J9 基地のゲート2

□ピンクのタオルとAsterと
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「あ、ボウイさん見ーつけた。クッキー焼いたからおやつにしません?」

「廊下の向こうから香ばしい匂いをたどってやってきましたよん。あれ?どこに持っていくの?」

 アイザックの好みを思わせる華奢な細工を施された丸い銀のトレーを持ったメイは、普段皆が集まりやすいメインリビングを通りすぎていく。

「今日はシンの部屋で食べるの。実はわたし、シンのプレパラートをたくさん割っちゃって、、お詫びって言うか、、」

 恥ずかしげに首をすくめて笑う。

「あらら、ガラスで怪我なんかしてない?」

「ええ、ありがと。シンもそんなに怒ってる訳じゃないから、みんなで食べようと思って」



 メイの部屋と隣り合っている弟の部屋へ二人が着くと、ベットにはお町が、床にはクッションを抱き抱えたキッドが直に座り込んでいた。

「あ、姉ちゃん、もうみんな来て待ってたよ」

「なんだ、お前も来たのかよ。見つからなきゃ食わせなくて良かったのに」

「ひっでー。わざと探そうとしなかったってか」

 肯定するようにニッと笑うキッドにボウイが突っかかり、キッドがまた反撃。
 そんな事をしている間に、お町が持ち込んだ折り畳みの小さなテーブルには、部屋主らしい気遣いを見せてシンが飲み物を用意していた。

「やっぱりメインリビングの方が良かったかしら?」

「いいじゃない、たまには。なんだかおままごとしてるみたいで、カワイイわよ」

 どうにもモゾモゾするような気恥ずかしさでキッドとボウイは見交わしたが、クッキーはままごとなどと言えないくらいの出来映えだった。

「あ、そういや、トレーニング室のシャワーの所にちっちゃいタオルが置きっぱなしだったよ。メイちゃんのじゃないかな?」

「え、わたしの?」

「うん、ピンクのカワイイやつ。あ〜持って来りゃ良かったね」

「いえ、ありがとう。後で取ってくるわ」




 夕食の仕度前、思いだしてトレーニング室へタオルを取りに行ったメイだったが、、、。

「やっぱり、、、わたしのじゃないわ、、、」

 ボウイに聞いた時から変だとは思っていた。ここのシャワーを使ったのはかなり前の筈だった。
 玉葱剥いて、人参切って、ピーマンだって遠慮なく入れる。メニューは酢豚。中華ならレシピが無くてもなんとか。
 火を使う前にと思い立って、キッチンの通話パネルをお町に繋げた。

「ええ、そう。ピンクの花柄で、真ん中に白いウサギさんが描いてあるんだけど、、」

 お町の持ち物にしては子供っぽいのはわかっていたが、案の定ちがうらしい。

「えー、、、?お町さんじゃなかったら、誰?」

 他の部屋より少し汚れている通話パネルをついでに拭きながら、メイは困惑していた。

「えっ?俺な訳ないだろ」

 珍しく早く来て配膳を手伝っているキッドも、当然のように否定した。

「ですよね。ボウイさんだったらわざわざ言わないだろうし、、、」

「俺ちゃんが何?どしたん?」

 ひょいと現れてサラダのハムをつまみ食いしたボウイも、タオルの件を聞くと首をかしげた。

「シンじゃないんだろ?だったら、、、、アイザック?」

「えーっ、無いだろうよソレは。ピンクのウサちゃんだぜ?」

 あまりにそぐわない持ち物に、3人とも珍味な顔になる。

「ねーねーキッドさん、本当の所はどうなん?誰か女の子にプレゼントされたとか」

 メイに聞こえないようにこっそり耳打ちしたボウイは、ギリギリと耳を引っ張りあげられた。

「ね・え・よっ」

「姉ちゃん、アイザックさん帰って来るよ!一緒に食べられるって」




 食事の最中、ボウイやシンはちらちらとアイザックを窺うし、キッドとお町も目を会わせると笑いそうになるので、わざとらしく視線を外しては堪えていた。
 もう他に誰も居ないのだから仕方がない。
 あとはメイがいつあの可愛いタオルを持ち出すのか、気になってしょうがない面々だが、彼等の顔付きを見て、大っぴらにアイザックに恥をかかせるメイでもない。
 外から帰ったばかりとあって、ゆっくりお茶を楽しんでから席を立ったアイザック。メイが追って廊下に出た。

「あの、、、!」

 開いているドアの内側に、複数が張りついている気配はするが、出てきて口々にアイザックをからかうのでなければ、まあいいかしらと、メイはタオルを取り出した。

「これ、トレーニング室の忘れ物なんですけど、、、アイザックさんのですか?」

「、、、、、」

 アイザックは一瞬ハッとしたような素振りで、タオルを受けとるかに見えたが、途中で手を止めるとメイの顔をまじまじと見つめた。

「え、、、あっ違いますか?」

「いや、、そうではなくて、、」

 タオルを受けとるでもなく、アイザックは曖昧な返事をした。

「、、?、、みんな違うって言うので、、、じゃあ誰かしら、、、」

「いや、いいんだ。私のだよ」

「そう、、なんですか?」

「すまなかったな、手間をかけて」

 ようやくタオルを受けとったアイザックは、何か言いたげに廊下の端で一度振り返ってから自室に姿を消したのだった。



 
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