龍如長編(零)

□淵源 - 序章 -
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あたりは、血の池が2つあった。
その上に倒れているのは、自分の父親と母親。

息は、とうの昔に途絶えていた。
そんな2人を震えながら見ている、自分と兄。

近づいてくるスーツを身にまとった男たち、・・・俗に言うヤクザ。
殴られた、そして無理やり立たされ、どこかに連れて行かれる。

どこか暗い地下のような、倉庫のような場所。

兄が隙をついて1人の男から拳銃を奪う、何処かを撃つ。
それがドラム缶に当たり、爆発した。

燃え盛る炎、慌ただしく押し入ってきた無数の足音。
それが警察官たちだと、気づくのに時間はかからなかった。

「──・・大丈夫か嬢ちゃん!?」

1人の刑事が、来ていたコートを自分にかぶせ、ここから連れて行こうとする。
しかし抗う自分、兄を残していけないと泣き叫ぶ。

けれど、それは虚しくも無意味で。
外に連れ出されて、しばらくもしないうちに、・・・倉庫らしき建物は爆音を立ててさらなる炎に包まれた。

赤い、赤い、赤い。
天へと通ずるような熱が揺れめき、周りの闇を強く照らしていた。



そこまで見て、ふっと目が覚めた。
過去の夢を見るなんて、夢見は最悪だ。

ベッドからむくりと起き上がると、ボサボサになっている赤毛が揺れる。
光に当たったそれは、綺麗な朱色を反射させた。

「・・・!」

その髪を、グシャリと握りつぶす。
自分が襲われる、誘拐される、両親と兄が殺される原因となったそれ。

キッチンへと向かい、水を飲む。
シャワーを浴びて、頭を引き締めて、着替える。

今日から自分は、警察官学校へと入学するのだ。
高校までの義務教育を終えて、選んだ道。

それは、あの日。
自分を助けてくれた刑事のあとを追っての事。

(・・・伊達、さん)

確かにあの時、そう呼ばれていた。
湧き上がる淡い恋慕の情と、尊敬の念と、恩義。

今日、ようやく。
その胸に秘めた想いの第一歩を、踏み出す事ができるのだ。

真新しいスーツを身にまとい、凛生はマンションを出て行った。


指定された新入生の席へと座り、凛生は開催時間を本を読みながら待つ。

そして注がれる、好奇の目。
それもそうだろう、こんな目立つ髪をした奴が、警察官学校の新入生なのだから。

この髪は自毛だと届けはとうに出してある、ついでに自分はアイルランド人(母方の祖母)のクォーターである事も言ってある。
つまり、この髪はそのせいなのだ。

母も赤毛よりの髪色だったが、凛生にはまったく勝らない。
ほとんどがダークブラウンであったため、強い光にでも当たらなければ気づかれないくらいだ。

凛生の髪色は完全に、祖母からの各遺伝。
ふう、と慣れたように息を吐くと、入学式の開催時間のため本を閉じた。

式を終えて、割り当てられたクラスで簡潔に自己紹介。
その際に自分の髪は自毛であり、クォーターである事も告げた。

きっとほかの所でも、自分の事を言っているだろうと察する。

一度、この髪を染めようかと思ったが。
髪質との相性が悪いらしく、染めてしまったら、もしかしたら大変な事になるかもしれないと専門の人から言われたのだ。
なので、凛生は髪をショートボブほどの一定の長さでキープする事にしている。

髪への好奇の目、コンプレックス、嫌悪感。
長年付き合ってきたものだ、もう二十手前となり、気にする事も少なくなったが。

(やはり、気持ちがいいものじゃないな・・・)

初日は簡単な説明と紹介までで、本格的には明日からだ。
気を引き締めよう、凛生はそう思って、明るい空を仰いだ。



時間が経つのは早いもので、もう半年近くが過ぎた。
最初以外では、髪の事についてもう問題などはない。

成績なども上々、常に10位以内をキープしている。

そして、今は凛生よりも噂が立つ人物がいた。

座学・護身術ともども成績優秀、容姿端麗。
であるにも関わらず、性格と素行に問題がある、所謂『問題児』。

名を、谷村正義。

凛生は噂と名前しか聞いた事がなく、彼が実際に愚行を行っているのかは知らない。
しかしそれが本当ならば、『正義』という名前を持ちながらも、皮肉な奴だと笑うしかない。

まあ、自分から関わりに行こうとすら思っていないので、顔を合わせる事ももしかしたらないかもしれないが。

だが、少し経ってから。
警察官学校の一年目が終わろうとしていた寒い冬の時期、その考えが一変する出来事が起きるのを、彼女は知らないのだった。





序章
(同時に彼も聞いていた)(赤毛の髪を持つ女がいると)(彼もまた、)(彼女と同じ事を思っていたのは)(誰も知らない)

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