【バクシンバードとトレインのゲート】
□☆(疾)某日某所の足跡
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操縦室に通信コールが鳴り響く。彼は戻って来た。ひょいと、、ではなく、疾風怒濤、花の嵐を纏っての帰還である。
『遅くなってすまない。早速サインをしたいのだが、花を添えたくてね。今、ベルナー湖の観光釣り船組合の好意でJJ9 のラインをブイで引いてもらっている。コンテナを借りて、ラーナスタウンの生花市場をカラにするほど買い入れて来たので、サスライガーでひと作業、ラインの内側にコンテナの中身をひっくり返してくれないか。ルート12でそちらへ向かっているが、山越えで時間を取られそうだ。迎えに来てもらえないか』
「はいは〜い。こちらお花もアナタも大好きなJJ9 号。承知したわ、すぐ行くわね」
思いのほか軽い口調を更に引き上げるべく、バーディがトーンを上げて応答し、この星への、思い出への、別れの挨拶に向けて一気に空気が盛り上がる。
「遅いと思ったら、花の買い出しか?忙しいなあんたも」
『ああ、いや、花の方はたまたま市場の前を通りがかって思い付いたんだが、ラーナスタウンへは注文していたハーブティーを受け取りにね』
「はぁ、、、、?!」
ウインクひとつ、他のメンバーを呼びに行ったバーディに代わってロックが応答している。
『旅行に行ったら土産の一つも買うだろう?せっかくだから、50惑星の名産の、それも一級品ばかり揃えてやろうと思ってね。マリ・ディール農園のハーブティーは有名なんだ』
「なにかんがえてんだあんたは、、、」
IC ブルースの頭の切り替わりについていく事ができないロック。
追い討ちをかけるようにブルースが言うには、既にトライを終えた、フリカ星では幻のユニコーン・バードの羽を使ったザンビ族の装飾具、ハイム星では地元の英雄シンザーク・ハイムも愛飲したという銘酒、果てはあの大忙しだった前回のトライの最中には、バクーフ末期の雌雄を決したトーバ・ミフーシ戦で実際使用されたという曰く付きの銃、、、、何かしらの品物をトライポイントの数だけ手に入れているというのだ。
「それは是非、拝見したいものですネェ。ブルースさんのお見立てならさぞ、、、」
他のメンバーと共に操縦室に入った途端、お宝の匂いを嗅ぎ付けて話に割り込んで来たのはリッチマン。
「ああ、もしかしてそれは、来年地球で開かれる惑星物産展と何か関係がおありで?」
湖面を走るサーチライト。赤く刺々しい非常灯の群れ。
湖畔をやや離れた森の中、トレインは対岸の山を超えるべく人の鼓動にも似た機械音を吹き返す。
『いや、そういう訳ではないが、、なるほど、特別に出店させてもらうと言うのも面白そうだな』
おいおい、ちょっと、と、一斉にぼやきの突っ込みが入るが、スクリーンの向こうのブルースはフッと口許で笑うのみ。
『トライを成功させたら、、私が集めた品物にプレミアがつくと思うかい?D ・D ?』
「ええ、そりゃあもう。後はこれから先ソーラープラネッツ社の方でどれだけ盛り上げてくれるか、、それ次第でいかようにも変わるかと、、」
湖上を、山間をすり抜け、主のもとへ鼓動を早めるトレイン。ラーナ星ベルナー湖はまだ闇の中。
『よし、終わったら売ろう』
昔のままじゃないと、、、悲しげに笑った女性は今、冷たい水の中で呆れて、、心の底から笑ってくれるだろうか。道の踏み外し方そのものが、どこか外れてしまっている幼馴染みを見て。
「トライ達成が前提のプレミアだな」
『もちろんだ』
テイク・サスライ・ド・オン、、、、、そしてサスライガーはその手にコンテナをそっと包みこむ。朝が来る前に、、朝が来る前に、、花びらを振りまいて、、、、。足跡のこして、、出発しよう。
朝が来る前に、、。
ーーーーend ー ーーー