宵闇と明番の古書

□飃花弁
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鼻先を花弁が擽る。甘い甘い花の匂いがした。視界を閉じる瞼を通して柔らかな光が外への好奇心を刺激した。




そっと薄目を開ける。瞼からかすかにパキパキと音がした。




何ヶ月ぶりに目を開けるだろうか。久しぶりの目に刺激を受けたので自然と涙が流れた。




揺らぐ視界は主の愛した中庭を映す。




奥様が大事に育ててきた花々が鮮やかに咲いていた。




学の無い私にも、花の名前ならわかる。




アネモネ、オモト、カエデにスイセン。挙げたらきりが無いほど庭に咲き誇っている。




中でも、主が好きだった桜は薄紅に色付いていてため息が出るほど美しい。




―主、もう桜が色付いていますよ。




早く帰ってきてください。




奥様も秋様も、皆さんお待ちしてますよ。




再び目を閉じる。




闇に身を任せた。
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