宵闇と明番の古書
□飃花弁
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『これは短く長い時間のお噺。』
白い蝶々が花へ花へと移ろいゆく。風が吹いては強かに揺れる。
『大正という短い時代の中、とある旧家のとある部屋に1つの女がいました。』
そんな生に満ち満ちた生き物の、細い茎に荒れた大きな手が伸びる。手折った遺骸を縁側に座る女の髪に挿した。
『小鳥も溜め息をつくほど美しい顔立ちに、花の全てを引き出す上品さ。女は他の女をも引き寄せるほど美しかったのです。』
濃い蜜柑色のその花は女の芝翫茶の髪によく馴染む。
女はほんの少しだけ口角を上げて笑って見せる。
「有難う御座います、主」
主と呼ばれた男は何も言わずその美しいものの前髪を整えてやる。女は嬉しそうにその行為を受けた。
前髪で隠れた額がりらりと見える。荒れもない滑らかな肌に、ヒトではありえない、大きなひびが入っているのが見えた。
『女は人ではありませんでした』