SHORT(gintama)

□お風呂
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「新八一緒にお風呂入って!」


彼女が一瞬何を言っているのか理解出来なかった。


「え?」

「さっき怖いテレビ見たから一人じゃ入れないの。だからお願い!」

「え?待って待って、りなちゃん僕一応男なんですけど」

「男でも女でもどっちでもいいよ!お願いお願い!」


そう言って手を合わせ、りなちゃんは僕に近づいた。正直、僕は彼女のお願いを断れる自信がない。下心はもちろんあるが、好きな女の子の頼みを断る術など僕は持ち合わせていないからだ。


「そ、そういうことは神楽ちゃんに頼むべきじゃない?」

「今日神楽ちゃんはそよちゃんのところでお泊りなんだって。だから新八しか頼める人いないんだよー!お願ーい!」

「で、でも銀さんもいるじゃない。なんで僕…?」


好きな女の子を他の男と、ましてや銀さんなんてとんでもない変態とお風呂に入れさせる気はなかったが、どうして他でもない僕にしかお願い出来ないのかが疑問だった。


「前にね、銀ちゃんとお風呂に入ったら鼻血ダラダラで大変だったんだ。私も血だらけになっちゃうからあんまり銀ちゃんとはお風呂入りたくないなって思って…それにどうせ今銀ちゃん出かけてていないもん」

「あの野郎なにやってんだ…」


僕らに隠れてりなちゃんとお風呂に入ってたとは、後で帰って来たらボコボコにしてやろう。


「ね?だから新八お願い…!」


こんな可愛い子にうるうるの目で上目遣いされては断れる訳がなかった。


「わかったよ。じゃあちゃんとタオル巻いて入るんだよ?それに僕は浴槽に一緒には浸からないからね?いい?」

「うん!新八ありがとう!」


満面の笑みを浮かべたりなちゃんは僕に抱きついて来た。いつも抱きついてくるとはいえ、やはり慣れないものだ。特にその歳にしては不釣り合いな大きな胸が、僕の体に当たって理性を飛ばしに掛かって来るのだから困る。


「ほらわかったからりなちゃん離れて。お風呂はもう沸かしてあるから、僕先に行ってるね」

「むー、はーい」


僕が離れるように言ったのが気に入らなかったのか、りなちゃんは頬を膨らませ服が入れてある棚の方へと向かった。


「ふぅ…」


安堵から溜息が溢れる。りなちゃんはもともと天人達の奴隷で、銀さんと僕達が救い出したはいいが行く宛がないので、この万事屋の一員として今は住み込みで働いている。

小さい頃から奴隷として生きてきた彼女は、読み書きができず、世間の一般常識すら知らなかった。
だから異性の違い等もわからず、歳相応の行動ができない。

仕方のないことだとは思うが、やはり何も知らない彼女がとても僕は心配だ。

外で変な奴に捕まっても拒否することはできるんだろうかとか、誰彼構わず無意識の内に色気を振りまいているんじゃないかとか、とにかく僕は出来る限り彼女の側から離れないよう努力してきた。

その結果がこれなのだから、彼女をこんな無防備にさせたのは自分のせいでもあるんだろう。

脱衣所で服を脱ぎ捨て、タオルを腰に巻いて風呂椅子に腰掛けた。眼鏡が曇り、取るのを忘れていたことを思い出し脱衣所に置きに行こうと扉を開くと、服を脱いでいたりなちゃんと目が合った。


「ごごごご、ごめんなさいぃぃ!」


動揺しまくる僕とは真逆に、りなちゃんは何を謝られたのかすらわかっていないようなキョトンとした表情で僕を見つめていた。

すぐに眼鏡を床の端によせて置き、扉を閉める。今から一緒にこの小さな空間で、裸に近い形で短い時間とはいえ共に過ごすと言うのに、初っ端からこれとはこの先どうなってしまうのか簡単に想像がついた。

のぼせてなど全くいないのに顔を真っ赤にさせていると、りなちゃんが扉を開けて入って来た。


「新八さっきはどうしたの?」


さっきのことを思い出すと、どうしてもりなちゃんとは顔を合わせられない。まだ裸ではなかったとはいえ下着姿を見てしまったんだから。

りなちゃんが僕の足元にあった桶を取り、お風呂のお湯を体にかけていく。
ゆっくりとでもりなちゃんの方へと顔を向けなくては、このままこの体制でいるわけには行かない。


「ううん、何でもないよ。ごめんね驚かせ…」


そこから後に続く言葉を僕は発することが出来なかった。代わりに…


「ギャアアアアア!!!」

「何!?どうしたの新八!」


大袈裟なくらいの悲鳴を上げる。大袈裟なもんか、だって、だって…


「ななな何でちゃんとタオル巻いてないの!?」


下半身はタオルを巻いていたが、肝心の上半身、つまり胸は全く隠していなかった。そりゃこんな悲鳴を上げてもおかしくないだろう。


「え?巻いてるよ?」

「下はね!?上も隠さなきゃダメなんだよ!?」


説教をしているのにも関わらず、りなちゃんのことをまともに直視出来ない。


「え?何で?新八だって下しか隠してないじゃん」

「女の子と男の子は違うの!」

「何で何で?別に見せたっていいじゃん!女の子だけ駄目なんて差別だよ差別!」

「差別なんかじゃないんだよ!もうお願いだから隠して僕死んじゃうからぁ…!」


彼女と全く話が通じず僕は参ってしまう。あきらめかけていた時、りなちゃんは胸を自分の手で隠し始めた。
やっと僕の思いが通じたか…ちょっと惜しい気もするけれど。


「しっ、新八死んじゃうの…?」


そう言って心配そうな、泣きそうな顔をする彼女の顔を見て思わず萌えてしまった。りなちゃんは本気で心配していると言うのに、我ながら変態だと思う。


「死んだりなんかしないよ!ただ、その…他人の胸を見ると心臓が持たないと言うか何と言うか…」

「ほんとに…?新八死んじゃわない…?」

「当たり前だよ。でももう男の子に胸なんて見せちゃダメだからね?凶器になり兼ねないからね」

「うん…!わかった、気をつける!だから新八、絶対死んじゃやだよ?私の前からいなくならないでね?」


涙目になりながら彼女はそう言い、僕に抱きつく。そのせいで今話の中心となっていたそれが僕の腕に直で当たった。

あ、ああ…


「アアアアーーーッ!!!」

「新八ーっ!?どうしたの!?」


それから僕は数秒ほど悲鳴をあげていた。りなちゃんが僕の両頬に手を添え顔を近づけたところでやっと我に帰ることが出来たのだ。


「新八大丈夫!?ずっと叫んでたんだよ?」

「うん…もう大丈夫。あのねりなちゃん、胸を見せるのもダメだし、誰かの体にくっつけたりするのもダメだよ?いい?」

「うん?わかった」


無垢な笑顔に僕までもが笑顔になる。本当は僕がいけないんだ。こんな汚い人間だから、世の中の男が汚いからいけないんだ。

それなのにりなちゃんは何も知らずに従って、こんな汚い僕に優しい笑顔を向けてくれる。


「約束だよ」


りなちゃんの頭を優しく撫で、小指を差し出すと、嬉しそうな笑顔を僕に向けて小指を絡ませた。


「うん!あ、じゃあ新八にもひとつ私とお約束して!」

「ん?なに?」


僕達以外いやしないのだから、誰かに聞かれる心配はないのにりなちゃんは僕の耳元でそっと言った。


「私以外の女の子に優しくしちゃやだよ?」


それに続いて頬に柔らかなものが触れた。それがりなちゃんの唇だということに気づくのにはそう時間はかからなかった。
そして、僕の顔が真っ赤に染まっていくのにも。


「ななななっ、何してるのりなちゃん!」

「だってだって新八は私にしか優しくなきゃやなんだもん。あ、でも神楽ちゃんはいいよ?でも一番は私なの!」


ぷくーっと頬を膨らませ僕の腕を掴んで揺らす。それって、もしかして…



「…りなちゃん、僕のこと…」

「大好きだよ!世界で一番!二番目は銀ちゃんと神楽ちゃん!」


満面の笑みでそう言われれば、冗談で言ったわけではないのだとわかる。
だったら、僕だって今まで隠してきた気持ちを表に出しても良いのだろうか。
仲間なのだからと抑えていたこの感情を…。


「…僕も、僕だってりなちゃんのこと世界で一番大好きだよ!」

「え!ほんと!?やったー!」


例えそれが僕と同じ好きじゃなかったとしても、世界で一番なら、まだその好きでもいいや。


「あ、でもね。銀ちゃんも私のこと世界で一番大好きなんだって!だから新八と喧嘩になっちゃうね」

「あんのおっさんは…」


後日、りなちゃんを無理やりお風呂に誘う銀さんの姿を見た。咄嗟に止めに入ろうとしたが、その必要はないらしい。


「りなちゃぁーん!前まで銀さんとお風呂入ってたじゃないの!何で急に嫌がるの!」

「だからね銀ちゃん、新八が男の人には胸見せちゃダメなんだって!それに銀ちゃん鼻血出すんだもん、お風呂が真っ赤になっちゃう!」

「そんなぁ…おいコラ新八ィ!テメェりなに何吹き込んだ!?あ!?」

「当然のことをりなちゃんに教えただけです。それに、これからは僕が銀さんとりなちゃんがお風呂に入ることを許しませんから」

「なんでお前にそんなこと決められる権利があんだよ!」

「ふふ、だって」


りなちゃんとばちりと目が合うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。僕も思わずだらしない笑顔を零してしまう。


「僕たち両思いなんですもん」

「はぁ!?嘘だろおい!りなー!嘘だと言ってくれよぉ!銀さんだよなぁ!?世界で一番大好きだろ!?」

「銀ちゃんは二番目ー!新八は一番なの!」

「ウワァァァン!」



end.



 

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