J9 基地のゲート2
□Wolfs take a VANILLA
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ジャン・ビーゴの愛人リタが、ウエストJ 区から地球のビーゴの元まで自分を送って行って欲しいと依頼してきた。特に荒っぽい事があるわけでもなく、単なる足代りとして。
「暇だったからいいけどさー、姐さんが出歩く度にタクシーやらされちゃたまんないぜ?」
「今回だけよ。ちょっと急いで帰りたいの。あなたたちに頼めば地球でも月でも直行だもの」
J 区のお高いホテルの前で、パーティにでも出席したのか落ち着いた光沢のあるブラウンのドレス姿の彼女を拾って、そのまま地球へ向かうブライスターのコクピット内。下部ハンガーの隅で素早くスペーススーツに着替えたリタは、アップにしていた髪も下ろして、どうやら地球まで眠るつもりのようだ。
毛布を片手にお町のシートに収まったが、ふと興味深げにナビコンソールを見ている。
「目的地の入力って、、コレかしら?」
「はいはい、お客さんはお手を触れずに願いまーす。で、地中海だっけ?」
うっかりすると本当に操作してしまいそうな板についた手付きに、キッドがおどけながらも内心あわてて制止する。
「そう、アラッシオ・マリーナ」
四人でかかる仕事でもないとアイザックは居残りを申し出て、お町もそれに倣った。
十代の男子が二人に、年齢不詳な年上美女一人。一度は同じ修羅場を潜った間柄ではあるが、お町ほど慣れた相手でもない。その女性がすぐそばで着替えたり寝たりというのはどうにも緊張する。リクライニングしてあるナビシートの方を、ちら見しては軽く深呼吸して前に向き直るボウイ。そのボウイを見てニヤニヤしながら、立ち上がって見に行くわけにもいかずに落ち着かないキッド。寝ているとばかり思っていたリタが「ねえ」と、声をあげた時には二人揃って飛び上がりかけた。
「耳栓しているから、音楽を聞くなりお喋りするなりしていて構わないのよ?」
コクピット内の空気はすっかりリタが主導権を握っている有り様だった。
そのマリーナは、小高い丘を持った、岬と言うにはやや緩やかな突端の東側に位置していた。突端を回り込んだ向こうには小さな漁港と、西へ西へとまっすぐに延びたビーチ。
山の影が町を覆い、ほんの少し港の端にかかってくる頃合い。ボート牽引用のトレーラーが付いた車がちらほら並ぶマリーナの駐車場でブライサンダーから下りたリタは、桟橋の方へ歩き出した。陸置きされたヨットたちの横をどんどん歩いていく。
「迎えはどこに来てるんだって?」
ジャン・ビーゴの現れぬうちに一人にして置いていくわけにはいかない。肩をすくめながらリタの後から付いていけば、プレジャーボートの並ぶ一角に入り込んでいた。
「ジャン!!来たわよー!」
唐突にリタは海に向かって声をあげ、大きく手をふりながら走り出す。海へ、ではなく、そこへ係留されている中でも一番大きいかと思われるプレジャーボートへそのままひょいと飛び乗った。
「もしかして、、、」
「ぅわ〜おっっ!!」
派手な南国柄のハーフパンツ姿のジャン・ビーゴがキャビンから現れ、アフターデッキでリタと熱々の口づけを交わす。
「、、うわーぉ、、、」
「ジャン・ビーゴ!あんた、一文無しになったって言ってなかったか?」
「文無しだとも!今じゃコイツが家がわりさ。ようこそヴァニーユ号へ。まあ、乗れや小僧ども」