龍如長編(参)

□饋還 -惨劇-
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あまり目立たないようにするため、凛生は適当な店に入って帽子を購入した。
腰あたりまで長くなった赤い髪を持っていたゴムでサッとまとめて、帽子の中へと丸めていれる。

ピンク通りを回り込むようなルートと言えば、おそらく中通り裏にある路地の可能性が高いだろう。
そう思って捜していると、見慣れたグレースーツが目に入った。

「──‥桐生さん!」
「・・・!」

駆け寄って腕を取ってから、名前を呼ぶ。
すると、当たり前だが彼は驚いた顔で凛生を見つめた。

「凛生、お前どうして・・・」
「お迎えに来ました」
「柏木さんから聞いてないのか、お前・・・」
「どうやらまた危険に晒されているらしいですね」
「・・・分かってるんなら、なんで来た」
「あなたが神室町に帰ってきた出迎えると、約束してましたから」

凛生がそう言うと、桐生は額を押さえて溜息を吐いた。
危険な状態だからこそ、変に行動を起こさずに柏木の所で大人しく待っていてほしかったのだが、と心の中でこぼす。

しかしもう後の祭りであるし、最悪、こうして運良く会えたから少しだけ大目に見る事にしよう。

「ちなみに、その帽子なんだ?」
「念の為に隠そうかと」
「ああ、なるほどな・・・」

一応、防犯対策は行って出てきたというわけか、と納得する。
2人は誰もいない裏路地、何故かドラム缶に焚き火が点いているのを気にかけながら、一番広い場所へと出る。

直後、背後から聞こえる複数の足音。

「誰だ、お前ら?」

振り返れば、黒いスーツにサングラスをかけた4人の外国人。
明らかに怪しいとしか言えない姿に、桐生と凛生は身構える。

「どうして俺をつける?」

桐生がもう一度、彼らに問いかけるも返答はない。
ただ黙って、こちらに一歩、一歩と歩み寄ってくるだけだ。

「日本語が分からねえのか?」
「If you speak in English, easy to understand. Who are you guys? why then?(だったら分かりやすく英語で話してやる。お前らは誰だ、どうして後をつけた?)」
(こいつ英語しゃべれたのか・・・)

流暢な英語で喋る凛生に驚きつつも、視線は黒ずくめの男たちから外さない。
彼らは英語で問われたにも関わらず、やはり誰ひとりとして返答をよこす者はいなかった。

「どちらにしても、タダじゃ口を割らなそうだな。 ここで殺される訳にはいかない、悪いが──痛い目に遭ってもらうぜ」
「After handing over to police do prepare for double(そのあとに警察に引き渡してやるから二重で覚悟しろ)」

桐生と凛生がそれぞれの言葉で言うと、戦いの火蓋が落とされた。
いくら警察の包囲が薄いといえども、こちらに来ないとは限らない。

派手に事を荒立てれば、通行人に通報される可能性だって極めて高い。
だから早く、静かに、桐生と凛生は黒ずくめの外国人を確実に倒していった。


しばらくすれば地面にのたうち回る黒ずくめの外国人たち、けれど彼らは痛む部位を押さえながらもすぐに立ち上がった。

「大吾の居場所を嗅ぎまわっているのはお前らか、お前ら一体、誰に雇われた?」
「一応、通訳しておきますね。
 ・・・Are now sniffing around the whereabouts of Daigo's or ya'll, ya'll heck, who was hired?」

気に掛かる言葉が出たが、桐生に聞いても仕方がないだろう。
凛生は冷静に悟ると、桐生の言葉を英語にして彼らに同じ問いを投げた。

だが彼らは無言を貫き、こちらの応答に反応を見せない。
さらには1人の、風格が他の3人とは異なる男が、懐から拳銃を取り出し、こちらへと向けた。

桐生と凛生は目を見開くが、すぐそこでサイレンが聞こえた。
拳銃を取り出した男は周りの3人に顎で行くように伝え、彼らが走っていくのを見ながら、男も共に消えた。

「奴らは一体・・・・・・」
「分かりません。
 ・・・どうやら警察も通行規制を解いたようですし、今は柏木さんのところに急ぎましょう」
「ああ、そうだな・・・」

凛生の言葉に桐生は頷き、2人は路地から出る。
路地を出てすぐ、桐生がある方向を見て「ん・・・・・・?」と呟く。

凛生もならってそちらを見ると、そこには黒い服を着た外国人だろう男性が見えた。

「桐生さん・・・」
「お前はここで待ってろ。 さっきの奴らと関係があるかもしれない」

桐生の言葉に凛生は頷き、すぐそこに停止しているタクシーの影に身を隠す。
その様子を見届けてから桐生は黒服の外国人に「おい、そこのアンタ。 ちょっと待ちな」と言いながら近づく。

すると、男は無言でその場から逃げた。
桐生は「おい!」と叫び、男を追いかけるために走り出した。

「あっ、もう! さっきの男、やはり何か関係あるのか・・・?」

凛生はタクシーの影から飛び出し、追いかけていった桐生を追いかけるために走り出す。
足には(四ノ原にさんざん鍛えられたおかげで)自信があったので、すぐに追いつくだろうと思った矢先、やはりすぐに追いついた。

と、同時。
桐生が相手にタックルを決めて、見事に取り押さえたのがちょうど見えた。

「おい!お前! さっきの奴らの一味か!?」
「Oh!
 ワタシなんニモ撮ってなイヨ! ・・・・・・ってユーは桐生サンジャナイデスカ!」
「お前は沖縄で会った・・・・・・! マック・・・・・・、だったか?」
「え、お知り合いですか?」

追いついてきた凛生が驚いて訊くと、桐生は「沖縄で知り合った奴だ」と教えてくれた。
ならば彼は奴らの仲間ではない事はほぼ確定だろう、と凛生はある意味、安堵する。

「なんで神室町にいるんだ」
「ミーはサイコーのイチマイを撮るタメナラ世界中ドコにでもデース! それがミー。 マック・シノヅカなのデース!
「・・・・・・まあいい。
 それよりも一体何で逃げたんだ?」
「Oh! 桐生サン!
 神室町に来てうろついていたらさっきの場所でバトルが始まったネ!
 男の熱い血と汗・・・・・・! コレもサイコーノイチマイに繋がっていると感じて遠くから見てたデース!
 何枚か写真を撮ってたらバトルがシューリョーして一息。 と思ったらその内の1人から声をかけられてビックリしたデース! マサカ桐生サンだったとはネ!」
「街中での騒ぎまで写真に・・・・・・、あきれた奴だ。
 まあいいさ。 アンタみたいなヤツがヤツらと組んでいるとも考えられんしな」

桐生がそう言うと、彼は「Oh!桐生サン! 心のトモ!分かってくれてアリガトウデース!」とお礼を述べる。
話の内容から察するにそこまで親しい間柄というわけではなさそうだが、まあ、どう考えても彼らの一員とは到底、思えない。

「トコロデ、さっきの桐生サンの走り・・・・・・トテモ素晴らしかったデス。 アナタの速さはワンダフルでグレイトネ!
 ソコのアナタもさっきの戦いっぷりはトテモすごかった、感動したデース! マルデ鳥のように宙を舞い落ちる姿はトテモトテモグレイトだったネ! ワタシ、マック・シノヅカといいマス。 お名前よろしいデースか?」
「え? あ、はい。どうも・・・? えーと、榊凛生といいます」
「榊サンですネ、サンキュー!
 袖振り合うも他生の縁とイイマース!
 桐生サン!榊サン! アナタがたにはとっておきの場所を紹介するデース! 気になるデスヨネー!?」
「とっておきの場所・・・・・・、か。 確かに少し気になるな」

桐生が顎を押さえながら呟くと、マックは「イエース! じゃあ今から早速・・・・・・」と言葉をかけようとしたが、途中で携帯電話の音が鳴った。
桐生と凛生のものではない、となると、音の元はマックの携帯だ。

どうやらメールが来たらしく、彼は携帯を取り出して操作をする。

内容はどうやら神室町にいるマックの友達からの飲みの誘い、らしい。
彼は桐生と凛生に謝り、友人のところに行くと告げる。

「友人? 神室町にお前の知り合いがいるのか?」
「イエース! とっておきの場所にいるとっておきの友人ネ! ミーの友人は世界中にいるネ!
 残念デスガ桐生サン、榊サン。 とっておきの場所はまた今度紹介するデース! それでは失礼アデュー!」

まくし立てるように最後はそう言い、マックは走って消え去った。
桐生が「お、おい」と声をかけるも彼はそれに気づかず、颯爽と視界からいなくなった。

「・・・・・・まるで嵐のような人ですね」
「・・・ああ。
 勝手に紹介するだの色々と騒がしい奴だ。 まあ神室町にいるならまたどこかで会うだろう」
「そうですね。 それよりも今はミレニアムタワーへ急ぎましょう」
「ああ、そうだな」

マックを追いかけていたおかげで、随分と場所がミレニアムタワーから離れてしまった。
2人は駆け足で道を戻っていくと、途中で桐生の携帯が鳴った。

柏木からだろうかと思い、立ち止まって見てみると、どうやら相手は先ほどのマックの者らしい。
凛生も勝手に横から内容を見せてもらうと、彼女にとっては意味不明な文章が綴られていた。

「・・・・・・なんなんです?」
「おそらく『天啓』に関する情報だろう。 エイジアか、すぐそこだな。 少し行ってみるか・・・」
「『天啓』・・・?」
「ああ。 さっきのマックって奴から沖縄で聞いたんだが・・・」

移動をしながら、凛生は桐生から『天啓』について話を聞く。
話を聞いていて確かにと納得できるものもあったし、桐生と彼が知り合いになった理由も理解した。

すると、エイジアの前に人だかりができているのが目に入る。
野次馬であろう人間たちの視線を追えば、そこには1人の酔っぱらいが街灯をよじ登っていた。

「・・・あれのようだな」

桐生は携帯をすかさず取り出し、そのまま野次馬と共に彼を見ている。
凛生も桐生を真似て携帯ではなく、ポラロイドカメラ(※その場で映像が写真となってプリントアウトされるカメラ)を取り出してみると、彼は先ほどのエイジアでやっていたポールダンスの真似をしているのだろう。
真似にしてはクオリティが高い彼のポールダンスを見ていると、フィニッシュのところで案の定、落ちた。

かなりひどい落ち方をしたが、おそらく生きてはいるだろう。
とりあえず凛生はポラロイドカメラをしまい、隣で「閃いた・・・!」と小さく呟いて携帯を打っている桐生の隣で、救急車を呼んだ。

「・・・何を閃いたんですか、桐生さん」
「ん? 見るか?」

ヒョイ、と見せてきたのはまさかのブログ。
桐生がブログをやっていた事にも驚きだが、内容がきちんとまとまっていて、なおかつ少し面白い事にも驚きである。

「意外すぎます・・・」
「そうか? お前もやってみたらどうだ?」

ブログを、ではなくて『天啓』を、だろう。
確かに失礼だが先ほどの行動は何枚か撮らせてもらっており、既に写真も手元にある。

少し悩んだ結果、新しく買っていたフォトダイアリーに写真を一枚はさみ、先ほどの彼の行動を思い出して、・・・なんと閃いた。
せっせと隣ページの文字欄にメモを書き、隅っこに文字以外の何かを書き足す。

「できました・・・!」
「ほう、見せてくれ」

ペラリ、と覗き込んでくる桐生にページを見せる。
タイトルと本文を読みながら「ほぅ・・・」と呟いて視線を下にさげていくと、ヘンテコな何かが目に入った。

「なんでヒトデが棒に刺さってんだ?」
「・・・・・・。 ヒトデじゃないです、人です・・・」
「・・・・・・すまない」
「いえ、下手なのは重々自覚してます。 ・・・もう描かない」
(・・・深く傷つけてしまったようだ)

しょぼんとした様子の彼女を見ながら、桐生はもう一度、小さく謝罪した。

おそらく彼女は、街灯とそれに捕まっている先ほどの酔っ払いを描いたつもりだったのだろう。
失礼だがまったくもって見えなかった、下手すぎるというレベルの彼女の画力を見て、桐生は心の中で意外だな・・・、とぼやいていたそうな。


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