夜鳴き鳥ノ子守唄


□漂流T -逢着ノ曲-
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武器屋まで来るとロクロウは何やら武器を真剣に見ている、近寄ってよく見てみれば錆びてしまっている二本の小刀。
だが、錆びていても僅かに分かる業物の気配をララはひっそりと感知した。

「随分と錆びてしまっているが、研げば化けるかもな」
「おお、ララ! お前もそう思うか?」
「ああ。 形は悪くないし、持ってみると手にしっくりと馴染む。 なかなかいい代物だと思うが」
「俺も同意見だ。 なあ、これを俺に研がせてもらえないか?」
「ええー、そりゃ構わないが・・・本当にそんなナマクラが化けるのかい?」
「やってみれば分かる」

半信半疑の目を向ける武器屋の男にロクロウは返し、武器を研ぎにかかった。
手際よく行っていく様子を、一応、監視としてついて来たララは横で見つめる。

「そう言えば、ララの武器は随分と変わってるよな」
「ん? ああ、これは私が自分で考えて作った武器だ」
「なるほど、手製か! 両端に湾曲が付いた槍かと思ったが、弓だったんだな」
「いや、これは使い方次第で槍にも弓にもできる。 今は飛び道具を使える奴がいないから、弓に徹底しているがな」
「だが、その棒部分は弓を射るために多少しなるだろう? それだと槍での攻撃は難しくないか?」
「問題ない。 棒の部分を強固できる術(すべ)があるからな」
「ほお・・・」

武器から目を離さないが、ロクロウと軽くそんな会話を交わしながら作業を見つめる。
しばらくすればナマクラ同然だった小刀が、見違える程の代物に早変わりした。
これには流石の店主も驚いたらしく、ロクロウに色々と話を聞き出す。

「ねえ、そっちはどうだったの」
「ベルベット」

後ろから声がかかり、振り返ればベルベットとマギルゥの姿。
ロクロウも一度、話を切り上げて振り向き、「掘り出し物を見つけたぞ!」と喜んで言う。
店主は勉強させてもらった礼だと言い、ロクロウが研いだ武器を譲ってくれた。

「・・・・・・で、手伝ってくれるの?」
「もちろんだ。
 そっちの首尾はどうだった?」

ロクロウがベルベットたちに話を聞くと、今はダイルというトカゲの業魔になってしまった船員が炎石の密輸を行っていたせいで、連帯責任として営業が停止してしまっているらしい。
ダイルを捜し出して捕まえ、聖寮に差し出せば、営業を再開できると言うので、これから捜しに行くとの事。

手がかりはダイルの故郷、とりあえずそこを当たってみるつもりだとベルベットは言う。
マギルゥは裏切り者とやらを捜し出さないといけないので、一緒に行かないと言ってヘラヴィーサで別れた。

マギルゥと別れた三人は、先ほどの倉庫まで戻り、ヘラヴィーサから出る。
ララはこのあたりも来た事があるので、「この少し先を行った所にビアズレイという集落がある、まずはそこへ行ってみよう」と二人に提案し、二人もそれに頷いた。

「やれやれ、どこまでも氷と雪ばかりだな」
「寒いの?」
「いいや。 お前は、ヘソでも冷えるのか?」
「別に・・・・・・っていうか、どこ見てるわけ!?」
「紳士的ではないな」
「おっと、すまん。 そういうつもりはなかった。
 そうか。 お前は、まだ恥じらいとかそういう感情が残ってるんだな」
「お前は・・・・・・って、じゃあ、あんたは?」
「応、人間らしい感覚が大分なくなってる。
 業魔ってのは、そういうもんだと思ってたよ」
「人間の感覚が消える・・・・・・」

変貌した右目を除けば、見た目は人と変わりない。
だが、どうやらロクロウは見た目よりも中身がどんどん業魔のようになってしまっているようだ。
出会ってまだ日が浅いララからすれば、とてもそうには見えないのだが。

「それでも、俺が俺である根っこはかわらないがな」

けれど、ロクロウは業魔になってしまった事を少しも悲観していないようで、「相変わらず心水も旨いのも、ありがたい」と笑ってこぼした。
ベルベットは静かに「・・・・・・そう」とだけ返し、話は終わった。

「・・・えくしっ」
「おっ、聖隷も寒さを感じるのか?」
「ああ。 聖隷も人のように暑い・寒いを感じるし、恥じらいだって持っているぞ」
「ほう、つまりララは足が寒いのか? そこだけむき出しだもんなぁ」
「諸事情によって出しているんだ。 それと、否定はしないがもう一度だけ言わせてもらうぞ。 紳士的ではない、と」
「おっと、すまんすまん」

言葉では謝罪を口にするも、態度は悪びれる様子をまるで見せない。
おそらくそれも、ロクロウの中にあった人間らしい感情が欠如されているからなのだろう。

ララは半歩だけ下がり、二人の後ろをついて行くように歩き出す。
そして二人を見据えて、心臓を服の上からそっと握る。

(これだけ近くにいても平気ね。
 ・・・ドラゴンになる手前だったとは言えど、あの程度の穢れで倒れるだなんて思ってもみなかった。
 おそらく場所が場所だったからでしょうね。 だって、"今の私は穢れがないと生きられない体"なんですもの・・・)

聖隷にとって、人間や業魔が放つ穢れとは猛毒。
触れすぎてしまえば、あの聖隷のようにドラゴンになってしまう。
だが、"今の"ララにとってはその猛毒が自身を生かす重要なものなのだ。

「ララ、どうした。 そんなに寒いのか?」
「えっ?」
「いや、少し遅れていると思ってみたら服を握りしていたからな、それだけ寒いのかと」
「すまない、少し考え事をしていただけだ。 先を急ごう」
「応!」
「・・・ララ、無理だったらちゃんと言って。 あんたは寒さを感じないあたしたち業魔とは違うんだから」
「・・・分かった。 ありがとう、ベルベット」
「はは、ベルベットはララには優しいな〜」

ロクロウが茶化すように言えば、ベルベットからひと睨みをもらう。
すると降参とでも言うように両手を上げて笑い、前を向いて歩いて行く。

ベルベットもそれに続くように歩き、ララは後ろで手を組んで、少しだけベルベットの背中を見つめる。
彼女は完全に優しさを失くしたわけじゃない、もしかしたら。

ララはそんな僅かな期待と希望を抱いて、歩くのを再開した。


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