龍如長編(参)

□饋還 -衝撃-
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神田を捜すために、2人はニューセレナから外へと出る。

その前に、ママに血濡れてしまった桐生の上着の事を頼んだ。
彼女は驚いた顔をしたものの、何も聞かずに黙って頷いてくれた。

おそらく伊達が信頼している相手だからこそ、彼女は受け入れてくれたのだろう。
伊達の言うように、彼女はそのあたりにいるクラブのママとは一味違うようだ。

店から出ると、寒い空気が肌をピリピリと襲う。
しらみ潰しに捜していくか、と話し合った直後、桐生の携帯に電話がかかってきた。

「もしもし」
『力也です。 酷いじゃないですか、兄貴!』

と、始まり、凛生は隣で聞き耳を立てる。

大体の話は分かった。
本来ならば一緒にくる予定だったのだが、桐生が力也を騙し、1人で神室町へ来た。

だが、力也は黙っていない。
桐生の気遣いを無駄にしてしまったのは分かっている、けれど、どうしても許せなかったのだろう、自分の親父を撃った犯人を。
『アサガオ』は幹夫と朱哉に任せてきたらしい、だから心配するなとの事。

桐生は「それよりお前、今どこにいるんだ?」と訊くと、彼は「え? いやぁ・・・・・・それが、よく分からないもんで」と間抜けな言葉を放つ。
どうやら彼はろくに神室町について調べもせず、飛んできたらしい。

桐生は迎えに行くから目印になりそうな場所を見つけたらそこで待っていろ、と力也に伝える。
目印を見つけたら連絡をしてくれと伝え、電話を切った。

「先にお迎えですね」
「ああ、だが連絡が来るまでは神田の部下とやらを捜すぞ」
「はい」

おそらくすぐに来るだろうが、と2人は思いながら少し歩く。
すると予想通りにすぐに連絡がきた、桐生はメールを開くと、凛生に見えるように画面を寄せる。

そこには顔文字を多様している力也のメール、内容はまるで子供のようで可愛らしい。
ただ、あまりにも内容がざっくりとしすぎていて、少し分かりづらい。

「・・・・・・なんだろうこの敗北感」
「何に敗北感を感じてんだ」
「力也の女子力を感じる文面に・・・」
「・・・・・・お前、こういうの使わなそうだもんな」
「はい。 恋人にも業務報告みたいなメールと言われます、直すつもりはないですけど」

などと、余談と雑談は置いておき、力也がいるだろう場所を予想する。

大きなビル、おそらくミレニアムタワーの事だろう。
それが見えて店が沢山ある通りと言えば、中道通りか、泰平通り西のどちらかだろう。

「凛生、お前はどっちだと思う?」
「・・・・・・中道通り、でしょうか?」
「よし。 中道通りに行ってみるか」

凛生の意見を頼りに、2人は力也を迎えに行くため道を変える。
すると、桐生の携帯がまた鳴り響く。

今度のメールはマックからだ。
どうやら天啓の情報のようで、バッティングセンターに行けばいいよう模様。

偶然にも、道すがらバッティングセンターの前を通る予定。
ならばちょうどいいという事で、力也には申し訳ないが、少し寄り道をさせてもらおう。


バッティングセンターへ入ると、1組のカップルが目に入る。
ある意味、呆れたような感心するような情報網だと思いながら、桐生は携帯を、凛生はポラロイドカメラを構える。

彼氏はボールをバットで捕らえるも、場所が先端すぎたためか、ボールは地面へと弾かれ、男にとって絶対的な急所に直撃した。
あまりの痛みに悶える彼氏を他所に彼女は大爆笑、さらに不運な事に続いて飛び出してきたボールが横っ面に直撃し、彼氏は大事なところを押さえながら倒れた。

「・・・・・・閃いた!」
「あの状況に一切の同情もなく閃ける桐生さんはすごいですね」

ポツリと突っ込み、凛生は同情しつつダイアリー部分に閃いたメモを綴っていく。
これもなかなか使えそうだなと思いつつ、凛生はペンをしまった。

「見せてくれ」
「桐生さんもですよ」

携帯とフォトダイアリーを交換して、お互いに何を閃いたかを見せ合う。
タイトルが変に上手くかけており、内容は切ないと言えるもの。
写真もドンピシャでかわいそうなところを撮っているので、同じ男が見る内容としてはなかなかに勇気がいるものだろう。

「女でもなかなか痛いですよ」
「経験あんのか」
「ええ、馬鹿師匠のおかげで」
「だが男はその比じゃねえぞ・・・、女にはやはり分からない痛みだ」
「アレですね。 女子特有の痛みと一緒の理屈ですね」
「・・・・・・お前、俺に対してだんだん話があけすけになってきたな」

ゴン、とオブラートに包みつつも品のいい言葉とは言えないを吐いた凛生に軽く拳骨を落とす。
携帯を返してもらい、桐生も凛生にフォトダイアリーを返した。

寄り道もそれまでにして、2人は改めて力也を迎えに夜道を繰り出す。
力也がいると予想していた所に来たものの、彼の姿は見当たらない。

此処ではなかったかと落胆すると、力也からまたメールが。
目印を見つけたという内容だが、よりにもよってコンビニだと言う。

確かに沖縄にはそこまでないから目印になるのかもしれないが、東京の、それも神室町にはコンビニなど溢れ返っている。
彼のメールの内容からおそらく七福通りのMストアではないか、という話になり、今度はそこへ向かう。

力也がいるであろう七福通りのMストアへ向かい、中へ入ったものの、狭い店内に彼らしき姿はない。

「・・・・・・いませんね、ここだと思ったんですけど」
「ああ。・・・!」

直後、桐生の携帯に電話が入る。
懐から携帯を取り出し、電話に出ると相手は捜していた力也だった。

桐生が力也にどこにいるのか訊こうとすると、彼は何やら興奮しているように話をまくし立てる。

内容はこうだ、ここで待っていたら1人の女性が変な男に絡まれて公園に連れて行かれた。
力也はそれを誘拐だと思い、見過ごせないから行ってくる、と言って電話を切る。

桐生の耳には電話が切れた音のみが入り、仕方なく携帯をしまう。

「ここから近い公園だと、児童公園のことでしょうか」
「たぶんそうだろう、行くぞ」

Mストアから出て公園に向かう道中、桐生の携帯にメールが。
とりあえず今は一分一秒の時間が惜しいので、あとで見る事にする。

児童公園が目と鼻の先あたりになると、「なにしてんだコラァァ!?」という大声が聞こえた。
声がした方を見てみれば、女性を庇う力也と、対峙している複数のチンピラ。

チンピラのリーダー格であろう男が、「その女、こっちに渡せ!」と叫ぶ。
だが力也は返事もせず、彼らを睨みつける。

「こっちは急いんでんだよ! ・・・・・・あ? なんだ、お前ら?」
「兄貴、姐さん・・・・・・!」
「目立つぜ、こんな場所ででけえ声出してるとな」
「それがどうした!? お前に関係ねえだろうが!」
「力也、彼女が奴らに襲われていた人か?」
「はい。 こいつら無理やり拉致ろうとしたんで・・・・・・」

桐生と凛生が彼らに近づくと、リーダー格であろう男がうるさく叫ぶ。
凛生はそれを無視して、力也に問いをかければ、彼は頷いた。

「と、言っているが?」
「だ〜か〜ら〜、それがなんだってんだ? 文句でもあんのかコラ!?」

男はそう言いながら、自分の襟につけているバッジをトントンと指す。
意図が分からなかったのか、桐生は「なにやってんだ?」と彼に短く訊く。

「この胸の代紋、見てみろっつってんだ! あぁ!?」
「・・・・・・錦?」
「・・・・・・お前ら、錦山組か」
「そうだよ、ハハ! ビビったかぁ!!」
「・・・うわぁ、上が上なら下も下だな」

実に頭が悪そうな行動に、凛生は蔑(さげす)んだ目を向ける。
しかし馬鹿みたいに笑っている彼らは、それに気づかない。

「そうか・・・・・・、なるほどな」
「あ!?」
「力也、お手柄だ」
「ああ、でかしたぜ」
「!? どういうことですか!?」
「・・・・・・捜してたやつが見つかったみてぇだ」

無論、向こうはこちらの会話の意味など分かっていないので、半ば切れているかのような言葉を叫ぶ。
そんな彼らを無視し、彼らを倒してから事情を話すと力也に伝える。

力也もそれに頷くが、元は自分に売られた喧嘩なので自分にもやらせてほしいと述べる。
ならば自分は戦わず女性の傍にいようと思い、一歩下がった。


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