J9 基地のゲート2
□ピンクのタオルとAsterと
2ページ/6ページ
「やっぱりアイザックさん恥ずかしかったんだね。みんなの前だったら、自分のだって言わなかったかもしれないよね。さすが姉ちゃん」
「そうかな、、」
「なーんか変な感じだったわよね」
「いーんじゃねえの?受け取ったんだから奴のって事で」
何か外されたような気分を抱えながら、それぞれに解釈をする面々だった。
部屋に戻ったアイザックは、食事の時に外したマントをベットへ放ると、珍しく自分もそこへ座り込んだ。
渡されたタオルを愛しげに撫でる。
衛生的にきれいであるし、痛みもないが、お世辞にも新しいとは言えない。何度も洗濯を繰り返したタオル特有のゴワゴワした手触り。
大事な品だった。あまり使わないようにはしていたが、全くしまいっぱなしもよくないだろうかと出してみたのだ。置き忘れは反省点だが。
「、、本当に、、」
呟いてまたタオルを撫でていると、シュンと前触れ無しにドアが開いた。
「ボウイか、、」
アイザックの手元にタオルを見て、ボウイはすぐに切り出した。
「それさぁ、ほんとにダンナの?」
「、、とにかく入れ」
ため息まじりの穏やかなアイザックの苦笑に、ボウイは嬉しそうに舌を出して従った。
「で?それでそれで?」
回りくどく様子を窺う必要は今はない。とりあえずこうして来てみて、アイザックを見ればわかる。
首を突っ込まない方が良さげな事なら、たいていキッドあたりが一声、制止をかける。だが今日はお町も含めてタオルの真相に興味が有りそうだった。尤も、どんなに本気で制止をかけられようが、首を突っ込む時は突っ込むのがボウイだ。
「このタオルは、、、」
半分にたたみかけたタオルを広げてアイザックは言った。
「メイの、、、だったんだ」
「え?だって、、だった?」
「そう。ところでボウイ?」
「ハイハイ。誰にも言わないよん」
調子よく返事をしてアイザックの頭をくしゃくしゃと撫で、改めてタオルを手にして眺め回す。
どうも返事が調子良すぎて怪しいものだと思いながら、アイザックは話始めた。
双子がアイザックと生活を始めて、まだ間もない頃の事だ。
話のはずみでアイザックの誕生日を知ったメイが、珍しくぐずった。誰もお祝いしない誕生日はおかしい、と。仕方なくアイザックは、自分の誕生日用のケーキを買って来て、それらしく整えた。
「さすがに恥ずかしかったよ。自作自演みたいで」
「じゃあこのタオルって、、」
「その時のメイからのプレゼントなんだ。本当に来たばかりで、二人とも漂流していた時の荷物しか無かった。だから、、」
「二人の、、両親との思い出の品でもあるか。じゃ、二人とも忘て、、?」
「ああ。、、、、そういうもの、、なんだろうか、、」
アイザックは遠ざかるものを見送るような複雑な面持ちで、ボウイの手にあるタオルを見つめていた。それからはっと、ボウイを見上げ、、小さく謝った。
タオルをプレゼントした事も、そのタオルが両親と繋がる品だった事も、双子の記憶からいつのまにかやんわり消えていた。少なからず驚いたからと言って、孤児院出身のボウイにそれを言ってどうなるというのか。
けれどボウイはあっさり言った。
「そういうものなんだよ。知らなかった?溶けるって」
「溶け、、」
逆におかしな事を切り返されて面食らったが、確かに自分の記憶を何歳まで遡れるかとなるとあやふやだ。
6才、始めての教師、、イメージしか思い出せない。
5歳、母が小鳥を買って来た。その小鳥がいつまで居たか思い出せない。
それ以前となると、自分が何歳の時の記憶なのかも判然としない。
衝撃を覚えるほどの曖昧さだ。
「俺だって気づいたら、セントヘレンで一人前ぽいツラしてた。それより前なんか知らねえ」
「そうか、、」
「けど俺、シスターのお説を信じてるからね」
「説?さっさの、溶ける、か?」
「親の記憶が無いのは、俺の中に溶け込んでひとつになったから、だってさ」
アイザックのとなり、ベットに腰を下ろしてタオルを返す。
親の面影ひとつすら覚えていない自分への悔しさや、情けなさ。それは自分とひとつになっているからと言われるのは、救いでもあるが、反発ももちろん感じた。あるのなら、取り出してこの目で見たいのだと。
しかし、他の子供にも同じように言うシスターの言葉を、繰り返し聞くうちに、すっかり信じている自分がいた。それを聞く度に自分の年齢は上がっており、受け取りかたに、成長という変化が加わっていった。
「このタオルも、、」
「そだね、溶けちゃった」
自然にとけたものをわざわざ切り出す必要はないとボウイは思う。溶けた何かは、きっとしあわせなのだ。
「こうして目の前に居る相手とはさ、とけてひとつになんかなれないんだから」
真顔の至近距離で言われてアイザックはいきなり吹き出した。
「なっなんだよソレ!」
「いや、すまない、、想像したら、つい」
「何をさ?」
「いや、、だから、、」
口ごもるアイザックを見ているボウイが、みるみる赤くなる。考えてみればあまりにも濃密なセリフだった。
「だーっ!もう!ばかばかしいっ」
腹いせにアイザックをベットへつき倒して立ち上がる。
「頼むから、とけてひとつになる相手は間違えないでもらいたいな」
思いの外、大きな声でそんな事を言うアイザックに驚きながら、ボウイはしかめっ面で部屋を後にした。
ーーーーend ー ーーーー
2014 年8月。すいません、コレ、続きを考えてみます。
2014 年9 月。書きました。タイトル未定→決定しました。
次のページから続きをどうぞ。。