【バクシンバードとトレインのゲート】

□☆(烈)酒と団子と天冥桜
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 短い言葉で、彼の埋葬をキャシーとほんの数人の隊士に任せきってしまった事をシュテッケンは詫びた。
 もっとも佐馬之介に最後の別れを告げたいと思う者はかなりの人数に上り、シュテッケンが指示した人数より幾分多くの者が参列したし、この土壇場で与えられた任務の隙間をみてこっそりやって来る者も後を絶たなかった。

「なんだかみんなして、あたしの事をあの人の女房みたいに扱うから、、、へんな感じだったよ。、、それよりさ、、バクシンバードに残ってる整備の人達が、キャッスルのどこに陣取ったらいいか指示が欲しいって。あと、医務室や食堂の連中も、、、これ以上の転戦がないなら、、バクシンバードが戦闘艦として機能しやすい用に、自分たちも、、下りた方がいいんじゃないかって」

 各種の伝達事項は頻々とシュテッケンの元に入って来るが、動乱が最終局面をむかえている今、非戦闘員たちは、シュテッケンを煩わせまいと、ひたすら指示がおりてくるのを待っていた。
 サンタビーダを新天地として、腰を据えると言うのなら、自分たちは一旦バクシンバードを下りれば、烈風隊と切り離されブーヨ・ノモルト下の新体制のどこかへ組み込まれるのではないか、、、、そんな危惧を感じてもおり、今後の見通しについて自分たちから問いかける事を控えてもいた。バクシンバード自体が戦いの場であり、生活の場でもある、、、守るべきものが地べたではない集団の、、不安定さがそこにはあった。
 だが、待つのもここまでの事と、腹を据えた。彼等とてこの事態に於いて何もしないではいられない。この先どう扱われようと、どのような立場に追い込まれようと、烈風隊は烈風隊なのだという意地がある。

「そうか、、、」

 遅かれ早かれ、そのような要求が来ることはわかっていたシュテッケンである。敢えて、指示を先送りにしていたのだが、、、。

「今すぐ指示がないんなら、とりあえずあたし行くね。いつでもキャッスルに引っ越せるように、みんな荷造りしてるからさ、、、」

「キャシー・ルー、、それよりも、、、まずは休んだ方がいい」

 常にビリーに寄り添っていたリリィと違って、彼女とはこれまでさほど身近に接してきてはいなかった。気がつけばどこかへふらりと雲隠れをしていた佐馬之介も佐馬之介なら、キャシー・ルーも神出鬼没。今ここで用を足していたかと思えばもうあちらで雑務を見つけて駆けていく。そんな合間合間に見かける程度の事だったが、兄、イノゲンと隊との不幸な経緯があったばかりとは思えぬほど、豊かな表情で働き回る彼女は、全く印象深いものがあった。視界の範囲に居さえすれば、必ず彼女の存在に気がつかざるを得ないほど濶達だった。

「な、なにいってんだよ、、あ、、あたし、だめなんだよそういうの。ほら、貧乏性っていうか、、何かして体動いてないと、、、。あの、あのね、眠ってはいるよ、それだけはちゃんと。だって、なんだか、、佐馬が、、夢に出てきてくれそうな気が、するからさ、、。だからもし、何か気を使ってくれるんなら、仕事を言いつけてよ。お願いだから」

 憔悴の中でもがく姿は自分と同じである。北アステロイドよりこちら、口を揃えてみんなが休めと言うのに反発して、今の彼女と似たような事を言いはしなかったか。

「仕事の鬼に、働き虫か、、、、以外と、似た者同士だったかもしれんな、、、」

「え、虫が何?」

 だがどうしても、、、シュテッケンには真似の出来ない事がある。やつれたように影を落とす表情の中で、、、赤く泣きはらした痕が残る瞳は、何もかもふっ切って立ち直った者だけが手にする、、証しのように見えるのだ。本人にとってはけしてそうではないにせよ。
 思うさま、存分に泣きはらし、くたくたになるまで泣き通すというのは、どんなものなのだろうか。痛みも想いも消えてなくなるものではない筈なのに、泣いて泣いて、、、その底に何かがあるのではないか、、、。泣き明かしたその顔を上げて、人前にそれを晒して、、、忘れる事が出来る訳でもないのに、、それでもその中で、何かを昇華させる事が出来るものなのだろうか。
 試してみようと、思う事さえ出来ないからこそ、不可解で、そして羨ましくもあり、、、、畏敬や嫉妬といったものまで感じるのだ。
 
 
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