J9 基地のゲート2
□Overflow
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壁面に組み込まれてるバスルームの操作パネルがぴーぴー鳴り出くした。
、、、、アイザックだ?こんな時間に、、、ああっくそっ、だりいとか言ってる場合じゃねえって事か。
「んだよーっ?こんな時間にっ」
さっきから流すばかりでまだなんも洗えてない。映像の機能が無いのをいいことにシャワーも止めずに応答に出た。
『確認してもらいたい映像がある』
「確認?俺がか?」
すぐに折り返すと伝えて、半分がた拭き終わらないまま部屋へ戻ると、ベッドのヘッドボードのパネルを操作してボウイが首を傾げている。
「今のアイザックだろ?俺ちゃんの部屋にはコール来てないぜ?」
つまり、仕事ではない?ボウイは画面に映り込まないように席を外しがてらシャワーへ向かった。もうとっくに俺たちの関係は知っているアイザックだけど、さすがにこの時間での同室生中継はキツイ。まだ寝かしといてやりたかったけど、アイザックのせいでお互い二度寝のタイミング外しちまった。
アイザックのせいではない。こんな時間に起こしてまでアイザックが寄越してきた映像。それを見た途端、シャワーを浴びたのが無駄になる勢いで汗がどっと出た。怒りで。
「ふっ、、、ふざけんなコノヤロウっっ!!!」
手近にある物に当たり散らしそうになるのをなんとか堪えてアイザックをコール。
『どうやら本物のようだな』
本物も本物、ついさっきと言うには時間が経ったが、軌道の曲がるブラスターに追いたてられて切羽詰まってる俺自身の姿だ。それも、逃げ込んだり縮こまったりと、みっともない場面ばーっっかり、繋ぎ会わせやがって!
『ポンチョが見つけて送ってきたので、すべて繋がった。ファビオ・フランコ。この映像をCM 代わりに垂れ流して、自分が改造した銃を売り込もうと言う魂胆だな。ブラスターキッドをこうまで苦戦させたとなると大注目だろう』
冗談じゃねえぞ、こんなもの流されて黙ってられるか。俺をダシにするためにわざわざあんなヤツ寄越しやがって、、、え、待てよ、、
「売り込み、、だと?あんな欠陥品をか?!」
正直ゾッとした。欠陥品にうっかり手を出す間抜けが、たとえコネクションのヤツだろうと、飾っとくだけのコレクターだろうと関係ない。あれを売ること自体、絶対に許さねえ。そのでたらめな商売の片棒を俺に担がせる?いい度胸だ。
アイザックとの通信を繋げたままで俺は身支度を整えた。もちろん、黒。
「もうわかってんだろ?そいつの居所」
準備が整ったから俺を叩き起こした。依頼もないのに俺を焚き付けやがるとは、相変わらず物騒な奴。はは、人聞きの悪い事を言ったが、半端な時間など置かずに知らせてくる辺り、信用している。
アイザックとの話を終えてからすぐに声をかけてやると、ボウイはとうにシャワーを済ませて、壁の後ろでバスタオルを羽織って控えてた。真っ直ぐこちらへ歩いてきて、真っ直ぐなキス。あんなに密で、欲も弱みも晒しまくったセックスの後だっていうのに、あっさりビター味にしかならない。でも嫌いじゃない。こういう感じ、俺たちの相場かもしれない。
「戦闘モード、入っちまってるね」
「ランドリー間に合わないな。服着てこいよ、廊下見ててやる」
「マジで?!同行オッケー?!」
そりゃあ驚くだろう。仕事でもない、俺個人に売られた喧嘩だ。今までならボウイだって誰だって、プライベートの厄介事に関わらせたくない、その一点張りだった。ボウイはどうやって俺を言いくるめてついてくるか、きっと頭の中フル回転で焦ってたはずだ。
けど、今だけの関係なんかじゃなくて、ずっとボウイと居たいと自分で思った以上、俺は見せていかなきゃならない。俺がブラスターキッドである事はJ9 の中だけの事じゃないんだから。
廊下に出て誰も来ないのを確認。すぐそこのボウイの部屋のドアを開けてから手で合図。腰タオルだけのボウイが部屋から部屋に駆け込む。時々やるんだコレ。お互いに。今のところちゃんと見つからずに成功してる。
格納庫に下りると、部屋から出てきていたアイザックがボウイの姿を見て嫌な顔をした。あれでもそれなりに顔に出る。焚き付けたはいいが俺を一人で行かせるのも不安。と言ってボウイを巻き込むのもまた歓迎できない。アイザック自身、白黒つけられていない時の顔だ。
「これを、、」
プラグの付いた小さな部品を渡された。映像を流している一番最初のコンピーュータにセットすれば、どこまでもいつまでも流出先まで追って片づけてくれると言う。
「ドク・エドモン作品?この世にコレ一個みたいなシロモノ、俺、払えねえぞ」
「ブラスターキッド恐れるに足らず、という噂が出回るのは、こちらとしても厄介な事態を招きかねん。依頼はなくともその意味で必要経費」
ああ、そういう理屈で固めてきたか。J9 に俺がいるのは証拠こそ掴ませないが、裏社会では周知の事実だからな。
「人員まで貸し出したつもりはないが?」
「俺が個人的に頼んだ。ボウイも個人的に応じた。現場まで運んでもらうが、それ以上はない」
「屁理屈すきだねー、ふたりとも」
ボウイがのんきな声をあげながら、アイザックの肩に手を乗せるようにしてすれ違い、ブライサンダーに収まった。アイザックはきっと、のんき以外のものを肩で受け取っただろう。