J9 基地のゲート2

□Open sesame
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 背後から殴りかかってきた男を難なく交わし、多々良を踏んでいるその男の腰に渾身の回し蹴り。盛大な音を立てテーブルを巻き添えに倒れる。
 その蹴った足が地につくか着かないかの絶妙な隙に横合いから繰り出された拳を、かなりギリギリの所で避け、しかし逆に懐に飛び込むようにして一発。
 これで床に転がっているのは三人になった。残る二人は悪態もつかずに無言でナイフを取り出した。思ったよりは喧嘩慣れしているらしい。闇雲に振り回すだけなら二人でも問題はないが、連携がとれるレベルだと面倒だと、キッドは思った。
 が、次の瞬間キッドは別の意味で舌打ちをした。
 一対複数の喧嘩騒ぎが繰り広げられるバーに、新たな客が来店したのが目に入る。

「やめーっっ!ストップ!!そこまでっ。兄さんたちバカか?あんだけブラスター目立たせてる奴に向かって、なんだってナイフなんて振りかざしちゃうわけ?撃たないとでも思ってんの?」

 店内の有り様を見た途端にそこまで一気に捲し立てたのはボウイ。

「いきなり首突っ込んでんじゃねえ!」

「ほらほら、こっち向いたら背中から撃たれるよ?」

「う、、」

「水差すんじゃねえよ、ボウイ」

「くそ、仲間か。仕方ねえ、終わってやるよ!」

 床に倒れている男を一人づつ担いで、二人は店を出て行った。J 区にしてはなかなかスマートな喧嘩の心得を持った相手であった。
 ドアから首だけ出して、出て行った男たちをしばらく見送ったボウイが店内へ戻ると、キッドはのんびりとストレッチなどしている。

「手伝いなさいよっ、か・た・づ・け!」

 倒れたテーブルは一つだけで、店への被害は大きくないようだった。年輩のマスターと、一人しか居ないらしい店員がせっせと片付けにいそしんでいるが、、。

「ボウイー、これ、どーやって片付けたらいいと思うー?」

 キッドが床を指差す。そこにはもう一人、転がったままだった。

「はあっ?なにこれ、置いてかれてやんの」

「ちがうちがうー。こいつとー、あいつらはー、無関係」

 暴れて酔いが回ったせいか、それとも別の理由か、少々呂律の怪しくなっているキッドに、ボウイはマスターから奪ったモップを突きつけた。

「で、マスター、どっちが先に手ぇ出したん?」

「そりゃ、、、」

 と、マスターはちんたらとモップを動かすキッドへ向き直った。

「あんたはこれで三回目だ。知ってなすったかね?ウチの店のルール。三回目をやったお客には弁償してもらうってね」

「えーっ!」

 寝耳に水だった。最初にうっかりやらかした時、何一つ文句も言わずに心配してくれたのが印象に残って度々使うようになった店だったが、そんなからくりとは思わなかった。

「ひでーよ、マスター。最初に言ってくれよーっ。三回?ほんとに俺、三回もー?」

 最初に言ったらそれ切り来店しなくなるような事を言うはずが無いと、ボウイは横でケタケタ笑う。若い店員はもう通常の仕事に戻っていたが、自分が働くようになってから本当に三回目をやった人を見るのは初めてだと、妙にウキウキしていた。
 一番嬉しそうなのはマスターだった。破損したのは食器程度だったが、どさくさで食い逃げされたなどの損害を三回分まとめた上で、ポリス沙汰にはならなかったからと、割引を入れて十万ボールと言い出した。こんな良心的な値段では文句も言いづらい。

「間違いなく三回目ですな。録画とってあるから確認なさるかね?」

「録画?、、、見たいなソレ。な、キッドさん、俺ちゃん最初の時、参加してっから、、、三、、出すからさ、ゴネてないで早く帰ろうぜ」

「思い出したっ。元はと言えばお前がカギ束なんか下げてるのが原因じゃんか。三でも五でも出しとけ」

「は?なんだ?カギ?」

「そいつもぶら下げてんだよ。カギ束。じゃらじゃら言わせて近づいて来るから、てっきりお前だと思っちまった」

 床に転がったまま捨て置かれている男の腰にも、確かにボウイのと変わらないようなカギ束があった。







 
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