夜鳴き鳥ノ子守唄


□序奏 -羽ばたきノ唄-
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真っ暗な闇、激痛と鈍痛が混じり合う体。
腕は手錠と何かの術式を施した楔(くさび)が手のひらを貫通しており、不思議な事に血は流れない、きっとそういう術式なのだろう。

おそらく2年以上は経ったのではないか、この牢獄の中で過ぎた時間は。
あとどれくらいこの檻のような籠の中に閉じ込められ、体を実験させられ続けるのだろうか。

先ほど、火の聖隷術を顔に当てられ、間違いなく悲惨な状態になっているはずだ。
怪我による痛みとは別に、じりじりと焼けるような痛みが、自分の顔を再生している事を表している。
"変貌した体"に助けられている、その皮肉に心が痛い。

──・・・カツン。

足音がした、先ほどの出来事もあり、思わず体をビクリと震わせる。
今は目が見えないため、そこに立っているであろう誰かを認識する事はできない。

だが、感じた事のない気配、威圧感、そして得体の知れない恐怖。
無意識に体はそれを感じ取り、目の前にいる誰かは初めて来る"人間"だと訴えかける。

「・・・なぜ鳥は、空を飛ぶのだと思う?」
「・・・は?」

声からして、男だという事が分かった。
耳もダメージを受けているため、その声は掠れて聞こえるが、間違いないだろう。

「お前の答えが、お前の今を変えるやもしれんぞ」
「・・・ふざけているわね、いい方向に変わるかは保証しないのでしょう?」

口と喉もやられているのだ、自分の声もおそらくひどく掠れているだろう。
息をするだけで喉がヒリヒリと渇きに痛む、声を出すだけで焼けてしまいそうだ。

しかしその喉で僅かに声を出す、「・・・鳥、ね」と掠れた声で呟いた。

いい方向に変わる可能性なんて低い、もしかしたらもっとひどい場合になるかもしれない。
それでも答えようとするのは、生きたいという意志、死への抗い。
"あの人"に会いたいという、願い。

そして、久しく聞いていなかった『鳥』という言葉を耳して、鳥の名を持つ母を思い出した。

「鳥は──・・・」

彼女の短くもしっかりとした答えを聞いた男は、何も言わずに背を向ける。
出した答えに何も言わず、足音は遠ざかった。
どうやら出した答えは、彼のお気に召さなかったようだ。

「・・・命令で生きるなんて、他人に押し付けられた"理"に縛られるなんて、真っ平よ」

そうこぼした彼女の小さな声を、拾うものは誰もない。
ようやく戻ってきた視界に映るのは、見慣れてしまった真っ暗闇で冷たい黒だった。



あれからしばらく時が経過したある日、彼女が再び外の世界へと踏み出す。

久しぶりに見た空は、憎たらしいほど、美しく輝く満月。
吐き気がするほど優しく頬を撫でる風は、流れた涙を攫っていった。





羽ばたきノ唄
(鳥は、意思を持って空を飛ぶ。自由の翼があるからこそ、焦がれた籠の外へと羽ばたいていくんだ・・・)

 

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