【バクシンバードとトレインのゲート】

□★★(烈)柳に吹くなら風情もあれど
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 定時で夕食を済ませた隊士が三々五々、大食堂から散っていく。
 元の持ち場や次の任務、また交替などで駆けていく者、訓練とは別の、自主トレのための場所取りや、稽古の相手をしてくれそうな腕達者を求めてそわそわし始める者。
 早朝に任務のある者はさっさと部屋へ引き上げるし、夜中に番が回って来る場合は、任務パターンの違う同室者が何人も居る部屋より、むしろ仮眠室へ。
 もちろん忙しい者ばかりとは限らない。自由時間に突入した者も居れば、48時間休暇を得た幸せ者も居る。
 時間が取れた時にやってしまいたい事は山ほどあるのだが、、、夜の自由時間と言えば相場は決まったようなものだ。シティへ繰り出して盛り上がるか、中で盛り上がるか。

「エリック、外いかねえか?」

「残念だなデニス、エリックはいま、金がないってここでぼやいてる最中だ」

「五番隊のロナルド辺りが先刻でかけたみたいだぞ。お前、あの辺の連中といつも一緒だろう?」

「あいつら今夜ヒマだったのか。行き違ったな、、、ああ、もう、やめだやめだ。めんどくせえ、俺もここ座るぞ」

 食堂のそこここで似たような会話がなされ、それぞれにグループが出来上がっていく。
 緊張の中の一時の平和を、皆楽しんでいるようではあるが、、何と無しにどこか抜けたような。
 精彩を欠く、というのでもない。何か足りない。足りない何かを補うような空騒ぎ。
 その正体は知れている。戦いの中にある男が安らぎに求めるものと言えば、酒と、、、、、。
 

 四番隊の巨漢デニスと、親孝行で有名な七番隊の技術屋エリックが居るこのグループでは、エリックが孝行と言われる所以である親への送金の、、、その額を大幅に間違えた事によってとてつもない金欠に陥っているのを散々からかっている。

「あれ?おーい、ディーズ!俺、お前に言ってなかったっけ?今夜は俺達の部屋は使えないって」

 エリックと同じ隊のコウが、食堂から出ていこうとしたディーズら同室者を呼び止めた。

「聞いてないぞ。何だって使えないんだ?」

 呼び止められた方は案の定、数人を連れ立って酒盛りの場所を部屋に移そうとしているところだった。

「実はトッドの彼女が面会に来てんだよ」

「なにーっ?!」

 コウがディーズ一人に耳打ちするのを億劫がったために、居合わせた殆どの者が目を剥いて驚いた。

「こんな時間に面会許可が出たのか?」

「そいつ、いま女と二人きりか?」

 ディーズが引き連れていた者もこちらに加わって大騒ぎである。

「部屋で一番年少の癖して、俺達7人を追い出して女とか?っのやろう邪魔してやろうか」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!伝えるのが遅れて悪かったよ。けど、今夜の所は譲ってやってくれ。明日にはキョーラークから発っちまうんだってよ、彼女」

 17歳のトッドと、1つ下の彼女。幼く純粋な分、上手く立ち回れないから必死である。
 任務が終わり次第、夕食を抜きにしてもシティの向こう外れの彼女の家にバイクを飛ばすつもりでいたトッド。彼が時間が取れない事を知りつつ、いや、知っているからこそ、昼間の内にバクシンバードまで足を運んで、面会時間を会えないまま過ぎてしまった彼女。それでも彼女は、邪魔はしないからと食い下がり、彼の任務が終わるまで、まるで監禁されるように午後の数時間を待ち続けた。

「そりゃあまた、、」

 なんて健気な彼女なんだ。誰も口に出しては言わないが。

「そんな訳で今夜は特別だから、勘弁してやれよ、な」

 同意を求められたディーズに限らず、羨ましさはいや増すばかりなのだが、女、女と、軽く口にする己と比べると、なんとも、、、清涼味たっぷりの薬でも飲まされた気分である。また当事者が若いだけあって、ここはひとつ年長者の余裕で見守ってやらねばなどと、見栄まで出てくる。が、、、。

「それにしても、、今この時間に、可愛い彼女と二人っきりとは、、、、、いいなぁ、、、」

 酒も入ったこの頃合いでは、せっかくの見栄はどこへやら。羨ましさが先にたつ。大男のデニスがおもいっきり情けない本音をあげて場が沸き返り、同時に清涼味もどこかへ飛んだ。

「大体、この時間に女の自由が利かねえのがいけねえよ。面会時間が午後1時から3時だなんて誰が決めたんだ。病院じゃねえって!」

「そりゃ、鬼の、、だろう?刑務所よりゃあマシだろうがな」

「しかしよ、真っ昼間に心配顔で差し入れなんぞ持ってこられて、ベットまで引きずり込めるか?二時間以内だぞ」

「馬鹿野郎、そんな相手が居る奴ぁ、外で会え!」

「それはそれで大変なんだぞっ。安ホテルの駐車場に烈風隊のバイクなんか止めて置けるか?みっともないわ、危ないわ!」

「面会の許可が出るまでが厳しすぎるのも困りものだぞ。あんなに根掘り葉掘りで身上調査まがいの事をやられるんじゃ、それこそ、添い遂げる覚悟のある女じゃなけりゃ来て貰えやしない」

「そうは言うが、危険人物が簡単に入れるようでは命に関わる」

「ああ、、、おんな〜」

 勝手気儘な意見乱立。そんなこんなで際限もなく続く、男所帯の宿命。

「それにしたって、トッドの件、特別にしたってよく許可が出たものだ。どうやったかな」

 呂律の回らない声ばかりの中で、ポソっと呟く者があった。大虎集団に違和感なく溶け込める名人、下戸のロイの平静な見解である。

「確か、、佐馬さんが局長に直談判したとか」

 二人挟んで右に居たコウが、ロイに答えて言いながら、更に三人挟んだ辺りでちびちび飲んでいた佐馬之介に確認を取るように首を向けた。
 
 
 
 
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