【バクシンバードとトレインのゲート】

□☆(疾)出船入り船母港は移動中
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 焦ったり、怒ったり、ふて腐れてみたり。一人、部屋にこもってうだうだしていたロックは、夕食のテーブルにつく前に大マジでバーディに謝ろうと彼女の部屋を訪ねたが、一足遅かったようで部屋は空だった。仕方なしにその足で夕食へと降りてきたのだったが、そこには真っ青な顔をしたビートただひとり。

「めしって、、、まだだった?」

 カウンターの奥からは出番を待つばかりといった様子で、胃袋を刺激する臭いが漂っているが、テーブルは全く何も用意されていない。
 そのテーブルをビートはいきなり力一杯たたいた。

「それどころじゃないだろうっ!」

「何か、あったのか?!」

「まさかロック、、知らないのか?何も気づかなかった、、?」

 力が抜けたようにビートはその場に膝を落とした。
 ただ事ではない。どんな危機的状況でも、いちるの望みを最大限に感じさせてくれるビートがこんな様子を見せるとは。

「だから、なにがだよ?何があった?みんなどこだよ?」

 引っ張りあげられて立ち上がったビートは、自分の腕を掴んでいるロックをじっと見据えた。その視線が段々に強く、とうとう睨み付けるようになって。

「倒れたんだよ、バーディが!」

「まさか、、」

 他に言いようがなかった。が、咄嗟に出たその一言を言った瞬間、心臓がビクッと震え上がる。

「まさかもなにも!ついさっきだよ!ジミーと交代して、ここに来たら、丁度スージーと一緒に皿並べようとしてて、、、フラフラっ、、なんてもんじゃない、それこそバッターンて!と、吐血までしちゃってさ、い、意識はないしさ」

 そんな、まさか。さっきまであんなに元気で、、変わった様子もなかったというのに。
 一度鳴り出した心臓はもう言うことを聞かず、自分の心音が耳に聞こえてくるようにガンガン響き始めていた。どこかこの近辺の惑星海に、、そんな奇病がありはしなかっただろうか。ある日突然倒れて、重大な病状になってしまうような、、、。

「レスキュー呼ぶって言い出したから、そんなの待ってるなら俺っちがぶっ飛ばして運んだ方が速いって言ったんだけど、D D がこの近くで医者のツテがあるって、そこで駄目でもあちこち知ってるって、ブルースの判断力は必要だし、女の子の手も欲しいってんでスージーが付き添って、、、、大騒ぎで飛び出して、、俺、、残されて、、、ごめん、動転してて、、誰もロックに知らせなかった」

 なす術なく取り残されたビートも、事の次第を説明するうち、ロックに対する怒りが自分の八つ当たりだと気付いた。ロックはロックで、緊急にシャトルを発進させるような騒ぎに何一つ気がつかなかった自分の間抜けさを知らされていた。

「シャトル、、まだ使えるのあるな。俺、行ってくる。様子見に、、」

「ま、まてよ!」

 後ろから肩を掴んだビートだが、思わぬ力で振りほどかれる。全力で押し止めねばならなかった。
 自分も相当動揺していたが、ロックはそれ以上だ。それがわかった途端、余りの緊張でビートはすっかり正気にたち戻っていた。ロックが冷静になってくれなければ、トレインの方は自分が全てを取り仕切らねばならない事態ではないか。

「ロック!ロックってばよっ。今は無理だ、駄目だって!」

 無理やり止めに入って、しまいに銃口でも向けられたりしたら、、、。出ていこうとするロックの余りの真剣さに、冗談ごとではなくゾッとした。それでも何とか対処しなければならないだろうから。

「考えてもみろよ、こんな時にブラディと出くわして見ろ。そりゃ、俺とジミーで逃げるだけは逃げ延びるだろうけど、お前の応戦なしじゃ、一体どこまでルート外れちまうかわかったもんじゃないぜ。ここまで来て寄り道する余裕ないじゃん、な!」

「仲間の容態よりルート保持?冗談じゃねえぞ!俺は、、!」

「ローック!悪かった、言い方悪かったよ。と、とにかくさ、様子見にって、一体どこへ行こうってのさ?まだ落ち着き先もわかんないんだぞ?闇雲に追っかけて、行き違いになって、ワケわかんなくなったら、、」

 バーディが時々口にする言葉が不意にビートの頭に浮かんだ。「ロックって可愛い」。確かにそのようだと、ビートはこんな時に気がついて納得したりする。
 ほおっておきさえすれば、言葉少なく孤独のガンマン決め込んじゃってカッコつけ、シリアス遠い目サマになり。バーディとの付き合いだってそう、寝食共に旅すがらっていうのに、つかず離れずスタイリッシュ。プチにらぶらぶコテコテ丸出しの自分と違って、そのカッコ良さにあこがれる半面、一緒に居られる癖にそんなにクールでいいのかと腹が立ったり。
 けれど、どうだろう、この有り様は。
 フッと、ビートの胸に沸き上がったのは、とても懐かしい感覚。とにかく安心させてやることだ。置いてきた小さな兄弟たち相手に散々やってきたように。

「な、ロック。バーディは病院に向かったんだ。行き先はDD が責任持つって言ってたし、ブルースが付いてれば何だって切り抜けるさ。スージーだってさ、マジ看護師みたいにキリっとしちゃって全然おろおろなんかしてなかったもんよ。それに、、ほら、思い出してみたんだけどさ、、その、血ぃ吐いたっても、そんな、ちょっとだけ、、だったよ。な、きっと大丈夫だからさ。とにかく、行き先が、、、、ああーっっ!!」

「なっ、な、なに?!なんだよいったい、、」

 すぐ側でビートの落ち着いた声を聞きながら、、焦りと不安と、まだ信じられないような気持ちと。ふわふわぐるぐると気持ちをふらつかせて、、話の内容もわかっているようないないような状態で、、、耳の奥に沈んでいくどこか心地よいビートの声だけを聞いていたロックは、突然のすっとんきょうな叫びにそれこそ魂をすっ飛ばしかけた。

「ばっかじゃん俺たち!ロック、操縦室だ。落ち着き先が決まったら絶対、連絡来るに決まってんじゃん!」

「あ、そか。よし、行こうビート!」

「アリ?、、立ち直ってんじゃん」

 ビートお兄ちゃんの優しい呼び掛けはロック・アン・ロックのハートに届いたのかどうか。驚いてすっ飛ばされた魂が、不安と焦りの上澄みを持ち去ったのだとしたら、過程はどうあれビートのお陰には違いなかったが。

「ねー、案外さぁ、単なる貧血よぉ!だってアノ日なんだもん、な〜んて、本人から通信入ってたりすっかもよ?あ!じゃなきゃ、おめでただったのぉ〜とか!」

「ビ〜ト〜〜〜ぉ〜〜」

 コメントのしようもない発想だったが、静と動、陰と陽、、という事だろうか、操縦室へ走りながらいつもの感じを取り直したビートの発言に、救われこそしないが、やはり一人くらい馬鹿が混ざっているのは有り難いとロックは思った。





 
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