J9 基地のゲート2

□Overflow ーThe second actー
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 まったりとネイルに構ってたお町に文句を言われながらコズモワインダーで基地を飛び出すまでに五分。ポンチョが連絡を入れてきたJ区内の隕石まで五分。巨大歓楽街ビカビカを取り巻いて、J区のきらびやかな光景を成している大小の隕石たちのひとつ。
 そこは単独で隕石を利用している地元民向けのショッピングモールだった。ポンチョのビーコンが地下のパーキングスペースにあるので、俺たちもドームではなく岩石部分に開いたゲートからパーキングへ向かう。混雑はしていない。行儀よくするり、するりと、車や宇宙艇が滑り込むのに続いてゲートを潜ろうとしたとき、先に入った数台が前方でおかしな動きを見せた。

「危ない!キッド、避けて!」

 お町が声をかけてくれた時には俺もすでにコズモワインダーを壁際に寄せようと踏ん張っていた。柱の陰にかろうじて体が押しつぶされない程度に入り込み、頭をすっこめてやり過ごす。何をって、入り口のはずのゲートから飛び出してきたバカ野郎をだ。

「あれって、ガリコネで一番早い機体じゃない!」

 嫌な予感。

「ポンチョ!!今どこだ?十分経ったぞ!」

「ここーっ、ここでげすーっ!あれーっ、アレでげすーっ!連れ去られたでげすーっ」

 バカ野郎の後からよろよろと危なっかしい操縦のポンチョの宇宙艇が出てきた。やっぱりだ。

「アイザック、やられたわ!こっちは間に合わなかった!ボウイちゃん、ガリコネのSS-01よ!ブライサンダーでいける?」

『無理にきまってんでしょーがっっ』

「そう言わずに助けてやってくださいよっ、ねっ、ねっ!相当な記憶力の持ち主なんでげす。それより本人がもう、オメガだろうがガリコネだろうがコネクションは嫌だっ、、って!ね、ねっ?!」

『あーっったくもうっっっ!!』

「アイザック、長期戦に切り替えるか?地味に尾行してさ」

『いや、私たちももう基地を出ている。J区の外輪、00-53から54の宙域で狩る』

 コズモワインダーではちっとキツイ距離だが仕方ない。どこかのガリコネ基地から応援が出たとしても俺たちの狩りが先に終わる、そんなぎりぎりのラインだ。
 ごみごしみたJ区中心部を、俺とお町としては満点に近いスピードで抜け出す。ポンチョがずっと後方からついて来ながら、くれぐれもよろしくとまだ言っている所へ、通信室から様子を窺っていたのだろうメイが割り込んで依頼金の交渉が始まる。とっくに俺たちを追い抜いているブライスターからはずっとボウイが文句をたれているのが聞こえていたが、ここに来てイライラの矛先が依頼金の金額にすり替わったらしく、メイとタッグを組んだので、俺とお町も便乗して、あっちを応援したり、こっちに旗を振ったり。そんなこんなでハンティングフィールド。

「みぃーつけたっ。さすがボウイちゃん、追いつくだけじゃなくて上手いこと誘い込んでるじゃない」

 アイザックの猟場選びも上手かった。直線スピードだけが取り柄のその機体は隕石の密集した区画に追いやられ、どう抜け出そうとしてもブライスターに先回りをされて立ち往生している。とんでもなく上手いのはボウイだ。威嚇のビーム一発すら撃たずにガリコネ機をてんてこ舞いさせたあげく、隕石の一つに自ら着陸させた。
 俺とお町はコズモワインダーで加勢するまでもない。投降して機体から出てきた奴を取り押さえた程度だ。






 ポンチョと二人で保護した男を安全と思われる場所まで送り届け、周辺の状態やいざという時の移動先とそのルートなど、いくつかのことを確認していた俺が一人遅れて基地に戻ったのは、数時間後のことだった。
 大がかりにスライドするゲートは使わず、脇にあるサブゲートをくぐると、格納庫にはコズモワインダーが一台戻っているのみで、ブライサンダーが無い。首を傾げながらセンタールームへ行くと、お町とアイザックがメインの大型スクリーンに見入っていた。スクリーンで点滅している緑の点はブライスター。ちょうど火星軌道に差し掛かる様子が見て取れた。

「なに?あれ」

 スクリーンへ顎をしゃくって説明を促すと、二人は目を見交わして変な間をあけた。先に口を開いたのは結局アイザックだ。

「戻る途中、シンクロンが解除できなくなった」

「なんだって?!」

「おやっさんの都合なんかまっちゃいらんない、このまま直行する!って、、あたしたち途中でほっぽりだされたのよ」

「出されたって、、アイザックまで大人しくほっぽりだされたのかよ?!」

 トラブル抱えた機体にボウイだけ残して?

「ほんとにまずいんならビームロッドでボウイちゃん気絶させてでも一緒に脱出するわよ。ねっ、アイザック」

 言わずに納めた言葉を、聞き取ったかのようにアイザックをフォローするお町はお気楽そうな声。

「信用していいんだろうな?」

「おやじさんの仕事を邪魔しないかが気がかりだよ。私用でレンタルした長距離艇があるから、行ってみてはくれないか。ボウイが納得して帰ってくるまで、どのみち休業だ」

 イマイチ危険度が読めないでいる俺にアイザックはゆったりと肩を竦めて見せた。


 

 
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