を口に含んだ。
口の中でころころ転がすと、一言「普通の氷だ」と呟いた。


「普通の氷?」

「念能力で具現化した…とか変化系でオーラを氷にしたとかじゃないって事」

「つまり犯人は念能力とは違うもので無尽蔵に普通の氷を生み出せる…?」

「そうだね」


その時、頭の中に何かが浮かんだ。沢山のカルトちゃんに似た子と戯れる綺麗な女の人。
導かれるようにふらふらと歩き出す。凍り付けの執事を越した先にそれはいた。
白い着物を着た美しい女性。魔性の様な美しさだ。そしてカルトちゃんに似た風貌の子供達。


「なるほどね」

「イルミ」

「どう出てってもらう?」

「うーん…」


昔何かの本で少し読んだ。遠い遠い島国の、雪女と言う妖怪の話。雪女は成人すると自分の力を雪童に変化させ、その子達を遊ばせ冬の始まりを告げる。やがてその雪童が成人し、雪女になった時同じ様にして冬の始まりを告げる。
人々は冬を察知し、冬支度を始めるそうだ。つまり自然そのものの様な存在であるワケで。


「満足行くまであの子達遊ばせたら…あるべきところに帰る気がする」

「分かるの?」

「な、何となくだけど」

「ふーん。でも、そっか。じゃあ二人で見てよっか。子供達が楽しそうに遊ぶとこ」


イルミはそう言って私の手を優しく握った。私は顔を赤くしながら握り返す。考え過ぎかもしれない。でもまるで夫婦の様なそんな言葉に心臓を高鳴らせたのは事実で。
私の冷えきった手は、ゆっくりじわりと温かくなった。
その後、満足した子供達を引き連れ女性は消える様にククルーマウンテンを後にした。帰り際、気付いていたのか彼女は私とイルミを見、
「ありがとう」
と呟いた。後に島国、ジャポンのとある山が大規模な山火事に見回れたと聞いた。あの女の人と子供達はそこから逃げ仰せて来たのかもしれない。全ては憶測に過ぎないけれど。
ともあれ『夏なのに冬事件』はこうして終わりを迎えた。


「いやァ…ゴメンネ?ちょっと遊びすぎちゃって」

「仕事だって呼んだだろ」

「前の仕事がちょっとねェ…」


遅れてやってきたヒソカはそう言いながら私にウインクを一つ。それがどう言う意味かは分からないけど、何だか雪童をイルミと手を繋いで見ていた事を見透かされた様で、酷く恥ずかしくなった。
イルミはイルミで
「ヒソカがいなかったから良い思い出来たし良いけど」
なんて呟くから、余計に。
その後環境問題専門のハンター達は仕事の一環としてジャポンの禿山に植林に赴いたそうだ。案の定その年のジャポンの冬は暖冬。代わりにパドキア共和国は記録的な寒さ。
来年は、自分の馴れ親しんだ山で遊ばせてあげられたらきっとその方が幸せだよね。そう思ったら、山の復興を望まずにはいられなかった。
だけどイルミと、好きな人と手を繋いで遊ぶ子供達を眺めるなんて。それはそれで、私はとても幸せで。
そんな幸せが数年後に現実になるなんて、今の私が知る由も無く。
後からイルミにその話をしたら珍しく驚いた顔を見せて、
「…なら、兄弟でも作ってあげる?」
なんて大胆な発言をされる事も、今の私が知る由も無く──…。



end.



 
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