龍如長編(弐)

□双龍 -外伝@-
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サブストーリー「理想の花嫁」

『発生条件』
十章開始後、狭山と凛生と別れ、ゲームセンター前に近づくと発生。
ゲームセンター外の劇場広場前内で合流してしまうと、発生しないので注意。

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夜の神室町、まだ人の賑わいを見せる時間帯。
凛生は劇場広場前にあるゲームセンター前で、ひとつの雑誌を手にして項垂れていた。

「・・・ウエディングドレスか」

ウエディングドレスと言えば、花嫁が着る衣装である。
花嫁で有名なのが六月、ジューンブライド。

六月に式を挙げると、生涯幸せに暮らす事ができる。
欧米から古くから伝わっている、ジンクスだ。

しかし六月は女神の名前と関連しているからだとか、復活祭であったからとか、農業の妨げになるとして6月に式を挙げた人間が多いだとか。
色々な話が飛び交っている。

まあ、そんな事はさておき。
どうして凛生がこのような雑誌を手に持ち、なんでこの事に頭を悩ませているのかと言うと、訳がある。

「・・・・・・モデルはまだいいとして、なんでよりにもよってウエディングドレスなんだ」

参考にと渡された、去年のジューンブライドのウエディングドレス特集の雑誌をぐしゃりと軽く潰す。
どうしてこんな事になった、と凛生は記憶を遡り始める。



少し前、関西に行くために狭山と別れ、桐生と行動していた。
途中、凛生は自分の服装を思い出し、一度いつもの格好に着替えるために家に戻った。

着替えを終えて街に繰り出し、連絡を取れば劇場広場前あたりにいると言っていた桐生。
凛生は彼と合流するために、歩いていた。

「・・・どうすんのさあ!肝心のモデルちゃんが高熱で来れないってどういうこと!?」
「ぐえっ!し、締まってます編集長!!お気持ちはわかりますが、体調不良ばかりはどうしようもないでしょう!!」
「ちゃんと体調整えておけって伝えといてね言ったろうがこの役立たず!!」
「いででで!言いました!!言いまいたよお!!!」

凛生がこれから通り過ぎようとしている店の前で、とあるひと組の男女がコントのような喧嘩を繰り広げていた。
女性は怒りのあまりに男を絞め、男は涙目で反論する。

「もぉおお!!せめて終わったあとに出してよ!終わったあとだったらいくらでも熱上がっていいから!!」
「編集長・・・、お気持ちはわかりますがそれは流石にひどいです・・・」
「口答えする暇あったら代わりのモデル見つけてきなさいよ無能アシスタント!!」
「ひどすぎる!」
「いい!? 二十代後半あたりで、身長165cm前後でセットするのに理想な長さのセミロングヘアー、できれば前髪長め。体系はスレンダー寄りで出るところ程よい感じに出てる、ぼん!きゅ!ぼん!すぎない。 そして程よい美人のモデルよ!?程よいが大事!!」
「そんな都合のいいモデルが見つかるわけないじゃないですか!そもそも来る予定のモデルの子、全部がそうじゃなかったですよね!?」
「やかましい!あれは理想に近かったから妥協しただけよ!!」

時間のない今、口答えせざるを得ない要望に、当たり前だがアシスタントと呼ばれた男は突っ込む。
編集長と呼ばれた女性は怒り任せに半ば叫び、再びアシスタントに絞め技を喰らわせていた。

その周りは当たり前だが、ざわめいている。
凛生はそのざわめきに何だと思い、野次馬から中を覗く。

そして光景を見て、溜息を吐いた。
あまり目立つ事はしたくないが、ささっと止めて、ささっと立ち去ればいいだろうと結論を出す。

「取り込み中、失礼します。 ここで喧嘩をされては道行く人の迷惑になりますし、店の方にもご迷惑がかかるでしょう」
「止めないで!この無能アシどうしてくれよ・・・う・・・」
「ぐえ!ちょ、どうしたんです編集ちょ・・・う・・・」

凛生が声をかけると、編集長と呼ばれている女性は勢いよく凛生を振り返る。
だが、凛生を見て、彼女は思考を停止したかのように止まった。

絞められていたアシスタントと呼ばれていた男性も、苦し紛れに女性と同じ方向。
つまり凛生を見て、同じく固まる。

(身長165前後、見た目も二十代後半前後。 黒じゃなくて赤いけど、前髪長めのセミロングヘアー・・・!)
(見る限りスレンダー寄りの体系、だけど程よい感じに出っ張りあり。 そして程よい美人、ちょっと目つき鋭いけど・・・!!)
「な、何か・・・?」

自分を見て固まる二人を不気味に思いつつ、凛生は声をかける。
そして女性は弾かれた様な顔をしたと思えば、ワナワナと自分の体を震わせる。

「・・・か、神様!女神様!!ビーナス様ぁああああ!!!」
「神様って本当にいるんだぁあああ!今まで信じてなくてごめんなさい!!今日から信仰者になります!!!」
「はい!?」

女性は涙を流しながら凛生の手をがっしりと握ってくる、男性も同じく涙を流しながら、腕で目を覆って涙を拭う。
今度は凛生をも巻き込まれ、また周囲の目を集めてしまう。

とりあえず二人に落ち着いていただき、凛生は野次馬を払った。
そして最初より落ち着いたと言えど、まだどこか興奮している二人を振り返る。

「・・・で、どうして私を見てそんな歓喜?をしたんです?」
「が、がんぎじまずよぉ・・・!!」
「神様ぁ・・・!!」
「とりあえず訳を話してください・・・」
「じ、じづば・・・」

女性はしゃっくりを交えながら、凛生に揉めていた理由を話す。
彼女が述べた理想の女性像は、まるで凛生自身と言っても過言ではないほど当てはまっていた。

「・・・事情は呑み込めました、そしてこの流れでいくとなると・・・」
「「モデルやってください!!」」
「ですよね!!」
「見捨てないで神様!」
「神が困っている民を見捨てるなどしませんよね!?」
「私は神様じゃありません!」

警察官です、と言おうと思ったがその言葉は呑み込んだ。
そう言ってしまえば、今度は『警察官なら市民に救いの手を』などと言われそうな予感しかしないからだ。

「今日モデルの写真撮って、明日まとめて、夜に投稿しないと本当にまずいんですよ〜!!」
「編集長がモデルにこだわったばっかりに時間が極端になくなってしまって・・・!」
「助けてくださいお願いします!女神様!」
「あなたが最後の頼りなんです!女神様!」

頭を何度も下げて、二人は凛生に必死に助けを請う。
凛生もここまでされて、断ろうにも断れない。

悩みに悩んだ結果、凛生は負けた。

「・・・分かりました、そこまで言うなら引き受けましょう」
「!!! ほ、本当ですか女神様!?」
「ありがとうございます、ありがとうございます!崇めさせてください女神様!!」

凛生が承諾の言葉を吐くと、二人は本当に拝みだす。
時間がない上に流石にオーバーすぎると凛生は宥めて、二人に話を進めるように促した。

「失礼しました。
 申し遅れましたが、私はウエディングドレス雑誌『幸福の花』の編集長をしております、幸田と言います」
「私はアシスタントの福井です」
「女神様のお名前は?」
「榊といいます」
「榊さんですね女神様!」
「もしや語尾になってますかそれ?」

名前を名乗っても『女神様』が抜けない様子に、凛生は額を押さえて言った。
幸田と名乗った編集長の女性は、凛生の体のサイズと連絡先を聞いて、メモを取る。

「なるほどなるほど。ちょっとお尻が大きめな安産型ですね女神様、非常に好みでっす!」
「帰っていいですか」
「あ、これが私の携帯番号になります。 すぐに榊さんサイズのドレスを手配しますので、準備ができたらお電話しますね」
「幸田さん、スルースキル高いですね」
「あとこれ、前回の『幸福の花』の雑誌です。 空いた時間、参考までに読んでみてください」
「福井さん、あなたもスルースキル高いですね」

はい、と手渡された雑誌を受け取る。
それから二人は電話したりと、慌ただしく行動にうつし出す。

凛生は此処にいては邪魔だろうと察し、とりあえずその場を後にする。
桐生がいるはずの劇場広場前へと向かい、冒頭に至るという事だ。

「桐生さんと合流すべきか、それとも電話でちょっと用事がと言うべきか・・・」

と、ぶつぶつと悩んでいると。
劇場広場前を歩いていた桐生が、ゲームセンター前で凛生を見つけたので近寄ってみるものの、こちらを振り向く気配がない。

(近づいても全然気づいてねえな、どうするか・・・)

『・「前者だな」
 ・何も言わずに立ち去る』

桐生の頭の中で、二つの選択肢が浮かぶ。
しかし自分と連絡を取ろうといているのに、このまま立ち去るのも意味が分からないので、声をかけることにした。

「前者だな」
「そうですか、え・・・?」

ぶつぶつと言っていると、突如、声が。
凛生は驚いて振り返ると、そこには見慣れたグレースーツが目に入った。

「桐生さん何故ここに!」
「適当にこの辺ぶらついてたらお前が目に入ったんだよ、この辺にいるっつったろ」
「そうですか・・・」
「で、なんだ。 その雑誌?」
「・・・実はですね」

合流してしまったものは仕方ないと、凛生は桐生に先ほどの事を話す。
この後で、連絡が入ったらまた行かなければならないと最後に付け加えて。

「・・・お前がモデルか」
「はい、それもウエディングドレスの・・・」
「ふ、いいじゃねえか。 どうせ男がいるんだ、いずれは着ることになるだろ。 予行練習くらいに思ってやりゃあいい」
「まあ、そうですけど・・・」

と、桐生と話していると電話が鳴り響いた。
携帯の画面を見てみると、それは幸田の番号だった。

きたか、と思いつつ電話を取ると、準備ができたので先ほどの場所に着てほしいというもの。
どうやらそこに福井を待たせているらしいので、彼についてきてほしいと言って、電話は切れる。

「準備ができたみたいなので行ってきます」
「よし行くか」
「え?」
「悪いが俺も見学させてもらうぜ、お前のモデルの仕事」
「ちょっと!」

どこか意地悪い感じに見える桐生の顔、これは楽しんでいるに違いない。
凛生は反論しようとしたが、福井を待たせている上に、あちらもこちらも時間はない。

一応、連れて行って福井に聞き、断られれば諦めるだろうと凛生は結論に行きつき、桐生と共に先ほどの場所へ向かう。

「あ、榊さん!こっちです!」
「お待たせしました」
「いえいえ、全然です! で、こちらの方は・・・?」
「桐生という、こいつの」
「なるほど、恋人ですね!! 彼女さんの可愛い花嫁姿が見たくて来たんですね、了解です!」

桐生が関係を言う前に、福井がガッツポーズをして述べた。
凛生の花嫁姿を見に来たのは当たりだが、恋人ではない。

しかしそうでも言わないと見学させてもらえない雰囲気を感じ取り、桐生は凛生の口を塞いで頷く。
こうして桐生の同伴も決まってしまい、凛生は肩を落として福井のあとについて行く。

途中、福井が幸田に電話をし、桐生の事を伝えていた。
そしてこちらを向いて親指を立てるので、どうやら許可が貰えたようだ。


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