龍如短編

□小話@
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おそるおそると、品田の無骨な手が彼女の背中に回る。
まるで壊れ物を扱うようにそっと、そっと、抱きしめた。

肩に顔を埋(うず)めれば、華奢なそこがピクリッと小さく跳ねる。
これから行う事への前兆だと思われたのか、感度がいつもより増しているようだ。

「優しく・・・するからさ」
「っ・・・辰雄さ・・・」
「だからそんなに怖がんないで?」

眉を下げて、情けなく笑う品田に彼女の視線は彷徨うばかりだ。

『怖いならやめる?』

そんな優しい言葉をかけてあげればいいのに、やっと訪れた機会を逃したくないため、言わない。
我ながら卑怯だと思う、逃げ道を作り出してやる気は更々ないのだから。

埋めていた肩から香る、彼女の匂いに頭の芯がクラクラする。
仕事の関係で幾度となく女性と肌を重ねてはきたが、こんなに純粋な気持ちで行為をするのは久しぶりだった。
自分の初体験の時は、どうだっただろうか。

「ひっ・・・!」

まあ、そんな事はどうでもいい。
グッと服を掴んで下げてやれば、すぐに首筋が剥き出しになる。
そこに唇を寄せ、ちゅ・・・と吸い付いてやれば、面白いくらいに彼女の肩は大きく跳ねた。

ああ、なんて愛らしい。
穢れを知らない彼女を、こんな穢れてばかりの自分が抱いていいのかと葛藤してしまう。

でも、それでも。
彼女は自分を選んでくれたのだ、だったらいいじゃないか。

その葛藤はすぐに打ち消され、真っ白な首筋に所有の証である赤い花弁を残していく。

「あ、やっ・・・!」
「ヤダって言っても、やめないからね・・・」
「ひっ、あ・・・!」

ぺろ、と喉を舐めた。
細くて白い首周りを一頻り堪能してから、品田の手は彼女の服の下へと侵入していく。
いちいち反応させるような手つきに、彼女は恨めしそうな顔をして、せめて声は出すまいと下唇を噛む。

「あーあ・・・。
ダメだって、切っちゃうでしょ?」

ちゅ、と自分の唇で彼女の唇をついばむ。
舌を遣わせ、深く絡みとる。

それだけで、彼女は脳震盪を起こしそうな錯覚に陥った。
座ったまま行われていた行為は、徐々にエスカレートする事を予測し、品田はゆっくりと彼女を押し倒す。

いつの間にか服の上ではなく、下から背中に回った彼の手は。
ゆっくりと、行為をする上で邪魔だと判断されるものを取り払いにかかった。

恐怖に満ちた目で自分を見つめてくる彼女にそっと微笑むだけで、助け舟の言葉を発しない自分は。
やっぱり卑怯者だと、品田は再び認識した。



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