J9 基地のゲート2

□Overflow
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 広い駐車場の真ん中あたり、ブライサンダーの横でボウイが立っているのが目に入る。そわそわもキョロキョロもせず、ただ、立っている。
 ルチアーノと会った射撃場へ通いはじめて三日目。とうとう呼びもしないのに迎えが現れた。
 まあそうなるだろうとは、思っていた。
 お調子者で、うるさいくらい口数が多くて、いちいちオーバーアクションで、、、軽いヤツかと思っていれば、ウェットでヘビィな裏もあり。今にして思えば俺がキタイしたのはハードでライトな関係。キタイは裏切られはしなかったが、ヤツの本音は生涯をかけちまいそうな俺には重いロマンス。
 それでも、、、、。
 ボウイの立ち姿に見惚れる。誰も居ないうら寂しげな場所で、独りで居る事がさも当たり前のように、虚勢ではない自然体の孤独感みたいなもの。独りで居る時のボウイの、本人にはきっとなんの事はない姿は、俺からするとけっこう惹かれる。

「呼んでねーぞ!」

 カツンと一歩踏み出して声をかけると、せっかくのセクシーさも放り出してオーバーアクションが返ってくる。

「いーじゃんよ。ちょい飛ばしてきた帰りに顔見せたってー」

 軽い声がコンクリートに響く。

「俺ちゃん晩メシ済ませちゃったけど、どっか寄ってく?」

「どうすっかな、、」

 喉は渇いたけど、別のものが欲しい心境。気づいたわけでもないだろうに、、すっと髪に触れようと伸ばしてくる腕を軽く交わす。

「なあ、同じ射撃場に連日はさ、、、」

「わかってる。そろそろナ」

「もしかして、、、もう遅かった、てヤツかも」

 ボウイの視線が俺を通り越してずっと後ろの一点を見ている。薄々は感じていた。駐車場の真ん中へ向かって歩き出した辺りから、誰か居る事は。
 振り向けば無造作に手にした銃を隠しもせずにゆっくり近づいてくる男。見たことの無い銃。貧乏くさそうなコートを着てやがる。

「ブラスターキッド。アタリだよな」

 そっちの名を先に出すなら軍じゃない。

「プライベート?ビジネス?」

 ボウイがブライサンダーのロックを解除して備える。

「ビジネスの方だ」

 ふん。だったらボウイが加勢しても文句は言えない。相手も、俺も。

「アンタの名は?」

「言ってもわからねえよ。これからメジャーになるところだからな、お前を殺って!」

 男が最初の引き金を引く。だが、その銃口が完全に的はずれな壁の方を向いている事に虚を突かれた俺は一瞬遅れをとり、最初の一閃で男を止める事はできなかった。
 そしてとんでもない事に、壁に向けられた筈のヤツのブラスターの光跡は、俺たちの真後ろにあるブライサンダーの車体に弾けた。

「なっ、、、なにーっっっ?!」

 わめきながらボウイはブライサンダーを盾に出来る側へ飛び退いた。俺もすでに反対側の車列の隙間に入り込んでいる。
 二本目、三本目のラインが弧を描いて走り、ボウイを狙う。ゲスが。ターゲットは俺だと宣言しといてソッチが先かよ。

「きっ、キッドさんっっ!アリなの?!コレって!!」

「知るかよ!けど目の前に実在してる!」

 軌道の曲がるブラスター。
 物陰から狙撃もせずに、こちらが二人なのも承知で、わざわざ姿を現すわけだ。

「ボウイ!中入ってろ!」

 ブーイングを出しながら、それでもボウイは俺の作ってやったタイミングを汲んで車内に飛び込む。予備のカートリッジを三つばかり俺の足元へ滑らせておいて、ブライサンダーは俺と相手の間に割り込んで前後左右にダンスを披露する。
 目眩ましにはなっても曲がる軌道が相手では、柱だろうがブライサンダーだろうが、盾として役に立っているのかどうか。俺自身、いったいどの方角から身を隠せばいいのか混乱しながら、間に合わせの反撃しかできていない。
 ふいに、ブライサンダーは男が身を潜めて居る方へ真っ直ぐ向き直したかと思うと、見事に正確な幅を保ってジグザグ走行で突っ込んでいく。車体へのダメージがぎりぎり許せる距離まで行くと、今度はバックでジグザグをやって戻ってくる。
 うまいスケールだ。おかげでブラストラインの曲がり具合が推測できた。途中で急に曲がるわけじゃない。そしてどれも同じカーブ、単純だ。
 戻ってきたブライサンダーを軽く叩き、停止を指事。反撃。車体を盾に右側からと左側と。ダミーで適当な位置からと。繰り返すうち、ヤツの狙うポイントが段々と体に近づいてくる。だがこれ以上は無いはずだ。
 あとほんの僅か、カーブの角度が欲しくて堪えきれなくなった男が移動を試みた瞬間を俺は捕らえた。
 俺のブラスターが相手の左足を貫いたのとほぼ同時、やや高い独特な音を上げて男のブラスターはアクシデントを起こした。

「あーっ!!くそっ!」

 この俺が見るのも聞くのも初めてという曲線を描くブラスターは失われた。念のため用心しつつ近づいたが、男は事切れている。使い方次第ではかなり危ない事になってた筈だ。頭の悪いヤツで助かった。

「うぅー、、ん、、」

 すぐに走り寄って来たボウイが唸る。男の右腕は付け根から吹き飛んでいた。

「初めてだっけ?暴発見るの。忘れんなよ、こーなるんだ」

 写真を数枚撮ってから、致命傷になったかもしれないブラスターの破片を男の首から抜き取る。DNA 確保。それと、このブラスターの素材。分析出来ればどのメーカーのボディがベースなのかくらいわかるかもしれない。

「身元の知れない奴の血とか、わざわざ素手で触るなよ」

 ブライサンダーの車内に収まると、ボウイはすぐに俺から血塗れの破片を取り上げて車用のウエスに包んだ。俺の手に消毒薬を吹き掛け、懇切丁寧に医療用ペーパーで拭き取っていく。

「いいから出せって。人が来る」

 すぐそこの基地までの距離がもどかしい。目を会わせないように窓の外を向いてやり過ごす。今夜、、、やばい。






 
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