龍如長編(壱)

□伝説 -価値-
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次の日、錦山との約束の時間までは十分ある。
なのでお詫びを込めて、遥と時間が近くなるまで外に出る事になった。

念のためにと、凛生は花屋が用意してくれた帽子を被り、赤髪を隠す。
特に行く宛は決まっていないが、賽の河原から出る事にした。

途中、花屋の息子の事を教えてくれたモグサという男に『面白い場所』を教えられる。
宝くじ売り場の女性に話しかければ、行けるというものだった。

なので、そこに行く事にする。
あとは適当に街をぶらつき、遥が行きたいと言った場所にでも行けばいいだろうと二人は思った。



宝くじ売り場の女性に話しかけると、あいつに聞いたのかと言われた。
どうやら二人は知り合いのようだ。

しかしその『面白い場所』に入場するには、10万円分の賭け札を買わなければならないとの事だった。

「・・・榊、お前の手持ちは?」
「ちょっとコンビニに行ってきます」
「悪い・・・」

そこまでするなら入らなければいいのだが、どうしても気になる。
なので、凛生はすぐそこのコンビニで提示された額を降ろし、女性に渡して、賭け札とやらを購入した。

行ってらっしゃいと言われた場所に背を向けて立てば、カラクリだったようでくるりと回った。

「忍者屋敷か」

ぼそり、と凛生は壁を見て突っ込む。
そのまま先の扉を入ると、本当に忍者屋敷のような建物の中に入った。

まあ、賭け札を買わされた時点でここは賭場と呼ばれる所なのだろうが。
奥に進むと案内役だろう男を見つけ、話を聞く。

説明を聞くと、奥へと通された。
中ではサイコロで賭けている男たちがおり、女である凛生と子供の遥は異質な存在に感じられる。

「お客さん・・・、家族連れかい?」
「社会勉強さ、・・・迷惑か?」
「正しくは"裏"社会勉強だと思いますがね」
「別に・・・。 ただ・・・ここには子供料金なんてありませんぜ」
「むしろあったら逆に驚きだ」
「はは・・・嫁さんの言うとおりだ、ちげえねぇ」
(今度は女として見られたのか、・・・遥がいるから?)

ふと、凛生は気づいた。
自分が男として勘違いされたのは、遥がいない時が多い。
逆にすぐに女だと理解されたのは、遥がいる時だ。

(・・・つまり、私は遥の母親として女に見られているのか)

とどのつまり、そういう事だろう。
中性的な顔立ちと今の格好のせいもあるだろうが、これは些かショックである。

今度からもう少し、女物の服に興味を示してみようか。
と、凛生はひっそりと決意した。

「入ります。 さぁ、張った張った!」
「丁!」

すると、一番最初に遥が声を上げた。
この場にいる者の視線は、一気に遥に集まる。

「威勢のイイ子だぁ」

壺振りの男が遥を見て、そう言う。
凛生もいきなり答えた遥をチラリと見つつ、苦笑いした。

「丁」

遥は遥で、桐生を見てもう一度、述べる。
桐生もそれに頷き、彼女が言う方に賭ける事にした。

「さて、いくつ賭けるか・・・」
「上限までいきましょう」
「え?」
「チマチマ賭けても仕方ありません、ここは上限マックスまでいきましょう」
「おっと、お客さんの嫁さんも威勢がイイこって・・・」
「嫁じゃないんだが、・・・分かった」

桐生の小さな訂正は誰の耳にも入らなかったらしく、とりあえず持ち点すべてを賭けた。
すると、結果は丁。

「やったね、おじさん!」
「あ、ああ・・・」
「次は凛生おねえちゃんが言っていいよ」
「ええ?」

遥に促され、次は凛生が言う事になった。
サイコロが入り、悩むよりも直感に凛生は頼る事にし。

「丁で!」
「おじさん、全部だよ!」
「あ、ああ・・・」

女性陣二人に言われ、桐生は言うとおりに賭ける。
すると、次も結果は丁だった。

そこから凛生と遥と交互に言いつつ、持ち点を上限に達するまで賭け続ける。
結果は面白いくらいに、当たり続けた。

「ちょっと中座させていただきます」

すると、壺振りの男が席を立った。
おそらくお手洗いにでも行ったのだろうと、凛生は見ながら思う。

「楽勝だね、おじさん。 なんか私と凛生おねえちゃん、才能あるかも」
「そうだなぁ」
(この変な才能(?)、正義にはバレないようにしよう・・・)

賭け事が強いと彼に知れれば、連れて行かれること間違いなしだ。
まあ、亜僑会のお金が困ったりしたら、たまには行ってやらなくはないが。

「私と凛生おねえちゃんのおかげで勝ったんだからね、なにかおごってよ?」
「ああ。 榊にキッチリ金返したらな」
「うん!」

そんな会話をしていると、壺振りの男が帰ってくる。
年のせいかトイレが近いと言いながら、彼は席に戻った。

「次はねぇ・・・、半!」

遥がそう答える、そんな彼女を壺振りの男が怪しげな笑みで見つめたのを凛生は見逃さなかった。

彼が中座から再開してからというもの、それからの遥と凛生の直感は当たらない。
彼が席を立つまでは、お互いに百発百中だったというのに。

(ん? ・・・もしかしてあのサイコロ・・・)

彼が入れる瞬間に見えた、サイコロ。
何か鈍色に光る物が、見えた気がする。

桐生が席を立ち、遥と凛生もそれにならう。

「お座りいただきましょうか、お客人」
「気安くさわるな」
「いででで・・・!」

立ち上がった桐生の肩に手を置いた見張りの男の手を、桐生が捻り上げる。
他の男が桐生に突っかかるも、彼は容易く払った。

払われた男は壺振りの男にぶつかり、反動でサイコロが手から放れる。

「なにやってんだ、コラァ!」
「邪魔すんじゃねえよ!」
「邪魔したなぁ」
「待ちやがれ! ・・・あっ」
「おじさん」
「やっぱりか」

凛生の手には、先ほど彼の手を放れたサイコロが。
しかし普通のサイコロとは明らかに違う事を、そのサイコロ自身が示していた。

「おい、アレ・・・なんだありゃ!?」
「随分と変わったサイコロをお持ちだな・・・」
「イカサマじゃねぇか!」
「どうなってんだコラァ!!」

イカサマの所業がばれると、壺振りの男は焦りに色を染める。
しかし、その顔は怒りも刻まれているのが分かった。

「ふ、ふざけやがって・・・。 おい、出て来い!」

男が呼ぶと、襖の向こうから屈強に見える男たちが出てきた。
何かと思い見ていると、壺振りの男はこちらを指差して。

「イカサマだ! つまみ出せ!!」
「「「はあ!?」」」

と、あらぬ事を言った。
どうやら自分の身の危険を避けるため、イカサマを明らかにしたこちらに罪を被せて逃げようという魂胆か。

呆れてものも言えない凛生と桐生は、とりあえず遥を下がらせ、出てきた用心棒と壺振りの男を倒していった。

「ちょ、ちょっと待った。 もう勘弁してくれ!」
「サマぁやらかした壺振りのケジメ・・・、どこでも相場が決まってるもんだ」

そう言いながら桐生が見た先は、用心棒の誰かが持っていた短刀。
つまり、彼が言いたい事は、壺振りの男も分かっただろう。

「いや・・・でも、それは」
「お客人・・・」

見えた未来に怯え、壺振りの男は震えた声を出して拒否をする。
埒が明かないと思った矢先、別の声が聞こえた。

「大変、失礼致しました。
 手前、ここの仕切りをやらせて頂いております」

襖から出てきたのは、老人と用心棒であろう男たち。
彼が言うにはこの壺振りの男は、流れ者らしい。

身内の後始末はこちらがキッチリとつけるので、任せてもらえないかという話だ。
三人は顔を合わせて、こちらも帰るところだからあとは任せたと言って、外へと戻った。


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