J9 基地のゲート2

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「ど、、どーすんのコレ?!」

 我に返ってボウイがわめく。いったいどうやったらメイに恥ずかしい思いをさせずに返せるか。そこだ。ついでにこっちも顔を赤くしないで済む方法。

「どうって、、、任せた」

 逃げた。

「おい!キッド!」

 これには本気でカチンときた。冗談ではない。見つけたのも拾ったのも、そもそもこの作業を始めたのもキッドではないか。ふざけんな、だ。すいと飛んで格納庫から出ようとする背をブラジャー片手に追いかける、、と。

『キッドさん!ボウイさん!』

「はっ、はいぃっ!」

 館内放送で頭上から降ってきたメイの声に、ボウイは慌てて手にしたブラを懐に隠し込んだ。

『三十分になりますよ。ちゃんと地に足着いてますか?』

 着いてない。心が着いてない。たった今飛び上がった所だ。懐を押さえながらボウイが見ると、キッドもやはりぎょっとしたようで足を止めてしまっていた。
 ボウイはこのチャンスを逃がさない。一気に飛んで距離を詰め、あっという間に首に腕を回してぐっと絞めた。勢いで激突せぬように足で壁を蹴ってスピードを殺す。キッドは首だけをホールドされて吹き流しのようにたなびいた。

「つっかま〜えたっ!逃がさねえぞコラ」

「ちょ、チョーク!わかったから、まじ、、放せっ、、て」







 朝からの失敗で、メイは朝食どころではなかったらしい。まあそんな日もちょこちょこはある。
 回収した物を放り込んだプラのコンテナボックスを持って、キッドとボウイは誰も居ないキッチンへきた。簡単に済ませられそうな食材を探してボウイが冷蔵庫を覗く。

「夕べのスープ、二人分なら足りそうだぜ。あとは?どーする?」

「なあ、、、朝飯さ、俺がぜんぶやってやろうか?」

 いつもはのほほんとボウイのする事を待っているだけだったりするキッドのそんな申し出に、ボウイが驚かないはずかない。少し遅れて、、つまり何を言われたか一瞬わからなかったので、、振り向くと、キッドはサービス満点の笑顔でコンテナを指差した。

「これ、引き受けてくれたら俺が朝飯つくってやる」

 そう言う事かと頭を抱えるボウイに、キッドはまだ上乗せをする。

「なんだったら今じゃなくてさ、お前の部屋に朝まで居たときに、、、っての、どうだ?」

「う、、こンのやろ〜、、」

 言葉に詰まる。ベッドでだらだらしているキッドにあれこれ世話を焼くのは嫌いじゃない。けれど、やはり逆も経験してみたいではないか。キッドだって別にまるっきりやらないと言う事ではない。サラダに手間取っていたりする時、いいタイミングですっと横に来て手伝ってくれる瞬間とかすごく好きだ。だけど、キッチンに立っているキッドを後ろから眺めたり、ちょっかい出したりも、してみたいではないか。いや、ちょっかいはダメだ。ブラスターの代わりに包丁を突き付けるキッドは嫌だ。
 そんな幸せな悩みに、ちょっと時間はかかったがボウイはNo と答えた。キッドもダメ元だったので、この駆け引きは笑ってお手打ちだ。そして何も解決していない。
 二人はトーストをかじりながらあれこれ考える。お町に相談、、余計にめんどくさそう。シンに、、頼めるはずがない。アイザック、、超とびきりのNGだろう。ポヨンに返却、、そんなばかな。こっそりメイの部屋に返す、、最低。
 いっそNG を承知で知らん顔してアイザックの部屋に放り込む案まで出た。部屋でブラジャーを見つけた時のアイザックを想像して、一時はノリノリな気分になったが、誰がそれをやるのか、猫の首に鈴。

「あーもう!やめやめ!とりあえず俺ちゃん、これまとめて洗っとくわ。タオルもなにも埃まみれじゃしゃーねえし、このコンテナ使いたいし」

「お、おう。頼む」

 棚上げ。後回し。あとでやろうはバカヤロウ。
 この場合、先にめんどくさくなって声をあげたボウイの負けと言うことになるだろうか。自分の部屋に持ち込んだ結果、ますます面倒になって問題のブラジャーだけ部屋に残したまま忘れてしまっても、仕方ないと言えば仕方ない、、かもしれない。


 その白い清楚なブラジャーはまだボウイの部屋にある。
 下着が一枚見当たらなくなった当初、メイは恥ずかしくて誰にも言えなかったが、ずいぶん経った頃になって、お喋りの中でポロリとお町にこぼした。
 下着ドロ疑惑がじわしじわとボウイの足元へ近寄っていったのは、この日の出来事をキッドが完璧に忘れきった、その後の事である。






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