J9 基地のゲート2

□Rare and Hope
3ページ/3ページ




 効果のない文句をいくつか垂れ流しつつ車内に収まる。行き先をあれこれ考えながらゲートを出ると、物言いたげな視線。

「なに?」

「ほんとに俺、行っても平気なのか?、、、だから、その、女と約束してた、、とかじゃ、ねえよな?」

 えっ?ソコ、そんなに気になってた?て言うか、中途半端な遠慮なんてしちゃって、、意味ありげに可愛いんじゃないの?
 思いがけずイイモノ拾った感じ。こんな時、俺に約束が有ろうが無かろうが、じゃあな、と、簡単に手を離すのが常だったのに。

「ラスプーチンの所で、、何かあった?」

「べっつにー。そっちこそ、何かあったみたいな顔してるけどな」

「べっつにー?」

 ニヤニヤと探りを入れながら自分はすっとぼけていると、キッドもまた同じような顔つきをしていてお互いに吹き出した。

 結局、手っ取り早くビカビカに降り立ち、キッドの足任せで適当な店を選ぶ。外れナシでいい店を選びたかったらお町に教えてもらうのがいい。キッドは面白い。その日その時によって。静かな店、賑やかな店、明るい店、暗い店、、ドアを開けてBGM を聞いてから決める事もある。
 今日は暗めで賑やかな店になった。騒がしすぎてBGM は聞こえやしない。案外と小綺麗にしていて、ベタつきもない白がベースのカウンター席。食べ終わった頃、キッドはいきなり宣言した。

「決めたっ。俺、今日はこのまま朝まで遊び通すから、先に帰ってていいぞ」

「帰っ、、、えーっ?ひとりで?誘ってくれないワケ?」

「そ、だから、、今夜はお前の相手、してやらないけど、ふてくされんなよ?それと、ナンパだの浮気だのも無いから、安心しとけ」

 俺はしばらくぽかんと口を開けたまま、、うまいこと言葉が出てこなかった。あんまりビックリし過ぎて。

「どう?おとなしく帰る気になった?」

「それは、いいけど、、、珍しいね、そんなコト、前もって言うなんて、、初めてじゃないか?」

 断られてるのに、帰れとか言われてるのに、なんか嬉しい。
 キッドが部屋の中以外でその手のハナシするのも初めて聞いたし、先手を打ってフォローするなんて。フォローするってこと自体、これまでと真逆だろ。なんたって浮気奨励してくるヤツなんだから。
 やっぱりラスプーチンの所で何かあったんじゃないかと口を開きかけた時、キッドが俺の座ってたスツールの足かけをちょいと蹴って、くるりと、スツールごとキッドへ向き直らせた。
 キッドが席を立つ。もう店を出るのかと思いきや、、、なんと、、キスされた。
 けっこう思いきった早さで唇を合わせてきた割りに、落ち着かな気な、短いキスをして、離れる。
 次から次へ、いったい何が。
 カウンターの中の店員も、隣のヤツも、すいと顔をそらす。いい店だな、、、。
 んな事どーでもいい。これまでガッツリしっかりドアが閉まった内側でしかキスなんて、、、。これでもかって言うくらい目を丸くしてキッドを見れば、自分からした癖に顔を赤くして、それでもはぐらかす訳でなく、視線を合わせていた。
 釣られてこっちまで赤くなりそう。二人して赤くなってたらまるでローティーンみたいになっちまうので、ゆっくり、、瞬きをひとつして、うまいことやりすごせた。

「なら、俺ちゃん先に帰ってるわ。迎えが要るようなら夜中でも朝でも叩き起こしていいからね?」

「ああ、サンキュ」





 キッドの数々の謎の行動は謎のまま、こっちからはもう追究しない。何かあるには、あったんだろう。
 でもきっと、たいした事じゃない。俺が見た夢と同じように。
 そらさずにちゃんと俺を見ていた。勢いやノリなんかじゃなく、赤面してまで人前でキスしてくるなんて。あれは相当、頑張ったんじゃないかと、、思う。
 恋愛の意味で付き合ってるのは誰にもバラさない。浮気やアソビは容認どころかむしろ奨励。そんなキッドの要求にうっかり慣れきってしまう所だったけど、もしかしてコレ、、、覆せる可能性、、少しは期待していいのかな、、、。
 そうは問屋が下ろさねえ、、と、言わんばかりのキッドの顔も思い浮かべてはいるけど、俺はおとなしく待ってていいんだと、このままずっとキッドを想っててかまわないと、そう思わせてくれたあの視線を信じておこう。


 ともあれ、キッドが色々と珍しい事をしてくれたので、対抗して何か珍しい事をしたくなった。
 そうだ、今夜はいい夢を見よう。キッド抜きの。どうだ、ものすごく珍しいだろう。





 あれーっ?
 ラスプーチンがバラしたアイザックの昔の事、まだ聞いてねえ!
 き、、気になって眠れねえ、、、。








ーーーーend ー ーーー

 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ