J9 基地のゲート2
□Wrap the lupus
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最近お気に入りのマリンテイストのトートバッグの中をそっと覗いて、メイは口元をほころばせた。エレベーターが1階に着く。同じお菓子教室から出てきた大人数人と一緒なので、エレベーターの出入りに用心が要らないのはありがたい。
教室からつれてきた甘い香りを素っ気ないビルのエントランスに振りまきながら、その日だけのクラスメイト達は挨拶を交わして通りを右へ左へと散って行く。
「あなた、お迎えの人が居るのよね?」
「ありがとう、大丈夫です」
アウトローの流れ着くような街であっても親切が絶滅しているわけではない。わざわざ立ち止まって振り向いてくれた女性に、メイはしっかりした口調で答えた。
ところが。いつもなら約束をした時間にプラマイ0と言わんばかりのベストタイミングでブライサンダーが現れるのに、今日は見あたらない。次のエレベーターで下りてきた人たちもすっかりビルから出ていってしまった。
所在なげにこんな所で立っているのは良くない。あと一本エレベーターが来たら教室で顔を見知った人たちも居なくなってしまう頃だ。一旦ビルの中へ戻って連絡をしてみて、、、待つのだったら、次の講座が開かれる教室前の廊下がいいだろう、、、そこまで考えた時、メイは聞き慣れたマシンの音にぱっと目を上げた。
「えっ、アイザックさん?」
目の前にコズモワインダーが止まる。白い大型のスペースバイクから長身の男が颯爽と、、、と、周囲の目には映るだろうが、メイにはヘルメットを外す手つきが少々慌てているのがわかった。
「すまない、メイ。待たせてしまったか?」
ヘルメットで乱れた髪を無意識に頭を振って直しながら、アイザックは少し大きめの街なかボリュームで声をかけた。
「5分経っていないわ。ボウイさんは?」
5分以上は一人で待たない。できたら3分以内。カメラのある位置に立つ。助けを求める場所や相手の目星をつけておく。通信機の状態は正常に保つ。他にも細々とした注意点をすべてクリアしているメイは余裕の笑顔を向けると、手を繋げるくらいの距離までさっとアイザックに寄った。2、3人、女性の視線がアイザックに向けられていたので。