J9 基地のゲート2

□寄せたらカエシテ
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「冗談じゃねえぞ、、アイザック!おいっアイザックってば!!」

 二人のやり取りに割り込んだが、アイザックは何を考えてるんだか、ぴくりとも反応しやがらない。シンがこくこくと大きく頷いて入って来た時より元気な様子で駆けて出ていく。完成に俺をスルーして。

「なんだよ、、?いったいどーゆーことだよアイザック!なに?なんかの芝居でもしてんのかコレ!」

 座ったままシンを見送っていたアイザックの視界を遮って目の前で怒鳴っても、顔色ひとつ変えない。アイザックの視線は、出入口から俺を「素通り」してメインコンピューターのコンソールへ戻った。
 ポヨンも、シンも、無視と言うには見事すぎた。違和感はあったさ。目の事で頭がいっぱいで違和感を無視したんだ。
 だけどこれは。
 それでも俺はまだ現実に抵抗した。アイザックの耳元でこれでもかという大声で怒鳴り、目の前で手を振る。
 タチの悪いドッキリ?だったらサイテーだけど、その疑いがむしろ希望じゃないか?
 ここに居るのに、それがわからないなんて!そんな馬鹿な話があるか。
 普段と変わりなくコンピューターに向き合っているアイザックに苛立って、いっそ殴ろうかと構えたとき、ふいとアイザックが出入口を振り返る。あわてて拳を引っ込めつつ、釣られて出入口を見て、、、息が詰まった。
 キッドだ。
 見たくない。キッドの視線が俺を素通りしちまうのなんか。だからって、、目を離せもしない。
 めちゃくちゃ不利なレースに挑むくらいの気力で、俺はそのままキッドを見据えた。不意に予感じみたものが胸の内に湧き上がる。ああ、、そうだ。いつか、もっと酷い何かが起きたとしても、俺はキッドから目を逸らしたりなんか、しない。
 手にした俺の帽子を弄びながら、キッドはアイザックへ近づいてくる。想像した通り俺をスルーして。
 最初のこの瞬間さえこらえたんなら、腹も括れる。息が詰まろうがなんだろうが、もう驚いてジタバタすることはない。アイザックと何やらやり取りをしている霞んだキッドの背を睨みながら、その事を自分の腹に落とし込む。
 息を吐きながら、握りしめていた拳をゆっくり開いて気づく。アイザックを殴ろうかとしていた拳だ。殴ったら、どうなるのか。何もない、誰も居ないと思ってる相手は、殴られた衝撃をどう捉える?

「だったら、、一石二鳥、、やってみちゃいますか、、、、ね、、」

 アイザックで試したって、気が収まるはずがないんだ。どう考えたってキッドで確認したくなるに決まってる。
 いい具合に足を止めているキッドの前へ、俺は立ち塞がった。俺の存在と無関係にアイザックと会話しているキッドの、その唇の動きに気づいて、ちょっとだけ、泣きたいような気分に襲われる。だって、何を言ってるかわからないのに、俺の名前だけ、わかっちまって、、、一石二鳥も忘れてしまうくらい自然に手が伸びる。
 俺、、おまえのこと、触れるのか?
 頬に指が届く寸前、ぴくりとだけびびってから、触れた。そう感じた次の瞬間には、まだ届いていないと感じた。
 まったくおかしな感覚。触れた気がするのに、気がする、だけ?追っても追っても、紙一枚はさんで届いてないような。キッドの体を指が突き抜けてるわけでもないのに。

「だめ、、みたいよ?どーするキッドさん。抱きしめらんねえわ」

 見つめ返してこない瞳。輪郭のはっきりしない頬。そっと捕らえて、唇を触れあわせた。本当に触れているのかどうか、自分の感覚さえアテにならないけど。
 一石二鳥の結果は出た。アイザックの目の前でこんな事をしてもまるで無反応なんだ。タチの悪いドッキリの線は完全に消えた。

「ゴースト?って、こんな感じなんかな、、」

 ジタバタはしない。けどそれは、表面上そう見るようには振る舞わないってだけの話だ。茫然自失。他にどう言いようがある?俺は周り中すべてが霞んでしか見えないし、誰の声も聞こえず、触れることも出来ない。そんで、誰も俺が見えてない。わけがわからない。
 そうだ。わからなさすぎる。過ぎるほどあるワカラナイをどんな地味作業でも減らさないと。
 ゴーストなんて冗談じゃない。言った自分を殴りたい。このままじゃ俺は死んだも同然だ。いや、皆からしたら、俺はある日突然、誰にも何も言わずに出ていった、、、そうとしかならないじゃないか。
 何年働くと契約したわけじゃない。誰かと何かを誓い合ったわけでもない。けど、こんな意味不明な消えかた、、されてたまるかだし、してたまるか!だろ。もしこのまま時間が経てば、そんな情けない有り様が事実になっちまう。



 


 
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