SHORT(gintama)
□バス停
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疲れた体を引きずるようにしてバス停へと向かう。今日の授業は地獄の7限の日。それプラス部活もあるんだからたまったもんじゃない。
スマホのホームボタンを押し、時刻を確認すると六時半過ぎを示していた。
「ふぅ…」
意識をしていたわけでもないのに自然と溜息が溢れる。今から家に帰るとしたらあと二時間後くらいに家に着くと言ったところだろうか。そりゃあ自然と溜息も溢れるわけだ。
学校からすぐ近くにポツンとある小さなバス停。そこで私はいつも一時間ほどバスを待つ。
田舎寄りのこの地域ではバスの本数が少なく、大体いつも一時間は待つ羽目になる。しかもこの近くに適当に時間が潰せるような建物もないし、友達だってほとんどこの近所に住んでいて、他の子は違うバス停。
駅だってここから一番近くても一時間ほどは歩く。だったらここで大人しく待っていた方が良い。
何にせよここで待つ以外に手段が無いのだ。
まだ一人で一時間待つのなら耐えられる。だけど…私と同じ状況の男の子がたった一人だけいるのだ。
歩く足を止め、俯いていた顔をちらりと上げる。ほら、今日も彼は私より先に錆びれた屋根の下、ベンチに座って本を読んでいる。
いつも、彼はそこで私が来るよりも先にそこに座ってバスを待っているのだ。きっと、彼も私と同じ状況下に置かれていて、そこで待つ以外手段が無いのだろう。
大人三人ほどしか座れない小さなベンチに控えめに座り、スカートのポケットからスマホを取り出す。
充電はあと36%、暇潰しにスマホを使えるのもあと少しだけのようだ。非常時のために15%程は残しておきたい。
スマホを節電モードにし、ふと隣に座る彼に目を向ける。彼は本に集中しているのか、私の視線には気づかない。
何を読んでいるのだろうと、本の表紙の小さな文字を目を細めて確認する。「世界が壊れるとき」という本のタイトルのようだ。
何とも物騒な本を読んでいるんだと思いながら再びスマホを弄ることにした。
ゲームやラインの返信、ブラウザ等を使っている内にあっと言う間に充電は15%にまで下がった。
仕方ないと思いながらもスマホをポケットに仕舞い、これからどうしたものかと腕を組む。
バスの時刻表が正しければあと五十分程でバスが到着する。いつもなら時間を潰すために本や漫画を持ってくるのだが、残念ながら今日の朝は遅刻しそうになっていた為本を持って来るのを忘れてしまった。
しまったなと思いながら本日二度目の溜め息を溢す。数秒程ボーッと目の前にある時刻表を眺めていると、急に本が視界の中に入って来た。
突然の出来事に「ひゃっ!?」と変な声を漏らしてしまう。それを聞いた隣の男は可笑しかったのか「クククッ」と小さく笑った。
「暇で仕方がねェんだろ。これ貸してやらァ」
そうして受け取れと急かすように、私の面前でパタパタと本を振った。あまりにも顔の近くに差し出されるものだから、反射的に本を掴んでしまった。
それを見た彼は満足そうな顔をして本から手を離した。
「こ、これ本当にいいんですか…?」
彼の顔を伺うようにそう言えば、「あァ」とだけ返事をしてまた読書を始めてしまった。
本当に借りてしまっても良いのだろうかという気持ちもあったが、背に腹は替えられず、結局その本を少し借りることにした。
お礼を言い忘れたことを思い出し、「本、ありがとうございます」と言えば、彼はこちらに目も向けずにまた、「あァ」とだけ返事をした。
そう言えば、彼とは何度もここで会っているが、これが初めての会話だ。
彼から借りた本に目を向ける。真っ黒な表紙と裏表紙に、タイトルは「世界の壊し方」と白い文字で書かれていた。
これもまた物騒なタイトルだなぁと思いながらもページをめくり読み始める。物騒なタイトルとは違い、内容はタイトル通りというわけでもなくしっかりとしたストーリーのものだった。
話もなかなか面白く、バスはあっと言う間に到着した。
「あの、この本ありがとうございました」
彼の右目を見ながらお礼を言い本を渡すが、受け取ろうとはしない。
「いい、読み終わるまで貸してやらァ」
「え、でも…」
「その代わり明日もここに来い。いいな?」
「は、はい…」
半ば強引に本を貸され、そして明日必ずここに来いとまで言われてしまった。
断れない性格の自分も悪いのだが、あの強面の彼の命令を誰が逆らえるだろうか。
今だからこそ気にしていないが、彼は初めて会った時から今の今までずっと左目に眼帯を付けている。
初めはものもらいとも思っていたが、一度も外している所を見ていない辺り、ヤンキーファッションなのか、はたまた中二病ファッションなのかはわからないが、私は前者の方なのだろうと思い込むことにした。
だってヤンキーならまだしも、中二病で眼帯なんて更にイタいじゃないか。
そんな思いを巡らせながら、揺れるバスの中彼から借りた本を鞄から取り出す。明日返せるように読み終えようと思い、さっきの続きをまた読み始めることにした。