宵闇と明番の古書
□飃花弁
2ページ/3ページ
鼻先を花弁が擽る。甘い甘い花の匂いがした。視界を閉じる瞼を通して柔らかな光が外への好奇心を刺激した。
そっと薄目を開ける。瞼からかすかにパキパキと音がした。
何ヶ月ぶりに目を開けるだろうか。久しぶりの目に刺激を受けたので自然と涙が流れた。
揺らぐ視界は主の愛した中庭を映す。
奥様が大事に育ててきた花々が鮮やかに咲いていた。
学の無い私にも、花の名前ならわかる。
アネモネ、オモト、カエデにスイセン。挙げたらきりが無いほど庭に咲き誇っている。
中でも、主が好きだった桜は薄紅に色付いていてため息が出るほど美しい。
―主、もう桜が色付いていますよ。
早く帰ってきてください。
奥様も秋様も、皆さんお待ちしてますよ。
再び目を閉じる。
闇に身を任せた。