SHORT(osomatu)

□中二病に恋した天使
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「何か面白いこと無いかなー。またみんなは家に居ないし。お兄ちゃん寂しがってるよー」


とぼとぼ面倒くさそうに歩くのは、松野家の長男、おそ松。昼寝をしていて起きたら家には誰もいなくなっていて、寂しさから外に飛び出したというわけだ。

兄弟達が回りに居ないかと町中を探していると、見覚えのあるジャケットを見つける。


「え…あれって…」


黒の革ジャン、背中にはドクロ。スパンコールがこれでもかと散りばめられたキラキラのパンツ。間違い無い、あれは兄弟の中で唯一病気のカラ松だ。

ファーストフード店の窓際に後ろ姿を見せて座っている。恐らくこちらに振り返れば、あのお馴染みのサングラスもかけているのを確認できる。
それよりもおそ松が一番目についたのは…。


「女の子と一緒に居る…」


しかも上玉、と付け加える。カラ松と向かい合わせに座り優しそうな笑顔を向ける彼女は、天使でもあり女神でもあった。
まるで人形がそのまま人間になったかと思う程の綺麗な顔の造り、プラチナブロンドの柔らかそうな髪と、肌色と言うよりも白に近いくすみ一つ無い肌、そして、まるで快晴の空のような綺麗な瞳。

それは彼女の頭上に天使の輪っかまで見えてしまいそうな程の容姿だ。いや、本当にあるんじゃないか?幻覚か?と、一人で混乱するおそ松は兎に角二人を観察しようと店に入り、近くの席に気づかれないように座る。席ごとに壁がある店で良かったと、心の底から思う。
雑音の多いファーストフード店だが、隣の席なら二人の会話はギリギリ聞こえる。極限まで地獄耳を立て、二人の会話に耳を澄ませた。


「カラ松さんのお話、もっと聞かせて下さい」


見た目通りの高く可愛らしい声がカラ松に向けられる。それを聞くおそ松は、羨ましさで発狂しそうになる衝動を必死に堪えていた。


「そうだな…何か聞きたいことはあるか?」

「そうですね…あ、カラ松さんの趣味って何ですか?」

「フン、世界平和を…願うことだ」

「(うわぁ、初っ端から病気ってことばらしちゃったよ…)」


自信満々で彼女の質問に答えるカラ松に、おそ松はもう破局決まりだなと席を立とうとした時、彼女の高い声が響いた。


「わぁ、カラ松さんってとても優しいんですね…。世界のことをいつも考えてるなんて、凄く素敵です」


本当に感心しているような声の彼女に、おそ松は錯乱する。いや、明らかにおかしいだろと、ツッコミを入れたいおそ松だったがそのまま話の続きを聞く。


「フン…そう言ってくれるのは君だけだぜ、りな」

「(りなって!カラ松のくせに何呼び捨てしてんだっ!)」

「そうなんですか?皆さんカラ松さんの優しさに気付いてないんですね。勿体無い、ふふふっ」

「参ったな…惚れないでくれマイエンジェル」

「な、何言ってるんですかカラ松さんっ。じょ、冗談がきついです」


動揺する彼女におそ松は、まさかとは思うが考え過ぎだと想像していたことを打ち消す。
動揺したままの彼女はまたカラ松に質問を投げかけた。


「あ、えと、ご家族は何人いるんですか?」

「オレを含めて…8人だ」

「わあ!沢山いるんですね!ご家族のこと教えてくれますか?」

「ああ、兄弟は六人で全員…男だ」

「(オレ達のことちゃんと話すんだ。意外だ。だけど一々溜めるのうぜぇ)」


どうせオレ達の事隠して自分だけ良い思いしようとしてるんだろうと、思っていたおそ松だがカラ松を少し見直す。


「へぇー!六人兄弟なんて楽しそうですね!」

「ああ、楽しいさ。皆いいやつだから今度…会わせてやるよ」

「そ、そ、そ!そんな!わわわ私そんなつもりじゃ…!」

「フン、そんなに照れなくてもいいんだぜ?」

「(うわぁ、めっちゃ調子に乗ってんのにあの子無視しないなんていい子だな…)」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」


恐らく今彼女の顔を見たら赤面しているだろう、とおそ松は心の底から思った。
暫くりながカラ松に質問を投げかけ、それをカラ松が返すというやり取りを繰り返すと、りなが時計でも見たのかそろそろ帰ると席から立ち上がった。


「きょ、今日は色々とありがとうございました。もも、もし良かったらまたお会いしたいです」

「勿論さ、オレ達は運命の赤い糸で結ばれているんだ。必ずまた会えるさ」

「そそんな…!私とカラ松さんが運命の赤い糸で結ばれてるだなんて、めっ滅相もないです!」

「そんなに照れなくてもいいんだぜカラ松ガールズ」

「わわわ私帰りますね!ありがとうございました!」


急いで店から出て行く彼女をカラ松が呼び止めようとするも、りなは顔を真っ赤にさせて店を飛び出してしまった。
りなが出て行ったのを見計らい、おそ松が後ろからカラ松の背中を強く叩けば「うわあ!」と大声を出して転んでしまった。


「テメェ何オレより先にリア充の道進もうとしてんだよ!」


転んだ体制から立ち上がれば、カラ松はおそ松の顔を見て顔を青くした。


「お、おそ松か!何だ驚かすなよ」

「それはどうでもいいんだよ!テメェあの可愛い子ちゃんは誰だ!」

「フッ、その事か…あの子はオレの…ガールフレンドだ」

「ふざけんなよこの中二病!お前あの子に何した!金でも払ったのか!?あ!?」

「言いがかりはやめてくれ。あの子はオレに夢中なのさ」

「調子に乗んなニートのくせに!紹介しろ!絶対あの子オレに夢中になるよ!」


カラ松の胸ぐらに掴みかかり、服が伸びてしまうほど引っ張ると、おそ松は急に手をパッと離した。


「そうか…これだけオレら似てるんだし、オレの事カラ松だって思ってもおかしくない!」

「な、何言ってるんだおそま…」

「りなー!オレの天使ー!」

「待てっ!ちょ!」


全速力で店から出ていったおそ松を追いかけるも、カラ松が店から出た時にはもうおそ松の姿は見えなかった。


「戦争の予感がするぜ…」



***



「 りな ちゃんと言う天使を見ませんでしたかー?あ、女神にも天使にも見間違われるから女神でもいいですー!
本当に天使の容姿なんですぐにわかると思いますー!誰か知りませんかー?」


町中をこんな掛け声をしておそ松が歩いていると、肩をポンと叩かれた。


「あ、あのー。もしかしてあの人ですか?煩いんでその大声やめて欲しいんですけど…」


気の弱そうな男が指を指す方向に目を向ければ、間違いない、そこにはさっきの天使がいた。目をハートにさせ、よだれを垂らして近付こうとしたが、その隣にはまたもや見慣れた後ろ姿が。


「本当だよ僕、カラ松だよ」

「で、でもカラ松さんは…」

「何してんだよトッティーお前邪魔!どけよ!」

「げっ、おそ松兄さん!」

「やあ、マイハニー。また会ったな、やはりオレ達は運命の赤い糸で結ばれていたのか…」


おそ松は見事なまでのカラ松の物真似をして りなを騙そうとした。トド松も同じく、トド松を見た りながカラ松だと勘違いをしたところ、自分がカラ松ではないと言うとデートを断られたので、自分はカラ松だと言い張ったところだった。


「あ、あの、お二人とも、カラ松さんのご兄弟さんですよね?」

「違うぜマイエンジェル!このオレを忘れたのか!」

「だって…カラ松さんはもっと優しい人なんです。兄弟を突き飛ばしたりなんてしなくて、ましてやナンパなんてしません…」


申し訳なさそうに口を開けば、りなは遠慮がちにそう言った。
それを聞いたおそ松とトド松は顔を見合わせぶはっと吹き出す。


「何だ、バレてたのかぁ」

「おそ松兄さん結構名演技だったのにね。それより何なのこの状況!この天使が何で糞松兄さんなんかを!?」

「それはこっちが聞きたいよ。まあ、でもこの子がさっき言った通り何じゃない?ね?」


おそ松がりなをの方を向きにこりと笑えば、りなも笑顔で「はい」と答えた。


「カラ松さんとても素敵な方ですよ。皆さんの事とても楽しそうに話してました。カラ松さん、皆さんの事大好きみたいですよ」

「カラ松兄さん…」

「まっ、オレは知ってたけどねー」

「ふふふ、じゃあ私行きますね。今からお仕事なので、またご挨拶にいきます」

「うん、またねー」

「お仕事頑張ってねー!」


互いに手を振り合えば、りなは人混みの中に消えていった。それを見送ると二人は自然と歩き出す。


「彼女いい子だったね。おそ松兄さん」

「うん、そうだな」

「本当だったら見逃さないけど、今回は仕方ないね」

「カラ松にゾッコンみたいだしな」

「幸せにしないとほんとに奪ってやる」

「オレが相手してやるからあの子には手出さないであげてよ」

「え?何でそんなにカラ松兄さんの味方するの?ねぇおそ松兄さんってば!」

「さーあね」


その後おそ松とトド松が家へ帰ると、扉がガラリと開かれる音に反応してカラ松が居間から慌てて出てきた。


「お、カラ松ただいま。それがさー」

「マイエンジェル! りなには、な、何もしてないのか?
もしも変なことでもして誤解されたらオレは…ううっ…」


目に涙をためて泣きそうな顔になるカラ松を見て、トド松はこれなら仕方ないなぁと微笑んだのでした。



end.



  

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