龍如長編(壱)

□伝説 -責任-
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車の走るエンジン音が耳に入る。
凛生は助手席で、まだ日が明けきってない空を見上げた。

「・・・はぁ、やっちまったか」
「すまない・・・、伊達さん、榊」
「ま、どちらにしても俺はクビだったんだ。 遅かれ早かれな」
「えっ?」

凛生は伊達の発言に驚き、視線を空から伊達へと移す。
運転している伊達の顔は、どこか憂いに帯びていた。

「それよりこの事件・・・、思っていたよりも根が深そうだぜ」
「何か分かったのか?」
「あぁ。 これ・・・覚えてるか?」

伊達はそう言うと、ポケットからスターダストで襲ってきた男のバッジを取り出す。
花屋によるとこのバッジは『政府の地下組織』のものではないか、という事だったそうだ。

その情報を元に、調べてきたらヒットしたという。
内閣府の地下組織、『MIA(ミニストリー・インテリジェンス・エージェンシー)』という組織の物らしい。

内閣が直接指揮を執る部隊で、政治の裏工作から要人の護衛までこなし、責任者は警察庁出身の代議士である『神宮』という男だという話だ。
残念だが、この男が100億と遥とどう絡んで来るかまでは分からないと伊達は述べた。

「政治家までもが絡んでくるとは・・・」
「劉 家龍が、気になることを言っていた。
 遥には"100億以外の価値がある"、榊には"ペンダントと同じ価値がある"と」
「100億以外の? ペンダントと同じ?」
「ああ」
「・・・・・・」
「どういう事か分からんが・・・、もう一つ、取っておきの情報がある。 東京湾の死体だが、ありゃぁ、美月じゃない」
「「えっ?」」
「鑑識で身元が判明したんだ・・・、全くの別人だったよ。 はっきりした証拠もある、・・・歯形だ」

歯形はその人物のみにしか持っていない、人物の身元を特定できる一つである。
その証拠があれば、十分すぎるほど、美月の死の疑惑は晴れた。

「じゃあお母さんはまだ・・・」
「そうだ・・・、まだどこかで生きてるってことだ」
「美月さん、よかった・・・よかったぁ・・・」

彼女が生きていると聞けただけで、凛生の心は安堵に満ちる。
本当に取っておきの情報を持ってきてくれた伊達には、感謝の言葉が尽きない。

「なぁ、遥・・・。 俺は由美を、お前と榊は美月を探している。
 だが・・・、どんな危険があっても俺と榊がお前を守る。 榊と一緒に、必ず母さんに会わせてやるからな」
「約束、今度こそ絶対に果たすからね」
「うん」

桐生が遥に言う、凛生も助手席から言葉を述べる。
遥はそれに返事をして、桐生に抱きついた。

(まだ、約束は破られていなかった・・・)

だからこそ、今度こそ。
必ず守る、必ず遥を母親に会わせる。

どんな危険があっても、桐生と共に。
凛生はそう意気込んで、両手を握った。

それからふと、凛生はバックミラーを見た。
すると瞳に入ってきたのは黒い車が二台、そして窓から身を乗り出す男たちの姿だった。

「・・・! 伊達さん!桐生さん!」
「どうした榊?」
「つけられていますっ!」
「何!?」
「なんだとっ!?」

凛生の言葉に、伊達もバックミラーを見て顔を険しくし、スピードを上げた。
上げた事による衝撃が襲うが、それに構う事なく凛生は窓から少し顔を出して、様子を見る。

「まずいな、署を出てくる時につけられてたみたいだ」
「もしかすると蛇華の輩かもしれません・・・! こちらに銃を向けていますっ、このままでは・・・!」

凛生がそう言い放つや、一人がこちらに向かって発砲した。
その発砲先は、車のタイヤ。
ここで車がやられてしまっては、こちらの不利は圧倒的だ。

「くそぉ、仕方ねぇ!
 桐生、榊。 お前等はそいつで奴等の足止めをしてくれ」
「分かった・・・!」
「わ、私の拳銃・・・!?」
「署を出てくる時にくすねて来た」

投げるように手渡された拳銃に、凛生はひどく覚えがあった。
それは署に保管してあった、自分の拳銃だったのだから。

凛生は遥と最初に会った時に、彼女が持っていた拳銃をずっと身につけていたが、どうやらそれは軟禁されたあたりで取り上げられていたのだ。
だから、伊達の思わぬ配慮に感謝し、弾を確認する。

「桐生さん、交互に奴等を狙っていきましょう。 二人とも同時に弾切れになってしまっては、隙ができますから」
「分かった」
「遥は頭を下にさげているんだぞ!」
「う、うん!」

凛生は桐生と遥に言うと、桐生が身を乗り出した。
どうやら最初は自分から行ってくれるようで、凛生は彼が弾切れを起こした時のために、すぐに出れるようにスタンバイした。


最初は車、次はバイク、軽トラック、ワゴンと様々に続き、最後の大型トラックでようやく襲撃を終えた。
もう追って来る気配がないのを見て、凛生はホッと息を吐く。

「怪我はないか二人共!?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「私もかすり傷程度なので、大丈夫です」
「・・・! お前、頬から血が・・・!」
「だからかすり傷だって言ったんですよ、押さえておけば大丈夫です」

掠ったにしては、結構な血が出ている。
凛生は持っていたハンカチを取り出して、止血のために頬に当てる。

「たく・・・、女の顔に奴等・・・」
「大丈夫です、気にしませんので」

しれっと言う凛生だったが、内心は少し冷や汗を掻いている。
自分は本当にどうでもいいのだが、谷村が見たらどう思うだろうか。

ただでさえも勝手に姿をくらましている挙句、顔に傷など。
帰った時の怒りの原因が余計に増えた事に、凛生は内心でため息をついた。



しばらくすると、日が顔を出す。
街並みもようやく見慣れてきたものになりつつあり、凛生はホッとした。

桐生は起きていたが、遥はすっかり眠ってしまった。
もたれ掛かってくる遥を支えるよう、桐生は遥の小さな肩に手を回している。

「そうだ桐生・・・、お前の携帯」
「あぁ、すまない・・・」
「シンジから伝言が入ってる、・・・聞いてみろ」

桐生は伊達の言葉を聞いたあと、シンジから入っている伝言を聞く。
内容は自分の行動が全て錦山に筒抜けである事、そして情報を流している怪しい奴が傍にいるはずだから、気をつけるようにとの事だった。

「伊達さん・・・、花屋のところに行ってくれないか」

桐生は静かに伝言を切ると、伊達に行き先を述べた。
その顔は、何か確信を得たような、けれどもひどく悲しそうなものに見えた気がした。


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