龍如長編(壱)

□伝説 -真実-
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朝、自分の上司である久井から凛生が保護されたと連絡があった。
彼は自分が凛生を捜していたのを知っている、だから連絡をくれたのだろう。

谷村は久井に礼を言い、電話を切る。
それから急いで、まだ一度くらいしか行った事がない本庁へと急いだ。


タクシーを使って本庁まで行くと、谷村は驚愕の言葉を聞かされる。
凛生がいなくなったと、対応してくれている刑事はそう告げた。

「いないって、どういうことですか!? 保護されたんじゃなかったんですか!?」
「詳しいことは話せない、我々も困惑しているんだ」
「そんな・・・!」
「彼女が心配なのは分かる、だがここは一課に任せてほしい」
「・・・っ!」
「・・・唯一、私が推測として言えることは、おそらく彼女は自分の意思でついて行ったのではないかと思う」
「誰に、ですか・・・?」
「伊達という四課の刑事にだよ。 彼は彼女の先輩でもあり、同時に教育者でもあるからね」

谷村に対応していた刑事、須藤はそう言ったきり黙った。
俯く谷村の肩に手を置いてから、その場を静かにあとにする。

「凛生・・・、お前どうして・・・」

逃げ出してまで、ついて行きたかったのか。
危険な目に遭うと分かった上で、ついて行ったのか。

「バカやろ・・・、帰ってきたら覚えとけよ・・・!」

思いっきり怒鳴りつけてやる、これだけ心配させた挙句にあれ以降の一切の連絡もよこさない事に。
どんな事情があろうともう関係などない、理不尽だなんだと言われようが、彼女を叱ると決めたのだ。

そうしたら、どれだけ苦しもうと思いっきり抱きしめて、どれだけ嫌がろうとたくさん口づけして、絶対に放してやらない。
自分がしでかした事を分からせるまで、分からせたあとも。

「・・・早く帰ってこいバカ凛生」

一日でも早く、帰ってきてほしい。
そんな努力をしているのであれば、実現できるのであれば。
少しくらい、大目に見てやってもいいから。

谷村はそう願い、思い。

「・・・俺よりも、先輩の方が大事かよ」

やるせない嫉妬を、抱きながら。
状況に似つかない感情を抱く自分に、呆れながら。

重たい足取りで、本庁を後にした。



やっとの思いでロビーまで降りると、そこにはトラックが激突していた。
いったい誰がこんな事を、と考える前に前から人が。

「助けてぇ〜!イヤァ〜!!」
「レイコちゃん!」

レイコと呼ばれた女性を捕まえた男に、桐生も凛生もひどく見覚えがあった。
どうやらあの一撃から、一命は取り留めたようだ。

「よぉ〜う、桐生ちゃん!凛生ちゃん! 捜したでぇ」
「貴様は・・・!」
「真島の兄さん。 あんた・・・まだ生きていたのか」

あの時、一応、凛生が応急処置をしたと言えども。
あれ程の傷を受けて、たった数日でここまで動けるとは大した生命力だと、凛生は感服する。

「助けて・・・! お願い、助けて!」
「オォ〜、よしよし。 静かにせんかぁ!」
「やめないか!」

凛生がやめるよう声をあげるも、真島はそれをまったく耳に入れない。
それどころか、視線をこちらに向けようともしない。

「アァン? ・・・お前、ベッピンさんやないかい。 どや、俺の女にならんかぁ? どやねん?えぇ〜?」

震えているレイコに、真島は笑いながら答えを促す。
彼の手に持たれている短刀が、彼女の恐怖心を余計に煽る。

「い、嫌です・・・。 私、他に好きな人が・・・、ごめんなさい・・・!」

なんとも勇気がある女性だ、素直と言ってもいいが。
真島はその返答を受けると、表情を変える。

「真島、やめろ!」

桐生は彼が彼女を傷つけると思い、制止の言葉をかける。
だが、彼がとった行動は思いもよらないものだった。

「そうか・・・、正直な子や・・・。
 ええ!それで、ええ! ほれ、ココ危ないで! ・・・早よ、行き」

真島は彼女から体を離し、彼女に避難するように促す。
意外すぎる行動に、一同は瞳を見開く。

「・・・読めねぇなぁ、あんただけは」
「俺は、正直モンが好きなだけや、人の顔色うかがったりせんと。 俺が、そうやからなぁ」
「そうかい」
「この間は凛生ちゃんに邪魔されてアカンかった、俺も負けてもうたしなぁ」
「・・・・・・」
「凛生ちゃんは桐生ちゃんの次にやったるわ、今度は負けへんでぇ?」

短刀をクルクルと回しながら、真島は凛生を捉えながら告げる。
その笑みは、瞳は、獲物を狙う狂犬そのものだ。

「せやから、ココで"決着(ケリ)"つけようやないの、桐生ちゃんよぉおお!!」

真島が叫び、戦いが始まる。
凛生は念のために後ろの二人に害が及ばないよう、盾になる。

長い時間の壮絶な殴り合いが続き、建物はどんどん崩壊されていく。
そしてその末に立っていたのは、桐生だった。

「桐生ぅ・・・ホンマぁ・・・ゴツイわぁ〜、お前・・・は・・・」

真島はそう述べると、気を失った。
戦った事で崩れ落ちた瓦礫と、溢れ流れてくるお風呂の湯の上で。



凛生たちは騒動が激しい桃源郷をあとにし、アケミを連れて賽の河原へと戻る。
そこで彼女は、花屋からシンジの遺骨を受け取っていた。

「あの女がアケミか、辛いだろうな・・・」
「伊達さん」

遺骨を受け取っている彼女を見て、伊達は言う。
後ろを振り返って歩き始めると、桐生が伊達を呼んだ。

「風間の親っさんの居場所が分かった」
「どこだ?」
「芝浦の埠頭だ」
「近江連合の寺田という男が、風間さんの身を匿っているみたいです」
「近江連合だと!? 何で奴等が風間を?」
「分からんが・・・、シンジが命懸けで親っさん預けた相手だ」
「信じるだけの価値は、十二分にあると思います」

近江連合は、東城会の敵対組織。
けれどもシンジは命を落としてまで、風間を預けた男だ。

信じる、会いに行く価値は、その理由だけで足りすぎるほどある。

伊達はそうかと呟くと、『MIA』、神宮が目立って動き始めていると言葉を出す。
先ほど本庁に呼ばれ、桐生の事を根掘り葉掘り聞かれたそうだ。
これはおそらく、神宮から圧力がかかっている証拠だ。

「大丈夫なのか? 伊達さんや榊は」
「へっへ、逆だ。
 クビになってもおかしくねえのに奴等、お前とつるんでる内はクビにできねぇんだよ」

確かに、警察側にとっては伊達と凛生が唯一の桐生との繋がり。
それを自分から断つほど、彼らも馬鹿ではないようだ。

「行くんだろ、桐生、榊。 ・・・芝浦に」
「ああ」
「はい」

伊達の言葉に、二人は静かに返事をした。

桐生と凛生は寺田と風間に会いに、遥を連れて芝浦へ。
伊達は別行動で『MIA』と神宮の線に探りを入れてみる、と言って別れた。

おそらくタダでは済まない可能性は十分にある、二人は準備をしっかりして芝浦へと向かった。


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