J9 基地のゲート2
□寄せたらカエシテ
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俗にオーバーオールと呼ばれているカプセル形の医療機器から起き上がって、俺はあくびをしながらサイドのワゴンに置いてあった自分の通信機でキッドに呼び掛けた。ここはメディカルルームだ。
しばらく待ったが応答がない。ハズレ感を味わいながら通話をオフにすると、通信機じゃなくてメディカルルーム内の通話パネルが返事をした。
『ボウイー、そろそろ終わったかー?』
オーバーオールから出たばかりのパンいち姿でドアのロックを外す。一応ね、自分の部屋じゃないし?これ使うときは脱がなきゃならんから、ちゃんとロックくらいすんのよ俺だって。
「なんだ、早すぎたか?」
「いま呼んでたとこ。お町っちゃんだったら、いやーん、ちょっと待ってぇー、って言うタイミングね」
服を着込んでいる間に、キッドは俺のデータが基地のメインコンピューターにちゃんと届いているのを確認して、自分が使う準備を始めている。立派なプライバシーの侵害。本当は自分でやるべき作業だけど、ま、キッドならね。
「俺でラスト?」
「そ、終了の操作よろしく。俺ちゃんアイザックのとこ寄ってキッドが入ったって言っとくわ」
キッドが脱ぎ終わるまでちゃんと見物して、俺はメディカルルームを後にした。
血圧、心電図、その他もろもろ。オーバーオール自体はそう大それた物じゃない。生活に余裕がある家なら置いてあるような一般的な製品だ。
もちろん自分達のためのチェックだけど、エドモンのおやっさんにも送るデータだ。何しろシンクロン波をこれほど浴びている人間はここにしか居ない。俺たちからしか取れないデータを渡す代わりに、色々と値引きしてもらう。ザルだろうけど取り引きに近い形だから真面目にやってる。てか、送り忘れた時のおやっさんの小言がまったく厄介。
センタールームをのぞき込むと、ただでさえ大きすぎじゃないかと思っているスクリーンに、どーんとそのおやっさんが鎮座していた。仏教寺院で見かけたあれに似ている。確かキッドはダイブツと言っていた。
「おやっさん、催促すんの早すぎじゃねえ?キッドなんかいま入ったとこだぜ?」
アイザックが振り向いて、少しほっとした顔をした。おやっさんと一対一って、ダンナでも腰が引けんのかと思うとちょっとニヤケる。
聞けばシンクロン波の新しい測定方法を研究中とか。とりあえず健康チェックとは無関係みたい。
『そんなわけでアイザック、手間をかけるが二、三度やってみてくれんか』
「それって、俺ちゃん立ち会う?」
「いや、立ち会いは不要だが、ブライサンダーをアストロアイガーから出してきてくれないか」
「今すぐの話なんだ?」
「ああ、対象物抜きでシンクロン波を数回照射するだけだ。すぐ済むさ」